テレビ朝日が「会話型AI」で目指す“視聴者との新たな関係性” 
05JUL

テレビ朝日が「会話型AI」で目指す“視聴者との新たな関係性” 

編集部 2017/7/5 07:00

テレビ朝日が、「会話型AI」の導入準備を進めている。その意図するところが、2017年5月29日~6月1日に六本木の東京ミッドタウンで開催された「アドバタイジング・ウィーク・アジア」のトークセッションで明らかにされた。セッションのテーマは、「AIは、テレビと視聴者のコミュニケーションをどう拡張するか」。

参加したのは、会話型AIのプロジェクトに関わっているテレビ朝日の中川卓也氏と、マイクロソフトディベロップメントのシニアプログラムマネージャー藤原敬三氏、株式会社エム・データ取締役の薄井司氏。進行は、博報堂DYメディアパートナーズの森永真弓氏が務めた。

■テレビ局に迫られる“視聴者とのコミュニケーションの変化”

森永氏は、「テレビ局が、コミュニケーションツールとしてAIを導入するにあたり、3つの使い方がある」と解説する。

(1)番組制作自体に活用するAI
(2)視聴体験をリッチにするAI
(3)放送と放送の間を埋めるAI

(1)は、番組のコンテンツにAIを取り込むものであり、(2)は、視聴時にさまざまな情報や体験を提供するものになる。

今回、テレビ朝日が取り組もうとしているのは(3)のAI。これは、視聴時以外の時間にファンをつなぎとめておくためのものである。

昨今はリアルタイムに番組を視聴する人が減少。その一方で、録画やオンデマンド配信などを利用し、自分の都合のいい時間に番組を楽しむ人は増加している。従来、テレビ業界では特定の曜日・時間帯で、一過性のつながりをいかに強くするかという「FLOW」型のコミュニケーションが重要だった。しかしこれからは、番組やコンテンツのファンと常にコミュニケーションできる状態を保つこと、つまり「STOCK」型のコミュニケーションが求められるのである。

そこでテレビ朝日の中川氏は、視聴者がいつでも自由にコミュニケーションできる会話型のAIに注目したのだという。

■AIによるダイレクト・マーケティングに期待

会話型のAIには、2つの方向性がある。1つは、「コンシェルジュ型」。これは、Q&Aによる課題解決を目的とする。もう一つは、「コミュニケーション型」。これは、自然な会話を続けるなかで、番組やコンテンツへの興味の向上を目指している。今回、テレビ朝日が取り組むのは後者だ。

視聴者は、女子アナウンサー「あさこ(仮)」というキャラクターと、日常的な会話を楽しみながら、折に触れて番組やコンテンツの案内に接することができる。中川氏は、「AIのキャラクターと、擬似的な信頼関係を結んでもらうのが狙い。そうすれば、こちらのPRが“ステマ”と感じられにくくなり、ダイレクトマーケティングも可能になる」と効果を期待している。

森永氏は、「信頼関係を結んでから営業するのは、まさにテレビ朝日さんの営業スタイル。社風も感じられるAI」と付け加え、会場の笑いを誘った。

■課題は、テレビ局内の非公開データの活用

テレビ朝日の「あさこ(仮)プロジェクト」は、女子高生AI「りんな」を開発したマイクロソフトディベロップメントと、テレビ関連のメタデータを収集するエム・データ、そしてテレビ朝日とのコラボレーションで進められている。AIの提供する情報と視聴者の共感を高めるためには、どれだけ番組やコンテンツのリッチなデータが用意できるかが焦点となる。

エム・データの薄井氏は、自社が提供する膨大なデータに加え、さらに必要となる情報を次のように提言する。「私たちが提供するデータは、番組、時間、出演者、コンテンツ内容など非常に精緻なものだが、これはどうしても“過去”の情報。テレビ局内にある、まだ非公表のコンテンツや著作権のあるコンテンツなどを、どう生かすかがカギになる」とのこと。

マイクロソフトディベロップメントの藤原氏も、「現在は、公式HPなどの情報を利用しているが、一般に公表できない画像やオフィシャルデータがほしい。映像を学習させることで、どのシーンにどういう発言が適切かを学習できるし、コンテンツとの結びつきも強くなる」と語る。

もちろん、今回のプロジェクトではテレビ朝日側からも情報が提供される。しかし、そこに1つの課題があると中川氏は言う。「局内にさまざまなデータが蓄積されているが、それを今まで統率して管理することがなかった。どこに、どのようなデータが、どのレベルで眠っているのか、全体を把握できていない状態。過去のコンテンツを含めて、局内で情報の“棚おろし”が必要」とのこと。組織を横断した体制づくりが求められるため、関係各所との調整にパワーがかかることが窺えた。

■AIは、AIというUIデザイン

もう1つ、AI自体の課題もある。視聴者との距離を縮めるものとして導入されるAIだが、“人間”との壁をあえて意識する必要があると藤原氏は示唆する。使う側が、AIに“人間らしさ”は求めるが、“人間と同じ”は求めていないからだ。

たとえば、セッションで「あさこ(仮)」のデモが行われたが、こちらがメッセージを送るや否や、すかさず長文の返信が飛んできた。そんな人間離れしたAI自体を、利用者は楽しんでいるのだという。

「一度、『りんな』を実験的に“風邪”をひかせて、返信を遅くした。すると、『AIなんだから、すぐ返信しろ』とたくさんのクレームが来た」と藤原氏。“人間らしさ”のポイントをどこに置くか、そのバランスの調整が求められると言えそうだ。

また、森永氏は、会話型AIをUIデザインの側面から精査する必要性を指摘した。提供する情報をどのようにセグメントするのか、「あさこ(仮)」をどのようなキャラクターにするのか、ということが、ファンをつなぎとめるために重要になるからだ。その件に関しては、コンテンツを提供するテレビ朝日側、AIのアルゴリズム等を担うマイクロソフトディベロップメント側、双方で調整を重ねているという。

「あさこ(仮)」は、年内をメドにリリースの準備を進めているが、正式には未定とのこと。
閉会にあたり、森永氏は「テレビ好きな人と話すと、テレビ好きになるもの。テレビ好きな会話型AIとふれあうことで、そんな効果が生まれることも期待したい」と締めくくった。
テレビとAI、その新たな可能性の追求は、まだ始まったばかりだ。

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