テレ朝、新規事業オンラインサロン『CREATOR’S BASE』が目指すもの〜『カメ止め』上田監督も講師陣にラインナップ(後編)
テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子
テレビ朝日はクリエイターを目指すミレニアル世代を対象とした会員制コミュニティサービス事業として、オンラインサロン「CREATOR’S BASE」(クリエイターズ・ベース)を8月20日に立ち上げた。リアルイベントも定期的に開催しており、バラエティ豊富な講師陣による講義も売りにしている。前編に続いて「CREATOR’S BASE」のオーナーとして管理者を務める、テレビ朝日同局総合ビジネス局デジタル事業センター西脇由希子氏にテレビ局が運営するオンラインサロンの実態を聞いた。
■講師陣のラインナップは「多様性」がキーワードに
テレビ朝日が運営するオンラインサロン「CREATOR’S BASE」の活動はリアルイベントとオンラインの2つを軸に、会員にサービスを提供している。リアルイベントでは月に2~3回のペースでゲスト講師を招いた講義を行い、そこで会員が事前に提出した課題に対する添削なども行われる。またオンラインでは講義のライブ配信やFacebookを利用した会員同士や講師陣との交流を図る場が作られている。
そもそも、オンラインサロンは実業家の堀江貴文氏や作家・ブロガーの伊藤春香(はあちゅう)氏などのサロンのようなファンコミュニティの位置づけとして開かれているものも多いが、「CREATOR’S BASE」ではそれとは差別化するため「多様性」をキーワードに講師陣を揃えているという。西脇氏が講師の人選について説明してくれた。
「コンセプトである『本当は、“好き”を仕事にしたい。もっとクリエイティブに生きたい』を実現できる講師陣を揃えることができるよう、心掛けています。多様性のある講師陣を揃えたのは他のサロンとの差別化も理由のひとつにありますが、テレビ局が運営するオンラインサロンだからこそオムニバス形式で講師陣をキャスティングできる利点を活かしたいと思いました。またひとつの価値観に囚われずにいろいろな価値観や考えを会員の方々に吸収してもらい、それぞれの道を切り拓いて、確立していってもらいたいという想いもあり、講師陣のバリエーションにこだわりました。実際にその点に共感してくれた方が集まって来て下さっています」
例えば、「CREATOR’S BASE」の講師にはランジェリーブランド「feast」を手掛けるファッションデザイナーのハヤカワ五味氏や、歌謡エレクトロユニット「Satellite Young」を中心に活動しているマルチメディアアーティストの草野絵美氏、フリーランスのWebライター・編集者の塩谷舞氏、10代でファッションブランド「LOLIPOPKNIFE TOKYO」を運営する大久保楓氏などの名前が並ぶ。また今年上半期の映画界で最も話題を集めた『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督による講義も予定されている。
「上田監督は好きにこだわっていらっしゃる方のおひとり。是非、講師としてお願いしたいと思い、映画『カメラを止めるな!』の公開後、AbemaTVの昼のニュースにご出演していただいたことをきっかけにオファーさせてもらいました。テレビ朝日の総合ビジネス局デジタル事業センターではAbemaTVも取り扱う事業のひとつにあり、私自身も担当させてもらっています。地上波の話題よりも一歩も二歩も早く話題を拾うメディアであるAbemaTVのキャスティング力をこのオンラインサロン事業でも活かさせてもらいました」
さらにクリエイター関連の最新情報にも敏感に反応し、イベントにすぐに取り入れる柔軟性も大切にしているという。11月にはイラストレーターやフォトショップなどのクリエイター向けソフトで定評のあるアドビ システムズ株式会社の新オンライン動画編集アプリ「Adobe Premiere Rush CC」を使ったワークショップの開催も決定。「スマホ1つで簡単に動画編集が出来る、というのは若手クリエイターにとってすぐにでも実践したいノウハウ。そういった内容も積極的に盛り込んでいきたい」と語る。
