スポーツ配信の可能性はいま2018~拡充してきた各種取り組み事例から~【Inter BEE 2018 レポート】
編集部
2018年11月14日~16日、幕張メッセ(千葉市美浜区)にて、音と映像のプロフェッショナル展「Inter BEE 2018」が開催された。毎年、最新の映像・放送・通信・音響・照明・メディアビジネスのイノベーションが一堂に会する本イベントは、今年は過去最多となる出展者数1,152社を記録。同じく過去最多となる40,839名の登録来場者数が集まり、盛況のうちに閉幕した。
今回は企画セッションの一つ「スポーツ配信の可能性はいま2018〜拡充してきた各種取り組み事例から〜」をレポートする。
(モデレータ)
須澤 壮太 氏
株式会社rtv 代表取締役
(パネリスト)
佐野 徹 氏
日本テレビ放送網株式会社
スポーツ局スポーツ事業推進部 部次長 プロデューサー
八田 浩 氏
GOLF Net TV 株式会社 取締役
モデレータを努めるのは須澤壮太氏だ。放送機器メーカー、経営コンサルベンチャーなどを経て、2013年にrtvを起業。大手が取り上げられないようなローカルスポーツを中心に、ライブ配信制作技術・動画メディアの展開やSNSマーケティングを通してスポーツと地域文化の発展を目指す事業を展開している。現在では主にアメリカンフットボールのインターネットメディアを運営し、高校、大学、社会人リーグまで、多種多様な試合のライブ配信を実施。また、読売テレビや地上波ローカル局とタッグを組み、地上波露出のない「隠れたコンテンツ」のライブ配信の企画やメディア運営、動画ニュースなどの記事も手がけている。
ディスカッションのテーマであるスポーツ配信における変化として、須澤氏は「近年では様々な主体者によるスポーツ動画への参入や、オリジナル制作コンテンツの活発化が見られる」と指摘。テレビ局だけでなくスポーツメディア専門会社、雑誌社、新聞社、スポーツ用品メーカーなどを挙げた。
続いて須澤氏の具体的事例より2013年シーズンから行っている、関西学生アメフト連盟との取り組みが紹介された。現在はライブ配信だけでなく、テレビ局に向けた番組販売やニュース素材の提供なども実施。既存の放送局とネットメディアの連携が昨今、顕著になっており、放映権取得局と連携した送客やSNSプロモーション企画なども行われているという。また、有料課金や広告などの配信での新たな収入源を拡大しながら、スポーツの競技団体やチームとの分配も視野に入れいて競技自体の拡大に貢献できるような仕組みを作ろうとしているとのこと。
それを受け佐野氏は、「私自身が元関西学生アメフトでのプレーヤー。関西ではテレビ中継がありますが、今は東京に住んでいるので試合が見られない。rtvさんのネット配信のおかげで見られるようになって大変にありがたい」とネット配信の価値についてコメントした。
次に「隠れた資産の棚卸し、ユーザー目線の徹底」をテーマに意見が交わされた。
八田氏は「GOLF NET TV」の現状を説明。雑誌、イベント、デジタルならではの歴史と知見を生かしたメディアを目指しており、「地上波で見られないコンテンツの提供も我々の重要な役割。ゴルファーが普段見せないような素顔も視聴者は期待している。選手との関係値、業界からの信頼、ファンとの距離、雑誌社が持っている隠れた資産であり、これをどう維持していくかが今後の課題」と話した。
またプロゴルファーのトーナメントを軸とした従来のスケジュールでは、一般的に月曜日から水曜日まではメディアとしてほぼ何もしていない状態だったという。これを解消するために、主催や放映権を持っている放送局、スポンサーと連携して、レッスンやトークなどの放映を始めた。権利を侵害することのない協業を行った結果、八田氏は「大会をより盛り上げられるようになった」と話す。
続いて佐野氏からは、メディアの変遷とスポーツの関係について「テレビ登場時、街頭テレビに集まりスポーツ中継を見ている人々の笑顔。そして放送デジタル化でもたらされた多チャンネル化・高画質化、さらに今後さらに加速度を増して進化するであろうインターネットの大容量化・高速化など、マス向け映像メディアの変化の中心にスポーツ中継は必ず存在してきて、そして今後もそうなっていくだろう」とコメント。加えてスポーツコンテンツが持つ爆発力についても言及し、例えば1990年以降のテレビ視聴率ランキングにおいてもその上位を占めているのはほとんどがスポーツ中継であると指摘した。
その爆発力がライブ配信にて発生した事例として、平昌オリンピックでの男子フィギュアスケートショートプログラムの羽生結弦選手の事例を紹介。ただ圧倒的アクセス数を記録したものの、集中アクセスによる不具合発生の不安感も同時に存在したと指摘。テレビと異なり、アクセス数予測による設備規模の柔軟な準備など大型スポーツライブ配信に必要な対応が多々存在すると指摘した。
一方、昨年この会場で提起したビジネス面の各種課題が1年経過しどうなったのかを整理。テレビ局にとっての課題である「視聴率毀損懸念」については、今の映像視聴環境であれば非常に限定的かとしつつも、ネット配信による収益確保手法については未だ確立されたとは言えない状態であると分析。
「どの産業にもあてはまる、いわば『幹事マックスの法則』(まとめ役が一番美味しいという意)はメディアビジネスにも当てはまる」とした上で、地上テレビ局は一つのチャンネルを活用したいわばプラットホーム側(幹事)であり、さらにそこには周波数という高い参入障壁があると指摘。一方インターネットもスポーツコンテンツを多数集めるプラットホーム側(幹事)にまずは収益が発生するものの、参入障壁は極めて低いこと、国境をまたぐビジネスジャイアンツも競合として存在しうること、技術革新スピードが早く豊富な資金力が投下されていくことなどを視野にいれる必要ありと指摘。本日のテーマの一つである「ニッチなスポーツ配信プラットホーム」も、様々な規模での参入が可能だが、それぞれ存続していくためには、例えば「関西学生アメフト」における歴史的理由などの「特別事情」が当面必要そうだと指摘した。
スポーツ配信について事例を交えて紹介された今回のパネルディスカッション。「色々な取り組みやアイディアを今後、他のメディアも生かしていただければ」と須澤氏のコメントとともに、ディスカッションは終了した。