春高バレーに起きた10のこと〜テレビと配信の美味しい関係『Connected Media TOKYO 2019レポート』
05AUG

春高バレーに起きた10のこと〜テレビと配信の美味しい関係『Connected Media TOKYO 2019レポート』

編集部 2019/8/5 12:00

2019年6月12日〜14日の3日間、千葉県・幕張メッセにて、マルチスクリーン・クラウド・ビックデータなどデジタルメディア分野における技術を集めたカンファレンス『Connected Media TOKYO 2019』が開催され、全期間で15万人を超える来場者を記録した。今回はこの中から、6月13日に開催された専門セミナー『春高バレーに起きた10のこと〜テレビと配信の美味しい関係』をレポートする。

パネリストとして、株式会社フジテレビジョン スポーツ局 制作担当局長の近藤憲彦氏と株式会社運動通信社 代表取締役社長の黒飛功二朗氏が登壇。モデレーターを株式会社フジテレビジョン 編成局 編成メディア推進部の佐竹正任氏が務め、フジテレビがインターネットスポーツメディア「スポーツブル(スポブル)」と共同で行っている高校生バレー大会『春高バレー』のインターネット配信を事例に、テレビとインターネット配信の関係性の展望を述べた。

■“学生スポーツに強い”ネットメディアとの協業

フジテレビでは『春高バレー』の名称で、日本バレーボール協会、産経新聞などともに高校生バレーボール競技の全国大会を主催。前身である『全国高等学校バレーボール選抜優勝大会』から含め、約50年にわたる歴史を持つ。「高校野球に負けないスポーツコンテンツを」との思いから立ち上げられたこの大会は、同社にとっても非常に思い入れのある存在だが、「高校野球や高校サッカーに比べて認知度がいまひとつ」(近藤氏)という状況もあり、全社的な強化施策が求められていたという。

そんな中、新たな活路のひとつとしてインターネット配信への展開が持ち上がり、スポーツ中継コンテンツで急成長していたスポーツメディア「スポーツブル」を運営する運動通信社へフジテレビが相談。両社の協業により、大会全試合をインターネット配信するコンテンツ「バーチャル春高バレー」が立ち上がった。

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運動通信社は、スポーツとインターネットをかけあわせたメディア事業に特化している企業。代表の黒飛氏が高校野球のライブ配信「バーチャル高校野球」のプロデュースを機に2015年に設立。2016年10月より「スポーツブル」の運営を開始しており、プロスポーツに限らず、マイナースポーツや学生スポーツも積極的に取り上げており、ライブ中継のほかドキュメンタリー、バラエティ、密着取材など豊富なフォーマットのコンテンツをすべて無料で提供。2018年の高校野球中継のタイミングではDAU(Daily Active User:1日1回以上アクセスしたユーザー数)300万、同時接続数60万、MAU(Monthly Active User:1ヶ月1回以上アクセスしたユーザー数)1,300万という高水準を叩き出すなど、スポーツメディアのなかでもその躍進ぶりが注目されている。

今回の施策に際し、「『春高バレーを“再生する”という感覚ではなく、現場の熱量や思いを強く感じるコンテンツとして十分に価値があると思っていた」と、黒飛氏。

佐竹氏も「かねてより『バーチャル高校野球』のヒットは知っており、全国から地方大会まで広い裾野を誇る点に感銘を受けていた。私たち(春高バレー)もこんな風に展開できたら」と、当初より“相思相愛”の形でプロジェクトがスタートしたことを示した。

■放送ではできなかったLIVEに初挑戦

『春高バレー』はフジテレビでも全社的なイベントとして複数の部署を横断していたため、「スタート当初は社内調整」に難航したと佐竹氏。しかしさまざまな壁を乗り越え、2019年初頭に都道府県大会104試合を配信。フジテレビスポーツ局が制作するスペシャルコンテンツも加わったほか、東京大会においては史上初となる試合のライブストリーミング配信にも乗り出した。

