テレビ朝日ドラマ『鈍色の箱の中で』好発進の理由と画期的なスピンオフCM展開とは?~ニビハコ制作チームに聞く【後編】
編集部
テレビ朝日にて、2020年2月8日(土)より放送がスタートし、今週3月14日(土)に早くも最終回を迎えるドラマ『鈍色(にびいろ)の箱の中で』(通称:ニビハコ、毎週土曜27:00~)。今作では、前編でもお伝えしたように「360°展開」という施策が行なわれている。多面的なSNS展開やスピンオフCM企画の実施など、地上波放送の枠組みにとどまらず、ドラマの世界をリアルな世界に開いていく取り組みだ。
後編では、放送後の反響や制作チームの手応え、そして画期的なスピンオフCM企画について伺った。
■SNSとドラマ本編で登場人物を立体的に描き出す
SNS展開に注力しているドラマの場合、ドラマ本編の構成も何か通常のドラマ制作と異なる点があるのだろうか?
この点をプロデューサーであるテレビ朝日ドラマ制作部の残間理央氏に尋ねると、「今回の展開の場合、ドラマ本編の一部が、放送よりも先にInstagramや360°サイトで発信されることになるので、視聴者はドラマ本編を見る前に、本編の内容をある程度推測できてしまうんです。でも事前に公開されるのはシーンごとの小間切れで、全体のお話の流れはつかみにくい。だからこそ、ドラマ本編ではお話の流れや登場人物の感情の移り変わりみたいなものをしっかり描くように気を配りました。
例えば第2話は、美羽と基秋が付き合うことになったものの、結局基秋の気持ちは他にある、という内容なのですが、前半では幸せな2人のシーンをとことん明るく描きました。そしてラストで一気に悲しいシーンをとことん悲しく、暗く描くようにしました。事前にSNSで一部の動画を見てくださっていた視聴者が単純に「答え合わせ」をしながら見るのではなく、ちゃんと本編も楽しみながら見てくださるような工夫をしなくては、と思っています」と語ってくれた。
■本編には描かれないシーンが見られるスピンオフCM
そして、本編と連動したスピンオフCMにもこれまでになかった仕掛けがある。このCM企画を担当したインターネット・オブ・テレビジョンセンター(IoTvセンター)鈴木努氏はニビハコのスピンオフCMの企画意図を次のように語る。
「出演者の岡本夏美さんがドラマの役柄の設定のためにご自身の髪を切る、という話を聞きました。でも台本を読んでも髪を切るシーンが見当たらないんです。ドラマ本編では“ある出来事”を受けてあおいが髪を切り、髪を短くした姿で突然仲間の前に現れる、というストーリーになっていて。髪を切るという大事な瞬間を使って、裏のストーリーが作れるな、と直感的に思い、若い世代 がよく利用している サービスとコラボ したスピンオフ的なCMにできないかなと考えたのです」
そして、この取り組みに即座に、ご賛同頂いた「 ホットペッパービューティ ー」とドラマ本編の撮影の合間を縫って 、岡本夏美さん演じるあおいにスポットを当てたスピンオフCM が撮影されたという。
本編の合間で放送されるCMをドラマの世界観を崩すことなく視聴者に届けることができるだけでなく、本編では描かれないあおいの複雑な心境をCMを通して垣間見ることができるという構成だ。ドラマ本編の出演者がただ単にCMに出ているだけではなく、ドラマの話の展開の上でも大きな意味を持つスピンオフCMに対して、業界内関係者からも驚きの声が届いたという。
■部署間の垣根を超えた連携で示した新しい可能性
SNSの動画制作を担当した西脇氏は、「今までSNS周りの担当はドラマが出来上がってから関わることが多かったですが、今回はドラマ部や制作の皆様と構想の段階からご一緒できたので、ストーリーにも踏み込んだSNS用の素材制作ができたし、すごく前向きに作業を進められる環境でした」と有機的な連携ができたことを強調する。
そして鈴木氏は、「今回の取り組みは、スポンサーやSNSでのプロモーション展開に関わるすべての部署が展開の柱の部分を理解し、垣根を越えてオーバーラップしてアイディアを出し合うことで新しい可能性を見出すことができたのではないかと考えています」と語る。
『鈍色の箱の中で』は深夜3時という深い時間帯での放送にもかかわらず、プライム帯で放送されているドラマやバラエティコンテンツと肩を並べ、第1話~第5話全てで、一時はTVerランキング4位にランクインした。
鈴木氏は「今回の作品は、深夜帯のドラマ。しかもターゲットがティーン層やF1層にある程度絞られている。それでも動画配信ではプライム帯のドラマコンテンツと遜色ない再生数を獲得できたのは本当にうれしいことです」と話し、残間氏も「地上波の放送枠とは関係なく動画配信の場が平等に与えられる時代。どの放送枠のドラマであっても配信で上位に食い込めるチャンスがある。ここにこれからの時代のドラマ作りの面白さがあると思います」と力強く答えてくれた。
『鈍色の箱の中で』の放送は今週末で最終回となるが、引き続き、同社の取り組みに注目していきたい。
【『鈍色の箱の中で』キャッチアップ配信情報】