中国でも人気『プリティが多すぎる』のドラマ作りから得たノウハウ〜日本テレビ森有紗プロデューサーインタビューin上海(後編)
テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子
俳優の千葉雄大主演の2018年10月期深夜帯ドラマ『プリティが多すぎる』(日本テレビ)が中国でも人気を集めた。これを受けて、千葉雄大ファンミーティングが上海で行われ、現地に足を運んだ同ドラマのプロデューサーである日本テレビ海外ビジネス推進室の森有紗氏に話を聞いた。前編でお伝えした中国市場向けに仕掛けた『プリティが多すぎる』の制作秘話に続き、後編は今回のドラマ作りから得たノウハウや中国や海外市場で今、求められているドラマとは何か、伺った。
■千葉雄大、ファンミーティングに450人のファンが集まる
『プリティが多すぎる』は主演の千葉雄大が大手出版社で働く入社3年目の編集者の役を演じ、「プリティ満載の」の原宿系ファッション誌を扱う職場のなかで、新たな自分の役割を見つけていくお仕事ドラマが描かれている。中国市場では歴史や恋愛が人気だが、ジャンルの選定も中国市場狙いのドラマには欠かせないものなのか。
「今回は日テレの得意なお仕事ドラマを打ち出しましたが、次回は恋愛要素を増やしてもいいのかもしれません。例え、お仕事ドラマであっても恋愛シーンには需要があります。千葉雄大さんのファンミーティングで『プリティが多すぎる』の映像が流れた時、キスシーンで起こったファンのリアクションからも、日本よりも恋愛要素に熱い反応があることを実感しました。恋愛は女性層を中心に人気を集める定番ジャンルですから、そこは狙っていくべきだと思っています。また中国で展開するためには中国政府の審査に通る必要があり、恋愛ドラマは比較的、審査に引っかかる要素が少ないことからも、リスクを回避しやすいジャンルと言えそうです」
千葉雄大ファンミーティングでは約450人のファンが集まり、中国でも人気を得ている様子が伺えた。中国市場を狙ったドラマ作りにはキャストの起用も重要視されそうだ。
「千葉さんをはじめ、中国でも人気のある方がいらっしゃるので、今後も中国市場のニーズを探るためにマーケティングやヒアリングは必須です。中国でも日本好きのマーケットがあり、そこにはサブカルチャーや漫画、フィギュアなども含まれます。今回のファンミーティングでは原宿を歩いているような服装や髪型でいらっしゃってくれた方も多く、ドラマを通じて日本の文化も楽しんでくれているように感じました」
しかし、日本の実写コンテンツのファン層の規模は韓国と比べると、大きくはないことも事実にある。
「その辺りは大きな課題です。ドラマや音楽など、韓流はグローバルに広がっている印象があり、アジアをはじめ海外市場で韓流はもはやニッチではなく、メジャーに寄りつつあるのかも。日本もコアファンに刺さるものを打ちつつ、マーケット規模を広げる必要はあると思います」
■海外でヒット作を作り出す大事な要素な脚本
今回の『プリティが多すぎる』は大崎梢氏の同名小説が原作だった。海外市場向けに完全オリジナル脚本にも今後、挑戦していく意向はあるのだろうか。
「原作があると、企画提案の段階からイメージしやすいことがメリットです。ただし、原作の場合は、中国市場に合わせて変更などができる柔軟性が必要です。また原作に限らず、中国をはじめアジアでも人気のある野木亜紀子さん脚本作品などはニーズがありそうです。オリジナルでも原作でもやり方次第で可能性はあると思います。海外でもヒットを作り出すために大事な要素は脚本にあると思っています。おもしろいストーリーだったら、世界中の人がおもしろいと感じてくれます。ある中国の制作会社の話によると、無名の役者だけを起用した配信ドラマが大ヒットしたケースもあるそうです。制作費もそれほどかかっていないようですから、やはりストーリー次第でみんなが見たいドラマを作り出せる可能性があると思います」
また日本の地上波で同日に放送されている作品であることは、プロモーション効果の上でも有利に働き、今回中国での人気に繋がったということだ。中国現地企業の担当者にも話を聞くと「日本とタイムラグなく中国で正規配信できる点で話題性を作れることが購入の決め手となりました」と話していた。
中国では有料配信サービスのユーザー数は伸長傾向にあり、コンテンツ投資を引き続き強化されていく向きはある。やはり、海外市場向けドラマ第2弾も狙う地域は中国なのだろうか。
「中国は引き続き狙うべき市場ですが、日本ドラマのリメイクが活況なトルコなど、ターゲット地域は広くみています。海外現地に足を運ぶたびに、いろいろなところにチャンスの芽はあると感じています」
日本のドラマが海外でもヒットさせるために必要なことは何だろうか。森氏自身の考えを最後に聞いた。
「海外進出という観点からいえば、日本は権利関係などで二の足を踏む期間もありましたが、韓国は早い段階から手を打っていました。元々国内市場がさほど大きくなかった韓国は、コンテンツを海外に広げることを第一に考え、動き出しが早かった。日本も徐々にエンターテイメント業界全体で外にも出ることにシフトし始めていますが、この数年間の遅れが痛手となっています。でも、それで諦めてしまってはもったいないと思っています。ひとりでも多くの関係者が巻き返そうという気概を持つことができれば、日本も可能性はあると思っています。というのも、日本は制作費と制作期間が限られているなかでも、最大限にパフォーマンスを発揮できる力を持っています。日本のテレビの歴史は長く、これまで蓄積してきたそのコンテンツ作りのノウハウは海外でも求められます。これらを発揮することで、海外市場でも成功させることができると思っています」
海外市場向けのドラマ制作はまだ予算規模に限りはあるだろう。先行投資をしながら、ノウハウを築いていく段階にある。第2弾の展開が待たれるところだ。日本のドラマが海外市場に踏み入れる余地はまだあるなかで、遅れを取り戻すためには、総力戦で打ち続けていく必要もあるだろう。広がりにも期待したい。