急激に活性化している放送コンテンツの海外番販〜ここまで来た テレビ番組の海外展開〜【Inter BEE 2018 レポート】
編集部
2018年11月14日~16日に幕張メッセ(千葉市美浜区)で、音と映像のプロフェッショナル展「Inter BEE 2018」が開催。最新の映像・放送・通信・音響・照明・メディアビジネスのイノベーションが一堂に会した今年は、過去最多となる出展者数1,152社、登録来場者数も過去最多となる40,839名を記録した。
今回は、その中から、放送と通信の融合を展示とプレゼンテーションで提案するINTER BEE CONNECTED企画セッションの一つ「ここまで来た テレビ番組の海外展開」をレポート。“日本の放送コンテンツは海外展開が進んでいない“と言われてきたが、近年では急激に活性化している。
セッションでは放送局の海外部門で活躍するパネリストを交え、最新動向を紹介。この分野に詳しい佛教大学・大場教授をモデレーターに迎え、今後予想される海外展開や課題まで掘り下げられた。
(モデレーター)
大場 吾郎 氏
佛教大学 社会学部 教授
(パネリスト)
杉山 真喜人 氏
株式会社TBSテレビ
メディアビジネス局 海外事業部 担当部長
西山 美樹子 氏
日本テレビ放送網株式会社
海外ビジネス推進室 海外事業部 部次長
早川 敬之 氏
株式会社フジテレビジョン
総合事業局 コンテンツ事業センター コンテンツ事業室 部長職
井上 修作 氏
株式会社ABCインターナショナル
代表取締役社長
◾️海外展開の再興期・拡張期に突入した2010年代

セッションの冒頭では、モデレーターの大場氏が近年におけるテレビ番組の海外展開の概要を説明。日本のテレビ番組が初めて海外に輸出されたのは1959年前後のこと。それ以降、およそ60年の間、日本のテレビ番組は海外へ販売されてきたことになる。総務省のまとめによると、2016年の日本の放送コンテンツ海外輸出額はおよそ393億円だという。


大場氏は「およそ60年で様々な段階を経てきたが、今は、海外展開の再興期、そして拡張期である」と話す。これを踏まえたうえで各パネリストによる各局の取り組みについてのプレゼンテーションに移った。
◾️「番組販売」から「海外事業」へ衣替え

TBSの杉山真喜人氏は同社の放送コンテンツの海外展開の概要や最新の取り組みについて説明。TBSでは50年以上前から海外展開を開始。ドラマ、アニメ、バラエティとオールジャンルを扱い、累計170カ国・地域に数100タイトル、数1,000話以上を販売してきた。
「『魅力あるコンテンツ制作能力』『社内理解』『海外エージェント&取引先との信頼関係&パートナーシップ』の3点が当社の強みです」と杉山氏は強調。
最近の取り組みとしては、日本での放送前に番組の権利処理を行い、流通の加速化を図っているとのこと。数年前から「番組販売」から「海外事業」への衣替えし、二次利用に留まらない「マルチ展開」のフェーズに移行した。

「例えば『SASUKE』は単発で尺が一定でなかった為、海外展開には不向きでした。そこで『NINJA WARRIOR』という1話30分定尺の英語版『SASUKE』を制作しました。現在では165カ国・地域での放送を実現し各国で高い人気を得ており、21カ国でフォーマットによる現地版制作も行われています。更に、商品化、出版、タイアップ、テーマパーク展開、等、マルチ展開が広がっています」(杉山氏)
◾️アメリカに次ぐドラマ輸出国のトルコを逃さない手はない

日本テレビの取り組みについてプレゼンテーションをする西山氏。同社では約50年前に海外展開をスタート。6年前には海外ビジネスに特化した部門が開設した。

「(海外展開において)日本テレビで一番有名なコンテンツは『マネーの虎』で、イギリスのBBC、アメリカのABCでローカライズされ、現在でも35地域で高視聴率を得ています。最近ではドラマ『Mother』がトルコで大ヒットし、半年のうちにリメイク版が31地域で放送されています。トルコはドラマをリメイクして他国へ輸出することが得意な国であり、トルコに預けることで2次的な海外展開に繋がりやすいんです。トルコは、世界でアメリカに次ぐ2番目のドラマ輸出国でもあり、逃す手はありません」(西山氏)
◾️NianticへシリーズAでの出資

