2030年~2040年を見据えた新しい放送技術とサービスの発展~NKH技研公開2019レポート【後編】~
編集部
東京・世田谷にあるNHK放送技術研究所(技研)は、最新の研究成果を発表する展示会「技研公開2019」を5月30日(木)~6月2日(日)に一般公開した。それに先駆け、5月28日にメディア向け内覧会が行われ、今年のテーマや展示内容、見どころが紹介。前編に続く後編は、同研究所が3か年計画(2018-2020年度)で掲げている、ネットを活用してユーザー体験を向上させる技術「コネクテッドメディア」とAIにより効率的に番組を制作する技術「スマートプロダクション」の注目ブースをレポートしたい。
■利便性の高い超スマート社会を実現
・ネット×データ×IoTが連携するメディア技術 -Webでつながる生活と放送-
番組制作から視聴までのさまざまなWeb技術を応用することで、ネット×データ×IoT機器が連携し、コンテンツ制作者にも視聴者にも、今までにないメリットをもたらす放送メディアを実現する研究を展示。コンセプトムービーでは、10年後の超スマート社会(サイバー空間と現実社会が高度に融合した未来像)で生活する女性の日常が上映された。
それによると、家電とテレビが連携することで、冷蔵庫や洗濯機がAI音声アシストにより、お気に入りのスポーツ選手の出演情報を教えてくれたり、洗面所やメイクをする鏡がミラーサイネージとなり、そこにテレビ画面や番組情報が表示されたり、自動運転の車で移動しながらテレビコンテンツを楽しむことができたりといった近未来の生活が描かれていた。
・IP番組制作設備のクラウド化 -処理機能を柔軟に変更できるソフトウェア・デファインド番組制作システム-
IP技術やクラウド技術により、リモート制作や機器共有を実現する番組制作システムを展示。今年はさまざまな解像度の映像(2K/4K/8K)や、カメラの台数に柔軟に対応できる映像スイッチャーをクラウド上にソフトウェアで構築し、映像や音声信号の品質をIPパケットレベルでリアルタイム監視できる装置を紹介した。これにより、クラウドに接続した複数の中継現場や副調整室の間で番組制作設備や番組素材を共有できるようになる。
■AI技術を活用した効率的な番組制作
・生放送番組における自動字幕制作 -地域放送局の字幕サービス拡充-
地域放送局における字幕サービスの拡充に向けた、生放送番組の自動字幕制作技術の展示では、AIを活用した音声認識による、生放送の音声から自動的に字幕を制作し、インターネット配信するトライアルサービスを福島・静岡・熊本の3県で実施中だ。音声認識の誤りが発生しやすい区間の自動検出が新たに開発された。
・AIアナウンサー -ラジオ気象情報番組の自動制作-
ラジオで気象情報を伝えるNHKアナウンサーのノウハウを活かして、気象情報番組を自然で滑らかな合成音声で読み上げるAIアナウンサーの開発が紹介された。今年3月には甲府放送局のラジオ第1放送で、AIアナウンサーによるトライアル放送の実施が報告された。番組の長さに合わせた読み原稿の自動生成、伝わりやすい話し方の再現に注力している。
・ニュースを対象として日英機械翻訳システム -英語ニュースの迅速な制作支援-
日本語のニュース原稿を自動翻訳する技術を展示。同局が保有する大規模な日英ニュース対訳データをニューラル機器翻訳システムで学習させることで、一文が長い日本語ニュースに対しても、高品質な日英翻訳を実現した。
・スポーツの状況を体感できる触覚インターフェース -スポーツ番組のユニバーサルサービスの実現-
スポーツ番組の感動を共有し楽しめるユニバーサルサービスの実現を目指し、競技の状況を振動の大きさで体感できる触覚インターフェースの研究について、バレーボールを例に紹介。実況だけでは伝えるのが難しいボールの往来やバウンドの瞬間を触覚で伝えることで、視覚障害者にも競技が理解できる仕組みになっている。
・スポーツ映像の状況理解技術 -自然なカメラワークのAIロボットカメラの実現に向けて
AIを搭載したロボットカメラの実現に向け、選手やボールの位置などの状況を理解する技術と、状況に応じたカメラワークの自動生成技術を開発。効率的な番組制作を実現できる。サッカーを例に、選手の顔向きなど、競技の状況に関連する情報(メタデータ)もまとめて抽出できるようになっている。
73回目を迎えた今年の技研公開は、「ワクからはみ出せ、未来のメディア」のテーマに相応しい、2020年より先の2030年~2040年を見据えた新しい放送技術とサービスの発展を感じさせる展示だった。