「テレビマーケティングの進化」 〜視聴質データに基づいたテレビCM出稿の最新事例〜 【セミナーレポート】vol.2
編集部
2019年2月26日、東京・六本木の日本マーケティング協会 アカデミーホールにてシンポジウム『テレビマーケティングデータの最前線 〜広告主が真に必要とする評価軸とは?〜』が開催され、テレビ媒体におけるマーケティングデータの具体的なケース紹介とともに、今後に向けた展開のヒントを探るディスカッションが行われた。
その中で今回は『テレビマーケティングの進化 〜視聴質を加味したROI効率化について〜』と題され行われたセミナーの模様をお伝えする。
このセミナーには、株式会社リクルート ネットマーケティング推進室 シニアマネージャー 兼 株式会社リクルートジョブズ 商品本部 デジタルマーケティング室 マーケティング部長の金井統氏(写真:右)、TVISION INSIGHTS株式会社 代表取締役社長の郡谷康士氏(写真:左)が登壇し、TVISION INSIGHTS社が提供する『視聴質データ』を広告出稿の検証に活用する実例を紹介した。
■『視聴質データ』をテレビCMの出稿検証に使用
株式会社リクルートジョブズでは、同社の展開する求人情報サービス『タウンワーク』のテレビCM出稿におけるROI(投資利益率)の指標として、TVISION INSIGHTS社の提供する『視聴質データ』を活用している。
このデータは全世界数千世帯の一般家庭に設置された専用機器が独自の人体認識アルゴリズムに基づいて1秒単位で計測し、『VI(Viewability Index:滞在度)値』『AI(Attention Index:注視度)値』という2つの指標で集計される。
『VI(Viewability Index:滞在度)値』は「どの時間にどんな人がどんな番組/CMを見ているか」を示し、出稿枠の選定などといったメディアプランニングに活用できる。
『AI(Attention Index:注視度)値』は「放映された番組/CMがどれほど視聴者の注目を集めたか」を示し、出稿物のクリエイティブの効果測定に活用できる。
「テレビCMの出稿におけるPDCAの難しさには、かねてから頭を悩ませていました。全数ベースで集計スパンの短いネット広告に比べると、これまでのようなサンプリングデータをもとにした集計だけではどうしても限界がある。そこで、弊社が展開する『タウンワーク』のテレビCM出稿においてTVISION INSIGHTS社の視聴質データを検証に用いることにしました。現在、VI値をメディアバイイングの効果検証、AI値をクリエイティブの効果検証にそれぞれ用いています。」(金井氏)
■データに基づくバイイングで「リーチ効率を2ケタ%改善」
視聴質データの導入によって、どのような結果が現れたのか。まだ引き続きの検証が不可欠であると前置きしたうえで、金井氏はその具体的な“効果”を語った。
「データを活用した結果、VI値を指標に用いたメディアバイイングではリーチ効率が2ケタ%の改善を遂げました。これはかなりのインパクトといえるでしょう。」(金井氏)
画面への注視度を測るAI値に基づいたクリエイティブの検証については、次のように語った。
「AI値を用いたクリエイティブの効果測定ではCMキャラクターであるタレント出演時の動きを見たりしているのですが、 『(現在のCMキャラクターである)松本人志さんの顔がアップになるシーンで注視度合いが高まる』ことがわかりました(笑)。判断材料のひとつとしてではありますが、実際にデータを参考にしてキャスティングを決定したり、得られた集計結果を現場のクリエイターにフィードバックして、『やってはいけない(クリエイティブの)パターンは何か』を議論したりもしています。」(金井氏)
■「説得材料」にデータを活用する
新たなデータを用いることによって、どんなメリットが得られるのか。そのひとつに金井氏は「(放送局側への)説得材料」を挙げた。
「現在のデータの使用目的としては、『放送局への説得材料』としての面が強いかもしれません。『なぜこの枠を買いたいのか』を説明するための材料といったところです。出稿する以上、きちんと枠の価値を判断し、媒体にとってもメリットがある形をつくっていきたい。そのための交渉材料として、データは重要なのです。」(金井氏)
同時に金井氏は、テレビ媒体への熱い想いも吐露する。
「私たちは、テレビの力を信じているんです。テレビがなければ、カスタマーにトータルリーチすることができない。我々の持つデータを活用しながら、一緒に発展していける仕組みを作っていきたいと考えています。」(金井氏)
■「共視聴」で「複数人に同時リーチ」金井氏が考えるテレビの強み
セミナーの締めくくり、金井氏はTVISION INSIGHTS社への期待として、テレビの持つ“特性”に根ざした新たな効果測定の指標づくりを提言した。
「現状、視覚のデータを中心として計測されていますが、テレビの影響力は視覚的なものだけじゃない。たとえば“音の認知”── 言葉を発するタイミングや、キャッチコピーを発するタイミングといったものをどう科学していくかも重要な課題となるのではないでしょうか。PCは個人に向けて直接訴求するものですが、テレビは家の中で『その場にいる複数の人へ一気にリーチできる』媒体です。家族や友人たちと一緒に同じ番組を見る「共同体験」の質を測れるようになれば、テレビならではの強みを活かした新たな効果測定の指標を生むことができるのではないでしょうか。」(金井氏)
具体的な事例を用いながら、テレビの新たな効果測定の指標にいたるまでの幅広い考察──。昨今のテレビCMの中でも高い知名度と好感度を誇るリクルートの担当者である金井氏ならではの説得力を感じるセミナーとなった。