『プリティが多すぎる』の中国市場向けドラマ作り〜日本テレビ森有紗プロデューサーインタビューin上海(前編)
テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子
俳優の千葉雄大のファンミーティングが昨年12月16日に中国・上海市内で行われた。主演した2018年10月期の深夜帯ドラマ『プリティが多すぎる』(日本テレビ)が中国でも人気を集めたことが開催に至った理由のひとつにあった。同ドラマは中国市場を狙って制作され、中国での同日配信を実現させたことも大きい。イベントが行われた上海現地で同ドラマのプロデューサーである日本テレビ海外ビジネス推進室の森有紗氏に話を聞いた。
■中国本土で同時期配信実現は、日本テレビの連ドラ初
俳優の千葉雄大が中国・上海市内にある上海商城劇院でファンミーティングを行い、約450人のファンが集まった。中国で同日配信された連続ドラマ『プリティが多すぎる』の最終回前に合わせて開催され、盛り上がりをみせた。
同ドラマの中国でのこの人気ぶりは企画、制作した日本テレビにとって狙い通りとも言える。6年前に海外ビジネスに特化した部署が日本テレビ内に新設され、その海外ビジネス推進室が今回のドラマを主導した。若干27歳の森プロデューサーは中心人物のひとりだった。
「海外向けのドラマを制作することがミッションにあり、『プリティが多すぎる』はその第一弾です。海外市場をターゲットにしたドラマを制作し、海外現地で放送または配信することは海外ビジネス推進室にとって初の試みでした。『プリティが多すぎる』はターゲットを中国に絞り、中国と日本の同日配信を実現するために制作したドラマです」
日本テレビの連続ドラマが中国本土で同時期配信されたそのものも今回が初。昨年10月にフランス・カンヌで開催された世界最大級の番組見本市「MIPCOM」(ミプコム)でも中国で配信されることが世界に向けて発信されていた。MIPCOMでは『プリティが多すぎる』のワールドプレミア上映会も開催され、主演の千葉雄大が舞台挨拶のために来場し、海外バイヤーや外国人記者勢から注目を浴びた。中国以外にも韓国、台湾、カンボジア、香港、インドネシア、フィリピン、シンガポール、タイと、日本を含め世界10の国と地域で、同時期放送・配信される作品としても話題性に富んでいた。これら全て日本での放送前に仕込まれたものであり、どのようなプロセスを経て、実現に至ったのだろうか。
「2017年10月ごろから動き始めました。企画やライセンシーの選定を行いながら、2018年4月末にクランクインし、5月末にクランプアップしました。6月末には10話分全ての編集作業を終えて、10月から日本では日本テレビの深夜帯で放送、中国では大手配信サイト「Mango TV」で配信が始まりました。中国で放送、配信するためには中国政府の審査が必要となり、審査期間は通常3か月ほどかかります。中国での同日配信を目指していたので、日本での放送日から逆算して6月末には完パケを終えている必要がありました」
通常のクールごとに制作される連続ドラマのスケジュールとは異なるプロセスを踏む必要があり、ましてや、中国で審査が通る保証は全くなかったはずだ。こうしたリスクも抱えながらも、中国をはじめ、海外での展開によって、制作費が回収でき、利益を生むドラマ作りに挑んだ。
「リスクも考えながら、企画段階から編成、制作などと密に絡み、調整していきました。各所が理解し、協力してくれたおかげで、実現できたことです。企画の段階から中国での審査を想定し、原作の設定を変更することもありました。例えば、原作では舞台がローティーン向けファッション誌編集部だったのですが、審査の上で中高生の若者が働くことはマイナス要素になり得るのではないかと思い、原作者や出版社にご理解をいただき、原宿系ファッション誌に設定を変えました。撮影中も中国で配信することを意識して、監督から表現方法について慎重な意見をいただくこともありました。もちろん、日本の視聴者をないがしろにしているわけでは決してありませんが、今回のドラマは中国で配信することを第一に考えました」
■アジア市場で狙いたいターゲットはドラマ好きの女性
目標にあった日本の地上波との同日配信が中国で行うことができ、中国で話題も作ることもできたが、実際に中国市場を狙ったドラマ制作を体験し、新たな課題もみえたようだ。
「話数については今回、10話を設定しましたが、韓国ドラマは16話、中国ドラマは20話~40話が平均の話数なので、話数が多いドラマも求められていそうです。尺についても今回は見やすくするために30分にしましたが、中国では配信でも45分や60分尺のドラマもあり、一方で話数が少ないミニシリーズなどもあり、バリエーションがある。その辺りも今後、検討したい部分です。ターゲットは20代~30代の女性に向けたドラマがアジア市場で広がりやすいと思いました。でもコンテンツは実際にやってみないと、何が当たるかわからないものです。狙いに行って外れる場合も、狙いに行かずに当たることもあります。今回やってみて、海外市場向けにもドラマ作りはできるということは確かに分かったことです。第2弾以降は海外市場でも確固たる人気を得ることが求められます」
今回のイベントを通じて、海外向け制作ドラマ第一弾『プリティが多すぎる』の反響は高いようにみえた。中国の視聴者ニーズは変化のスピードが早く、日本とは異なるニーズやリスクも抱えながら進めているドラマ制作は、ノウハウを得ることができることに価値があるのだろう。こうした蓄積によって、日本のドラマは海外でもヒット作を生み出すことができるのだろうか。後編に続く。