一方的に講師を人選するだけでなく、日々会員とコミュニケーションを交わしているFacebook上で会員から講師のリクエストも募り、ニーズに応える柔軟な考え方も持っている。オープン直後の9月からさっそく講義イベントが実施されており、ハヤカワ五味氏と草野絵美氏が登壇した。「手ごたえを感じている」という。
「『CREATOR’S BASE』のコンセプトに賛同してお越しいただいたことが実感でき、素直に嬉しく思いました。講義後にネットワーキング会も開き、会員の方々と直接いろいろとお話させてもらうなかで、改めて気づいたこともありました。それはオンラインサロンに『繋がり』を求めていらっしゃるということ。会員同士の繋がりから、それぞれの専門分野のスキルを掛け合わせて、チームで新しいひとつのコンテンツを作り上げたいという声が多かったことも印象的でした」
また「CREATOR’S BASE」事業の合同会社であるDMM.comの仕組みを使ったライブ配信の反響も得て、ライブ配信需要は高いことを実感したという。
■「クリエイティブなことができない」と諦めるのは勿体ない
会員の傾向はターゲット通り20代半ばが最も多く、男女比は半々であることもわかった。映像クリエイターやグラフィックデザイナー、フードクリエイター、ITエンジニア、教育関連など職種もさまざまという。また2種類の料金プランを用意し、全てのコンテンツが利用できる「一般会員」(月額4980円)と、ライブ配信の視聴とオンラインコンテンツのみ利用できる「オンライン会員」(月額1980円)があるが、一般会員が多い状況だ。
「CREATOR’S BASE」を知ったルートは講師が発信するSNSや提携する「DMM オンラインサロン」情報など。入会理由には「テレビ局が運営するオンラインサロンだから安心感や信頼感がある」と挙げる声もあり、テレビ朝日のオンラインサロンとして打ち出していることも功を奏しているようだ。順調なスタートを切っている様子が伺えるが、この新規事業を今後、どのように育てていく方針があるのか、そんなことも西脇氏に尋ねた。
「この事業は7カ月限定の期間を設けています。3月までに集まっていただく会員の方々の『好き』を仕事にする生き方を見つけていただけることをミッションとしています。それは守るべき約束事だと思っています。その過程に相乗効果や予想もしなかった発展系がみえてくるかもしれませんので、そういった場合も臨機応変に対応しながら、次のステージはどこに向かうべきかどうかも考えていくサポートも目指します。またテレビ朝日らしいゴールの設定も考えています。例えば、番組のプロモーション等に採用されるなど、社会と接点のある企画も生み出していければと思っています。新規事業だからこそ、ミッションをやり遂げることは大前提です。期待に応えながら、引き続き運営していきます」
結果次第では第2フェーズの展開もあり得るだろう。しかし、必ずしもオンラインサロンにこだわらないかたちなのかもしれない。ミレニアル世代をターゲットとしたテレビ朝日のインターネット戦略のなかで、その時々の時代のニーズに合わせた事業を生み出していくことを重視しているからだ。「CREATOR’S BASE」を考案した西脇氏自身もミレニアム世代のひとりであり、そんな西脇氏の視点から今後のテレビの在り方についての考えを最後に聞いた。
「あるデータによると、『クリエイティブな時間が増えていくと思う、クリエイティブなことができると思う』と答えた日本のミレニアム世代は3人に1人。世界では2人に1人がそう答えているのに、差があることに驚きました。正直なところ、『クリエイティブなことができない』と諦めているのは勿体ないと思いました。テレビ局は本来、クリエイター集団です。テレビ朝日らしさは地上波の番組づくりだけでなく、クリエイター集団としていろいろなかたちで発揮することができるのではないでしょうか。インターネットを中心にコミュニケーションの輪を広げていく若者に対して、何が発信できるかを今後も考えていきたいです。第4次産業革命の時代に突入していくなかで、日本のクリエイティビティを増やすことに携わり、自分自身もクリエイティブな時間を増やしていきたいと思っています」
現在、それを具現化した取り組みのひとつが「CREATOR’S BASE」である。3月末まで行われる活動のなかで、ファイナルステージを飾る新たな仕掛けなども計画されている。具体的な話は今後、発表される予定だ。引き続き注目していきたい。