映像メディアの価値を映す Screens

DVRの登場によって「テレビ番組の編成権は視聴者に移った」という声を聞くようになった。ビデオデッキが主流の頃と比べると、録画できる時間や同じ時間に録画できる番組数の制約は少なくなり、生活者の録画環境は大きく変わっている。評判のよいドラマで以前ほど視聴率を取れなくなっている理由としても、増加したタイムシフト視聴の影響は否めない。その動きをとらえて「タイムテーブル（編成）に、視聴者を縛りつける現行のテレビ広告のビジネスモデルに無理がある」とまで言う識者もいるほどだ。

「視たい時に、視たいものを」という意識と行動が拡大する背景として、インターネットの利用体験の蓄積は大きいだろう。知りたいこと・興味のあることを検索すれば答え（あるいは答えのようなもの）が得られる、欲しいものをその場で注文できるといった即時即応に慣れてしまうと、放送開始に合わせてテレビを視るというのは「面倒」かもしれない。
しかし、果たして本当にリアルタイムは評価されていないのだろうか？

何事にもオン・デマンドが売りな「ネット」サービスの動きをみていると、逆の現象にもよくぶつかる。
今も若年層の支持が高いニコニコ動画は、コメントを通じて他者との『疑似的な同時視聴体験』をすることができるのが大きな特徴だが、最近はユーザーに対する時間拘束の要求がより高い「ニコ生」がサービスの柱にもなっている。また、YouTubeのライブストリーミング機能の提供開始は2011年、その機能を全ユーザーに開放を発表したのは2013年だ。他にも、Facebookが「ライブ動画」を正式にリリースしたのが今年（2016年）というように、主要IT事業者の「ライブ（生）もの」への取り組みが強化されてきている。
自分都合が効くネットの便利さに慣れてなお、「今を伝えたい・知りたい・共有したい」というのは、人の深層にある根源欲求ということなのだろう。

翻ってテレビ（とりわけ地上波）は、今を共有するメディアだ。朝から夕方まで、「生放送」に多くの時間を割く局は多い。平時においては、ニューストピックス、天気予報、賛否があるかもしれない占いなども含め、最大公約数の「興味・知りたい」にチューニングを合わせ、時間を刻むのがテレビ編成の妙とも言える。大きな事件・事故・災害等が起こった時には、番組を差し替えて動向を追う。同様の情報は、ネットでも自分のペースで得られるという反論はあろうが、自動的に適切なページを探し・送ってくれるのが、テレビの長所、利便性に他ならない。

生活者の多様化や細分化が進み、「最大公約数」の規模が以前よりは小さく、あなたの生活リズムと多少ずれていることもあるかもしれない。しかし、昔も今も、テレビは「マス」を対象とした“キュレーションメディア”なのだ。

視聴率にまつわる、まことしやかなウワサについて