日本テレビ「AI顔認識システム」活用実験から見えた、これからの人間の働き方【vol.2】

編集部

放送とAIの関係性が模索されるなか、日本テレビでは番組制作の現場レベルでAI活用が積極的に試みられている。

2019年7月21日、参議院選挙にともない同局系列で放送された選挙特番の制作現場において同社開発の「AI顔認識システム」が導入され、映像に映っている顔から人物を自動検出する実験が行われた。

開発の経緯から実際の運用結果に関する話題を扱った前編に続き、今回は後編としてこれからの展開方針をはじめ、「AI登場後の人間の働き方」に切り込んで話を聞いた。

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── 今回の実験において、現場から「スタッフの省力化につながった」という声がありましたが、AIの導入によって具体的に改善したポイントを教えて下さい。

「これまで確認作業につきっきりだったスタッフが解放され、これまで人員配置的に難しかった動きができるようになりました。

たとえば、収録素材の確認を担当していた専属スタッフは、AIによる省力化を機にネット局とのコーディネート役に回ってもらいました。コーディネート業務は各社との綿密な調整が必要な『人対人』の仕事なので、この部分はAIで代替することが出来ません。このように、人間でしか対応できない作業にリソースを割けるようになりました。

またオンエア素材のチェックはベテラン記者と専属スタッフが担当していましたが、AIの導入によって人間による確認の時間が減り、浮いた時間で放送内容のチェックやディレクションといった放送そのものにおける重要な業務に多くのリソースを割けるようになりました」

── 将来的にこれらの確認業務はすべてAIに置き換わっていくのでしょうか?

「AIを導入した今回の選挙特番においても、人間がダブルチェックを行う体制そのものは変えませんでした。確認作業そのものにかかる時間や人員を減らすことは可能ですが、完全にゼロにすることは難しいと考えています。

見方を変えれば、人間のダブルチェックにAIのチェックが加わったことで、これまで以上に入念な『トリプルチェック』が実現したということに重きをおいています」

── 報道現場で大成功を収めた「AI顔認識システム」ですが、今後全社的な活用の働きかけは考えていますか?

「かねてから、新しい有用な技術が見つかったときには積極的に現場に出向いて『こういう技術があるけど、ニーズないですか?』とヒアリングするようにしていました。今回の実験以降、バラエティなど報道以外の現場からも『使いたい』という声をもらったり、社内で声をかけてもらったりする機会が増えました」

── 今後新たに「AI顔認識システム」を活用してみたい分野はありますか?

「活用できそうだなと考えているのが、キャッチアップ配信やソフト化といった2次利用時の著作権処理です。対象となる映像の出演者に使用許諾を得るフローがありますが、現在は大部分が人手によって行われています。この作業をAIによって自動化できれば、これらの業務も大きく効率化でき、人的リソースの有効活用にもつながると考えています。

また、今回の実験を通じ、「AI顔認識システム」が小さく映った顔や不鮮明な顔もある程度は認識できることがわかりました。画面の動きが激しく、これまで活用が難しいと思われたスポーツ映像への応用も可能ではないかと考えています。

2019年秋のラグビーワールドカップや、2020年夏の東京オリンピックなど、今後日本国内では多くの大規模スポーツイベントが予定されていますが、あらゆる種目のデータをあらかじめ学習させておくことで、あまりメジャーではない競技や選手についても高い精度で判定が可能になります。人物の判定のみならず特定の競技特有のカメラワークなども学習すれば、『この競技でもっとも効果的な画面構成』を自動的に設定することも可能になるかもしれません」

── 今後「放送局×AI」の分野でチャレンジしてみたいことは?

「究極としては、編集作業の自動化に取り組みたいです。現状の映像編集には高度な職人技が求められますが、ベテランスタッフを大量・長時間確保することは難しいし、プロであっても多くの作業時間を必要とします。

「AI顔認識システム」による映像の被写体判定は自動編集の材料として活用できますし、当社のテックイベント『日テク』でも披露した「AIによるニュース原稿の自動要約技術」(報道部門のニュース文法を学習したAIによって、文脈を損なわずにニュース原稿を自動要約する技術)』を応用すれば、“文脈”に沿った映像編集も可能になるかもしれません」

「日テク2019」展示より

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放送現場における「編集作業」は、内容に対する前提知識と文脈を必要とする一方で、特定の文法に沿った機械的な作業箇所も多く含んでいた。こうした現場にAIが導入されることによって、属人的=人間しか出来ない分野と非属人的=AIによって代替可能な分野が分離でき、仕組み化の難しかった領域が大きく効率化できる可能性を秘めている。

今後、AIは放送の現場に新たな働き方改革の形をもたらすこととなりそうだ。

日本テレビ、参院選特番での「AI顔認識システム」活用実験実施について【vol.1】

【加藤大樹(かとう・ひろき)氏プロフィール】

2003年 日本テレビ放送網株式会社入社
2004年 同社「CV(Compact Video)センター」に配属。報道など生放送番組素材の編集業務やシステムの導入・運用設計を担当
2015年 同社人事部に異動。新卒採用、社員研修などを担当
2017年 同社技術開発部に異動。「AI顔認識システム」「AI原稿自動要約システム」などのAI系開発プロジェクトを立ち上げ
2019年 部署統合により、同社技術開発部が「技術戦略統括部」に名称変更

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