映像メディアの価値を映す Screens

InterBEE2016最終日に行われたセッションの一つ「進むテレビ“再定義”への挑戦」。テレビ局の動画配信のその先に来るものとは一体何なのか？　をテーマに、インターネットを効果的に活用したテレビ制作での取組みを、各社発表した。あらためてテレビの強みも語られながら、今後の役割を考えたパネルディスカッションの模様をリポートしたい。

テレビ放送が始まり60年余りが経った今、デジタル化が進み、みんなで見るテレビ番組からスマホで個で楽しむ動画というスタイルが拡がっている。いつでもどこでも楽しめる、そんな手軽さが視聴者の求めるスタイルにマッチしているのかもしれないが、テレビ制作者側もそんな視聴者の要望に応えようと新たな挑戦をしている。

たとえば、従来からあるテレビ番組の放送時間の30分、60分、90分といった時間枠の概念を取り払い、どこまで柔軟な尺で番組制作が作れるかに挑戦した株式会社フジテレビジョン コンテンツ事業局コンテンツデザイン部主任 下川猛氏（以下、下川氏）は、企画会議そのものを番組にして放送＆配信するといった試みも行っている。

日本放送協会 放送総局 大型企画開発センター ディレクター 神原一光氏（以下、神原氏）は、「NHKスペシャル」で、視聴者参加型スタイルの番組制作に挑戦した。一方的に番組を放送するのではなく、番組タイトルにハッシュタグ“＃”をつけ、視聴者が生放送中にてツイッターなどのSNSに投稿しやすくし、テレビとデジタルを融合してコミュニケーションの部分を強めようと試みた。
「ただ遠くからテレビを見る、何の気なしにスマホを操作する、ではなく、視聴者が主体的にスマホを操作して参加したくなる番組作り、ひいては番組が終わっても、ハッシュタグをたどり、視聴者同士で議論が続くような番組作りを心がけている」（神原氏）

株式会社HAROiD プランナー 岸遼氏（以下、岸氏）は、「これまでテレビでやられてこなかったことに挑戦したい」と述べた上で、テレビとインターネットを組み合わせた、インタラクティブ性の高い体験型のイベントを実施していることを報告。その理由として、「テレビですべてを消化することはできないため、個の体験につなげるための場所を作り、合わせて完全消化できる仕組み作りをしている」と続けた。

上記の新たな取り組みについて自己紹介を兼ねた報告が行われた後、モデレーターを務めた日本放送協会 放送総局 デジタルコンテンツセンター副部長 倉又俊夫氏(以下、倉又氏)から「変わらないテレビの美点もあるのでは？」と振られ、それぞれこのような回答が上がった。

「番組は“路上ライブ”のようなもの。路上で偶然出会い、合わないと思えば素通りするし、足を止めて思わず聞き入りたくなることもある。そんな風に、テレビは共通体験ではあるものの、そこから個別の楽しみ方ができるのがテレビのいいところだと思う。双方向やリアル体験といった番組を制作していて矛盾が生じるかもしれないが、本来テレビとは、視聴者が欲しいときに欲しい情報が出てくればいいもの。必ずしも参加したり、姿勢を正してテレビを見てもらうのではなく、気が付けばいつもそこにある状態を作るのが理想的」（神原氏）

「テレビは大きな画面でみんなで一緒に見る体験ができる。今はスマホで個人で動画を楽しんでいても、ライフスタイルの変化でいずれは戻ってくる場所として、我々作り手がコンテンツの質を上げ、演出もさらに考えていきたい」（下川氏）

「テレビほど優しく、わかりやすいメディアはない。誰が見ても、聞いてもわかる内容になっている。スマホと違い数メートル画面から離れていても、例え会話をしていても自然と内容が入ってくる。それはwebではありえないことだから、テレビの演出はズバ抜けていると思う。そこで伝えきれない部分をウェブで補完すればいいと思う。」（岸氏）

新たな番組制作に挑戦する一方で、テレビ本来の在り方は変わらず、みんなが戻ってくる場所であると三者の意見は一致した。

最後に倉又氏から、テレビをどう再定義していくかということに問われた下川氏は、「テレビ転換期の今、60年続いたビジネス構造もいったん忘れるくらい考え直す時期にきている。キャッチアップ、サイマル、オンデマンド、と動画配信が増えているが、それもふくめて「テレビ」という言葉のくくりでいいのではないか」と意見した。

すると岸氏は、「テレビ業界では、新しいことをやろうとしている人が少ない」といった課題を指摘。その上で、「外の作り手と一緒に新しいクリエイティブをやっていき、僕らが持っていない発想にも挑戦しくことが大事だと思う。100人みんながいいと思うものを流すのがテレビだけど、これからは100人の中の１人にものすごく刺さるような尖ったものも作る必要があるから、その二つをあらゆる人のアイデアを合わせて同時進行で制作していきたい」と続けた。

それをうけ神原氏も、「制作側、演出側がドキドキしていなければ、視聴者もドキドキを味わえないと思う。だから作り手側がそのリスクを負ってでも、視聴者に伝えるような番組を作っていきたい」と最後に語り締めくくった。

若年層を中心にスマホで動画配信を見ている視聴者が増えている中、パネリスト三者のような新たな時代を作る制作者がいれば、テレビの価値はより高まり、みんなでドキドキを「共有」できるようなテレビ放送ができるのではないかと、あらためて感じている。

○モデレータ

・倉又俊夫氏（日本放送協会 放送総局 デジタルコンテンツセンター 副部長）

○パネリスト

・下川猛氏（株式会社フジテレビジョン コンテンツ事業局 コンテンツ事業センター コンテンツデザイン部 主任）

・神原一光氏（日本放送協会 放送総局放送総局 大型企画開発センター ディレクター）

・岸遼氏（株式会社HAROiD プランナー）