AIが変えるテレビとコンテンツビジネス〜AI活用の現在とこれから〜『コンテンツ東京2019』
編集部
2019年4月3日〜5日、東京ビッグサイトにてコンテンツ産業の総合展『コンテンツ東京2019』が開催された。今回は、最終日・5日に開催された専門セミナー『AIが変えるテレビとコンテンツビジネス 〜AI活用の現在とこれから〜』の模様をレポートする。
講師は、株式会社 電通 AI MIRAI統括/AIビジネスプランナーの児玉拓也氏。同社の開発したAIソリューションの事例を紹介しながら、クリエイティブ領域におけるアイデア支援ツールとしてのAI活用を提案した。
■AIは「どう使うか」から「何に使うか」「どんな課題を解決するか」へ
児玉氏は冒頭で「AI活用をとりまく現状」として、テレビコンテンツにおけるAIの活用事例を紹介。
2019年、日本テレビのドラマ『家売るオンナの逆襲』では、AI化されたドラマの登場人物たちとLINE上でグループチャットを楽しめる『AI 家売るオンナ』が番組コンテンツとして公開され、話題に。2018年にはNHKの『ニュースのヨミ子さん』をはじめ、AIと音声合成によってニュースを読み上げる『AIアナウンサー』が登場するなど、テレビコンテンツにおいてAIを活用したクリエイティブ事例が相次いだ。
一方で、児玉氏は「AIは『幻滅期』にある」とコメント。「プログラミングを行うことなく利用できる環境が整い、AIの“民主化”が進んでいる」(児玉氏)としながら、「技術サイドとビジネスサイドのズレが顕著になっており、いまだAIを使いこなせていない。このままではAIが流行で終わってしまう」と危機感をのぞかせる。
児玉氏は、「AIの活用方法を模索するフェーズは一段落。AIをどう使うか、ではなく『何につかうか』『どんな課題を解決するか』を考えるフェーズへと移行している」と語った。
■「アイデア出しの道具」としてのAI活用
つづいて児玉氏は、電通が推し進めるAIソリューションの最新事例を紹介。コンテンツにおけるクリエイティブの製作フローを「情報収集」「発散、アイデア出し」「絞り込み」に分け、それぞれにおける支援手段としてAIの活用を提案した。
まず「情報収集」のフローでは、同社が開発した未来予測プランニング支援ツール『TREND SENSOR』を紹介。
SNSデータと番組メタデータを紐づけた数千パターンにのぼる流行パターンをもとに、AIが流行の推移を予測。クリエイティブにおけるキーワード候補のなかから、より波及しやすいものを選び出すことで、SNS発信やバナー広告における精度を上げることが可能になるという。
つづいて「発散、アイデア出し」のフローでは、同社が開発したAIコピーライターシステム『AICO』を紹介。
過去の新聞やSNS上における文章データをもとにリリカル(叙情的)な言葉のパターンを学習し、コピーライティング特有の文法や言い回しに特化した「キャッチコピー的な文章」を自動生成する仕組みだ。
児玉氏いわく「1〜2年目の若手社員が修練としてコピーを大量に練る『百本ノック』のような工程を数秒単位で何度も試行できる」といい、実際に同社の現場では300人のコピーライターがこの『AICO』を「アイデア発想のタネ」として活用しているという。
以前、同システムを用いた生成されたキャッチコピーを掲載した新聞広告『AI意見広告』が話題となったが、「AIが生成するものと、人間のコピーライターが生み出すキャッチコピーのどちらが優れているかは本質ではない」と児玉氏は語る。同システムを用いたコピーライティングにおいては「AIによってランダムに生み出された膨大なアイデアのなかから人間が選別を行う、ということに重きをおいている」とし、クリエイターのスキルは「優れたものを『選びだす』能力へと特化していくのではないか」と語った。
■「受け具合の予測ツール」としてのAI活用
「絞り込み」のフローでは、同社の視聴率予測AI『SHAREST』と、SNS広告の効果予測システム『MONALISA』を紹介した。
『SHAREST』では、登場タレント、トレンド、枠視聴率、ジャンル、天気といった5,000項目以上のデータをもとに、140階層にわたる視聴率セグメントごとの視聴率を予測する。番組を構成する要素をパラメーターとして扱うことで、どのような内容がどのくらい視聴率に変化を及ぼすか、といった予測を番組構成レベルで検討することができるという。
児玉氏は「『この番組の枠を移動したら』『タレントを変えたら』視聴率がどう変わるかを可視化することができる」とし、実際の制作現場でも、これらの予測数値を参考にしながら番組の企画を練る取り組みが行われていると語った。
