AbemaTVが生き残るための「10年計画」~民教協 東京大会レポート①~
10OCT

AbemaTVが生き残るための「10年計画」~民教協 東京大会レポート①~

編集部 2017/10/10 08:00

EXシアター六本木にて、民間放送教育協会、北海道・東北・関東・甲信越地区研究協議会の東京大会が、9月9日に開催された。今回のテーマは「どうなる?ネット時代のマスメディア」。テレビ放送を中心に、これからのマスメディアの有り方からメディアリテラシーまでに渡った激論の模様を、3回に分けてレポートする。

1回目は、開会のプロローグから、第一部の「インターネット上にマスメディアをつくる」と題したトークセッションまでを取り上げる。

既存の系列局を越えたネットワーク「民教協」

開会に先立ち、この大会を主催する公益財団法人 民間放送教育協会(民教協)が制作したドキュメンタリー「日本のチカラ」のダイジェスト版が記念上映された。民教協は、教育の機会均等と振興を目的とした団体。地域を代表する34の民間放送局が所属し、既存の系列を超えた全国ネットワークを構築している。

同協会が大きな目標として掲げているのが、生涯学習の普及である。レギュラー番組である「日本のチカラ」などの社会教育・教養番組は、加盟社の共同企画・制作によって全国で放送されているだけでなく、視聴者・行政・放送局の三者による研究協議も実施。生涯学習に関するさまざまな活動を全国で展開している。

また、毎年全国各地で大会を行っており、今後の番組づくりに役立つ情報や業界の最新情報などを共有している。今回の東京大会で採り上げられたテーマ「どうなる?ネット時代のマスメディア」は、現在の放送局関係者がもっとも知りたいことのひとつと言えるだろう。

大会は、今回主管を務める株式会社テレビ朝日代表取締役社長 角南源五氏と、民教協会長 吉永みち子氏による開催のあいさつの後、第一部のトークセッションがスタートした。

※角南源五氏
※吉永みち子氏

「AbemaTV」が起こしたインターネットメディアの革新

トークセッションのメインは、株式会社サイバーエージェント代表取締役社長 藤田晋氏。2016年4月に開局したインターネットメディア「AbemaTV」の手応えや、今後の展望に迫った。聞き手は、テレビ朝日アナウンサー 下平さやか氏。

左:下平さやか氏 右:藤田晋氏

テレビがネットに押されているなど言われている中、サイバーエージェントとテレビ朝日の共同出資で2016年4月11日にサービスを開始したのが、「AbemaTV」だ。コンセプトは「インターネット上にマスメディアをつくる」。ニュースやスポーツのほか、音楽やアニメ、将棋、麻雀など、約25以上のチャンネルを有している。

藤田氏はトークセッションで、「オンデマンドがたくさんあるなかで、リアルタイムはAbemaだけ。ビジネス的にも“アリ”か“ナシ”かもわからないが、“アリ”のほうに持っていくのが仕事だ」と、独自性とパイオニアとしての自覚を語った。

「ワンセグ」失敗の理由は、技術力の不足

AbemaTVは、独自番組を制作していることも大きなポイントだ。開局後も、「亀田興毅に勝ったら1000万円」など、エッジのたったコンテンツが世間の話題を集めた。これらは週1回、テレビ朝日とサイバーエージェントの制作スタッフが一堂に会する会議で、アイデアを持ち寄って決められる。この会議は「トンガリスト会議」と呼ばれ、尖った企画を出すとポイントが貯まり、評価されるという仕組みだ。企画採用の基準は、「視聴習慣をつけるもの」「DLを促進するもの」「テレビ離れの若年層に刺さりそうなもの」。

『技術者にもこの「トンガリスト会議」と同じようなミーティングがあり、UIやUXの改善などを提案すると、彼らにもポイントが貯まる。技術にも力を注ぐのには理由がある。ネットにおいて、視聴率アップには技術力が欠かせないためだ。「サクサク動くこと、使い勝手がいいことが非常に重要。AbemaTVの場合、視聴数を向上させる要因の半分は技術力である」と藤田氏は語る。