フジテレビの取り組みついて説明する早川氏。同社の海外戦略もTBSや日本テレビ同様に、海外への番組販売や、フォーマットの整理などを中心とした事業を行なっているという。

「直近の目立った事業としては、2016年の北米の拡張現実(AR)ベンチャー企業NianticへのシリーズA出資。その後、同社のスマートフォン向けオンラインゲーム『INGRESS』のアニメ化国際共同制作を始動。今年10月よりNETFLIXにて配信がスタートされました。単なる海外番販ではなく、海外でIP(知的財産)を作るという発想です。また放送に先駆けてキャッシュフローを上げることで、海外ビジネスを「放送のゼロ次利用」と位置付ける取り組みを始めています」(早川氏)
◾️海外事業部門を分社化した朝日放送グループ

ABCインターナショナルの井上氏は、海外展開の困難な点についても言及。日本の海外展開ではドラマやアニメの評価が高い一方、同社ではバラエティに注力している。なかでも『新婚さんいらっしゃい』が人気で特にベトナムでは高視聴率を得ているとのことだ。

「『新婚さんいらっしゃい』ではフォーマット販売だけでなく、人選なども含めた番組の世界観を提供しています。それも現地で高視聴率を記録している理由なのではと思います」(井上氏)
同社ではフォーマット開発を進めてきたが、なかなか壁も多くスムーズにいかない点もあったという。

「朝日放送グループでは、2016年7月に海外事業部門をABCインターナショナルとして分社化。会社としての規模が小さくなったことで意思決定が早くなりました。(メディアとして)ネットが強くなってきているという時代ですが、海外展開については動けるうちに動いておきたいというスタンスです」(井上氏)
◾️アジアを中心に成長余力のある海外市場
各放送局の取り組みについての発表に続いて、「海外展開ビジネスの多様化、その背景にあるものは?」「日本のテレビ番組の国際競争力はどの程度のものか?」「海外展開が抱える課題と今後の目標」といったテーマのもと、意見が積極的に交わされた。

TBSの杉山氏は「国内市場が縮小傾向にある一方で、今の海外には成長余力があります。それが、海外展開が活発になっている理由の一つではないかと考えます。今後の課題としてはやはりスピード感だと思います。日本は意思決定とアクションが遅めで、特に著作権の処理などをもっと迅速に行う必要があるのでは」と指摘。
日本テレビの西山氏は「配信ビジネスは国内でも活発になっていますが、様々な分野で海外の方がより動きが早いので、日本も展開せざるを得ない状況。さらにここ数年で中国マーケットが大きくなっているのも海外ビジネスが多様化している理由の一つ。また東南アジア各国でコンテンツを多く欲しがるケースが増えているのもビジネスチャンスに繋がっていますね」と語った。各国の経済発展とインフラ整備に伴い、日本のテレビコンテンツへの需要が高まっている一方で、ABCの井上氏は「アジア各国の番組制作力は向上していて、いずれ日本のコンテンツに頼らなくなるタイミングが来る。競争力がある今のうちに展開を加速させる必要性を感じています」とも指摘した。
フジテレビの早川氏は「海外展開においては日本のテレビ局のパイの奪い合いがないので、競争意識が生じにくいんです。海外には多様性があり、ビジネスの機会が一層ありますね。また、日本の番組のクオリティは世界でもトップクラス。ですが、海外のマーケットニーズやテレビの視聴スタイルは日本と異なるので、日本の視聴者向けに作られたものが海外で人気が出るとは限りません。想定していなかった番組が受けることもあります。その研究も今後必要になってくるかと思います」と述べた。
ABCインターナショナルの井上氏は「今後の国内の人口増加が見込めない中で、海外に目が行くのは自然の流れだと思います。既存のテレビビジネスに対する危機感や、キー局に遅れを取らないという気運は局内にもあります。一方で優秀な人材の確保も大事な課題ですね」と話した。

今後もますます変化を見せると予想される、日本のテレビ放送の海外展開。予想できない移り変わりにも対応できるような、先を見据えた基盤作りもポイントなのかもしれない。