『MONALISA』では、クリエイティブ単位でSNSにおける動画広告の想定再生完了率やバナーの想定クリック率を予測することが可能。「『この素材をInstagramにあげたら、再生完了率が何%になるか』といった予測を行うことができる」という。
これまでクリエイティブごとの効果測定は、本番環境で複数のクリエイティブを出すことで効果を比較する「A/Bテスト」のような形でしか行うことが出来なかったが、こうした「受け具合の事前予測」がAIによって可能となり、市場に出す前の段階でより精度の高いPDCAサイクルを行うことができると児玉氏は語る。
「たとえば『MONALISA』のようなツールを広告入稿システムのいち機能として組み込むと、クリエイティブを入稿した時点で『このクリエイティブは“受け率”が低いが、そのまま入稿を続けるか』といったアラートを出す仕組みも可能になる」
昨今のAI分野においては、こうした「予測」の領域がホットになっているという。
■「自動生成×効果シミュレーション」でクリエイティブを精緻化する
「精緻化」のフローでは、同社が実証実験中のバナー自動生成ツール『ADVANCED CREATIVE MAKER』と、検索連動型広告の自動生成ツール『DIRECT AICO』を紹介。
『ADVANCED CREATIVE MAKER』では、ターゲット、キーカラー、キーワードを指定することで1,000〜2,000件におよぶ大量のクリエイティブを自動生成。さらにこれらのSNS上でのシェア数予測も同時に行い、上位のものを選ぶことで、SNS上で高いコンバージョンの得られるバナーをすばやく作り出すことが可能だ。その精度の高さは「人間が製作したものより高い効果を出したものもある」ほどという。
『DIRECT AICO』は、指定されたURLのWEBサイトを解析し、サイトの内容をもとにした広告文を自動生成する仕組み。
「AIが得意とする『大量な自動生成』と『データにもとづく精度の高い効果シミュレーション』を同時に行うことで、クリエイティブの精緻化が自動ですばやく行える」(児玉氏)
■AIはクリエイターの仕事を「奪う」のか?
今回挙げられた数々の事例は、専門性・属人性の高い職務として位置づけられるクリエイティブの分野にAIが切り込むものだ。巷では「AIの登場によって失われる職業が出てくる」という声が聞かれるが、クリエイティブの分野においてもそのような脅威が生じるのか、というのは気になるところだ。
セミナーの参加者からも「(クリエイティブ領域を担う)AIの開発が進むと、電通の仕事が無くなるのでは?」という質問が挙がった。この質問に対し、児玉氏は「当面のあいだは競合しない」と返答した。
「たとえば、デザイナーの持つ能力のなかで『バナーを作る』という作業は、付加価値が比較的低い。延々と複数のパターンを作るという作業もある。AIがこうした部分の作業を担うことでデザイナーやクリエイターの“空き時間”をつくり、浮いたリソースで新たな表現や付加価値の高い業務に取り組む、という流れが生まれる」
児玉氏は「現在のAIは単機能型のものが主流で、『AIが全部作ってくれる』という状態からは遠い」とし、「『人間のように振る舞う、人間の代わりになるAI』という発想から『AIと人間が協業する仕組みを作る』という発想へと展開する必要がある」と述べた。
大量パターンのアイデア出しや定型化されたレイアウトなど、コストが高い割に属人性や付加価値が低い業務をAIが“サポート”することで、人間とAIそれぞれの得意な部分を組み合わせ、パフォーマンスを最大化するというひとつの提案に至った今回のセミナー。新たなAIとの向き合い方として「AIを組み込むことを前提とした人材配置や組織づくりも今後は見据えていく必要がある」との提言を最後に残し、約1時間のプログラムを終えた。
■コンテンツ東京(全7展から構成)
<構成展示会>
第9回 ライセンシングジャパン(キャラクター&ブランド ライセンス展)
第8回 クリエーターEXPO
第7回 映像・CG制作展 新設「VTuberゾーン」
第7回 コンテンツ配信・管理 ソリューション展 新設「ブロックチェーンゾーン」
第5回 コンテンツ マーケティングEXPO
第5回 先端デジタルテクノロジー展 特設VR・AR・MR ワールド
第3回 広告デザイン・ブランディングEXPO
■第3回 AI・人工知能EXPO
会期:2019年4月3日(水)〜5日(金)10時から18時
会場:コンテンツ東京:東京ビッグサイト西展示棟
AI・人工知能EXPO:東京ビッグサイト 青海展示棟
主催:リード エグジビション ジャパン株式会社