番組企画の生み出し方

かつて、ワンセグ放送があまり普及しなかった要因のひとつがここにある。モバイルデバイスの挙動として、ワンセグは重すぎたのである。AbemaTVはサービスインの準備にあたり、1年2カ月もの歳月を技術者との打ち合わせに費やした。一方で番組づくりはその後の3カ月間で行ったという。これにより、スワイプによってチャンネルを次々と変えられる軽い挙動を実現。視聴者からも高い評価を得ているという。

「いくらコンテンツが良くても、そのまま流したら視聴者は見てくれない。適した形につくり直す必要がある」と藤田氏。テレビ朝日がサイバーエージェントとタッグを組んだのも、「ネットの技術力を手に入れたかったため」ということだった。

テレビ局のブランド、制作者の熱意は資産である

一方で、サイバーエージェントが手に入れたかったのがコンテンツ力だ。藤田氏は「ネットで大きな制作費を使い、しっかりしたコンテンツを流したかった。そうすれば広告も大きな枠を売ることができる」と説明する。そのなかでも特に驚いたのは、テレビ局のブランド力だ。テレビ番組からのスピンオフコンテンツは、やはり高い視聴数をたたき出す。またAbemaTVの番組に、スポーツ選手のほか一流芸能人までもがスムーズに参加してくれるのは、「テレビ朝日さんの長年の信頼によるもの」と語る。

制作現場の“熱さ”にも、藤田氏は感銘を受けたという。「テレ朝さんの近くのジンギスカン屋で、朝まで『あのテロップの出し方は…』など、熱い議論を交わすスタッフを見かける。それがテレビの一番の資産では?」と評価した。

もうひとつ、AbemaTVで大きな意味を持つものがニュース番組だ。これも、全国ネットを持つテレビ朝日とのタッグがなければ実現しなかったことだという。AbemaTVが開局したばかりのころ、熊本地震が発生。その際、まだ取り決めもない段階であったにも関わらず、現場判断で緊急ニュースが放送された。「自分たちは報道機関である」という現場の意識の高さを、藤田氏は実感したのだ。

“テレビ離れ”ではなく、“テレビデバイス離れ”が問題の本質

トークセッションの最後には、若年層視聴者の今後に話が及んだ。藤田氏は近年の動向を見て、テレビ離れはますます進むと予想している。しかし、本質は“テレビ離れ”ではなく、“テレビデバイス離れ”だと分析。何かを見たいときにスマホが最優先されるのは、「手近で便利だから」と考えている。AbemaTVがUIやUXにこだわるのも、「便利でついつい開いてしまう」という視聴習慣をつけためだ。藤田氏は「一度便利になると、以前には戻れない」と厳しく指摘する。

AbemaTVの第一期は200億円の赤字だった。藤田氏は、今期も同程度の赤字になるだろうと予測する。しかし、腰を据えて10年、マイペースで続けたいとのこと。今は、「AbemaTVという視聴習慣」をつける時期だと考えているからだ。「Winner takes all 。生き残ることが大事だ」。10年後に勝っている保証はない。そもそも、広告収入で成功するかもわからない。世界にも前例がない。しかし、やりきるしかないと藤田氏は考えているのだ。

「過去にすがらず、新しいビジネスモデルをつくらないといけない。テレビには素晴らしい資産がある。それを守るのではなく、前向きに会社を変える努力が必要になってくるのでは?」。

挑戦を続ける藤田氏は、テレビ業界に対してこのような提言を残してトークセッションを締めた。

次回からは、今大会のテーマである「どうなる?ネット時代のマスメディア」についてのパネルディスカッションを、前・後編に分けてレポート。前編では、絶対的な指標である“視聴率”を巡る、各界著名人の白熱の議論をお届けする。

[中編]新時代のメディア接触と変わりゆく「テレビ」の価値~民教協 東京大会レポート②~

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