「『見たくても見ることが出来ないものを届けたい』という黒飛氏の言葉に刺激を受けた。限られた地上波放送枠では、視聴者やバレーボールフアンに春高バレーの魅力の全てを伝えることはできていないと、以前から感じていた」と、近藤氏。

『バーチャル春高バレー』では「全国からの注目度も高い東京大会を、これまでは地上波で録画放送していたが、今回は地上波ではなく、あえてライブ配信という形にチャレンジした」と近藤氏は語った。

2019年1月には、武蔵野の森総合スポーツプラザで開催された全国大会のライブ配信を実施。KDDIとの共同開発により、時間とともに画角やズームを自在に操作しながら試合をリプレイできる「4Dリプレイ」や、試合コートをスマートフォンで撮影すると現在の得点経過や選手情報が合成されて表示される「AR観戦」など、会場の観戦者をも視野に入れた多彩なコンテンツが提供された。

「いろんな競技のなかでも『春高バレー』は応援とプレーヤーの距離の近さが印象的だった。会場の体育館のなかで応援の声が反響するなか試合が展開する様子は、バレーボールならではの臨場感があった」と、黒飛氏。

「実際の試合現場に足を運ぶことで、これまで感じられていなかった価値を感じることができた。参加したスタッフからも『フジテレビがどれほど「春高バレー」を愛しているかが伝わってきた』という声が聞かれた」と、黒飛氏は現場の様子を振り返った。

■「地上波で見られなかったものを見せる」インターネット配信によせる希望

セッションの締めくくり、登壇者一同で今回の施策を振り返りながら、テレビとネット配信の新たな関係性について展望が語られた。

「これからは『(試合にかける)熱量をどれほどビジネスにできるか』。従前の広告ビジネスは(ターゲット層への)リーチや(出稿)量で取引されていたが、ことにローカルスポーツに関してはいかに “質” で取引できるかが重要」と、黒飛氏。「学生スポーツの未来をスポンサー(からの支援)だけに依存するのはおかしいと思う」とし、個人サポーターをあつめて、いかに還元していけるかが重要なのではないか」と、広告効果に左右されない新たな収益モデルの必要性を説いた。

近藤氏は「現状、スポーツ中継は地上波放送がメインで、視聴率が求められる」としながら、「そのスポーツコンテンツが持つ可能性を見定めながら、従来の放送形態に加え、いかに付加価値を付けられるかを考えることが重要」と話す。2019年3月の『世界フィギュアスケート選手権』では、前半にあたる時間帯の演技をライブ配信し、ゴールデンタイムに行われる後半演技を地上波で生中継。同時に、セカンドスクリーン向けの映像配信や、マルチアングルでのライブ配信なども積極的に実施した」という。

「現在フジテレビが放映権を持つスポーツ競技は色々あるが、地上波で放送されるのは、その一部のみということも多い」と佐竹氏。これまで地上波に乗ってこなかったものをインターネット配信に乗せるというアプローチもある」と話し、「たとえばマラソンなどでも、ゴール視点や車載バイクといった別アングルをインターネット配信で提供できる可能性があるのではないか」と述べた。

「『バーチャル春高』に関してはまだ2年目。よりよいものをこれからも出していかなければいけない」と、近藤氏。2019年9月に開催を控える『バレーボールワールドカップ』も「フジテレビの大切なスポーツソフト」とし、「ワールドカップと、その後の大会とつなげた展開を志向していきたい」と意欲を見せた。

「見るだけでなく、視聴者が具体的に『応援』に関われるようなサービスを検討している」と、黒飛氏。「なかなか地上波に出ていないローカルスポーツなど、まだ多くの人に見られないものもいっぱいあるはず」とし、引き続き「量と質を追求していきたい」と希望を語った。

試合の展開のみならず、選手のバックグラウンドやスタジアムの応援など、スポーツによってもたらされるコンテンツとしての奥の深さ── 登壇者たちから溢れ出る“スポーツ愛”の深さに、会場の参加者たちも一同引き込まれる展開のセッションとなった。コンテンツ企業としての枠組みを超えた「テレビとインターネット配信の関係」は、私たちに未知なるスポーツ体験を与えてくれるものとなりそうだ。

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