東宝×ALPHABOAT×闇 合同オーディション企画「ショートホラーフィルムチャレンジ」
マーケティングライター 天谷窓大
毎日放送、GAORAなどで構成されるMBSグループの新規事業創出を担う会社として設立された「MBSイノベーションドライブ」。その事業領域はVRから食、スポーツにいたるまで、放送業界の枠にとどまらない多様な展開軸をもつ。2018年11月にはVR(仮想現実)技術を駆使したホラーコンテンツ制作会社「株式会社闇(やみ)」の株式を80%取得し、子会社化したことで話題となった。
今回は、株式会社闇が、東宝株式会社・ALPHABOAT合同会社による才能発掘プロジェクト「GEMSTONE」と組んだクリエイター発掘オーディション「ショートホラーフィルムチャレンジ」について、株式会社闇 代表取締役社長CEOの荒井丈介氏にインタビュー。次世代のホラー映像作家を発掘するという取り組みを通じて同社が描く、ホラーコンテンツの未来を聞いた。
■「10秒以上5分以内」で怖さを表現する
──「ショートホラーフィルムチャレンジ」の概要について教えてください。
荒井氏:「ショートホラーフィルムチャレンジ」は、東宝株式会社とALPHABOAT合同会社によるクリエイター発掘プロジェクト「GEMSTONE」の企画として実施されます。同プロジェクトのオーディション企画第5弾となる今回、ホラーとテクノロジーをかけあわせた「ホラテク」で新しい恐怖体験を作り出す企業である株式会社闇が参画し、ホラーをテーマにした映像作品を募集します。
──今回の作品応募ルールは「10秒以上5分以内の動画」のみと聞きました。ホラーコンテンツにはさまざまなジャンルがありますが、表現する内容は自由なのでしょうか。
荒井氏:はい。「呪い」はもちろん、ゾンビやオカルト、エイリアンなど、怖いのものであれば表現のジャンルは問いません(笑)。既存の仕組みにとらわれない、「怖い」を表現した作品を募集します。
──「10秒以上5分以内」という条件はショートムービーとしてもかなり短いものですが、どのような経緯からこのようなフォーマットになったのでしょうか。
荒井氏:いきなり(長編の)ドラマ作品を撮れるかというと難しいと思いますが、いまや専門的な教育を受けてない人もアイデアとセンスでYouTubeに映像を上げる時代で、それを世界中の人たちが自由に見れます。海外に目を向ければ白昼を舞台にしたホラー映画がヒットしていたりと、私たちの既成概念を覆されるような違うホラーの世界が広がっているのを感じます。しかも、こうしたクリエイターたちは、劇場映画を制作する前からYouTubeに作品を上げていたのです。短尺動画ならば表現のエッセンスが詰まり、より作家性が見えるのではないかと考えました。
まず(SNSで親しまれ、参加ハードルの低い)短尺動画で発揮できる才能を見つけることができるシステムを作ろうということで、(オーディション主催者の)東宝が主体となってフォーマットを決定しました。今回のオーディション企画をきっかけに、ホラーを撮ったことがない人にこそ、ホラーを撮って欲しいと思っています。
──オーディション受賞者にはどんな特典が用意されますか。
荒井氏:受賞者には総額50万円の賞金を用意しているほか、受賞作品に対しては東宝株式会社、ALPHABOAT合同会社、株式会社闇の3社による新規企画の立ち上げも検討しています。
■闇が描くホラーコンテンツの未来
──これまでとは異なるファン層の開拓も期待できそうです。
荒井氏:ひとくちにホラーといっても、世代によってその捉え方はまったく異なることがわかってきました。とくに若い人々は、ジェットコースターのような感覚でアトラクション的にホラーエンタメで遊んでいます。「みんなでお化け屋敷に行こうよ」と気軽に誘いあってホラーを楽しんで欲しいですね。
──2020年2月7日公開の映画『犬鳴村』(清水崇監督)において闇が企画制作したプロモーションムービーは、中高生を中心に大きな話題を呼びました。
──本編映像を改変してしまおうというアプローチにはどんな狙いがあったのでしょうか。
荒井氏:これまでのように「めっちゃ怖い」「最恐」などと打ち出しては、ホラーが苦手な人はそもそも怖じ気づかれてしまいます。そこで(ホラーに対して免疫の少ない)女子高校生をメインターゲットに設定し、彼女たちに映画への興味を持ってもらおうと狙いました。公開動画のコメント欄には「怖そうだけど見に行ってみよう」という書き込みが並んだときは「してやったり!」という思いでした。
この盛り上がりを受けて、「犬鳴村恐怖回避ばーじょん」を全編制作して劇場公開することまで決まりました。
──前編インタビューでの「ホラーをエンターテインメントとして楽しめる」という言葉は印象的でした。
【前編】MBSイノベーションドライブ「ホラービジネス進出」の理由
荒井氏:私たちは「ホラーエンターテインメント」と呼んでいるのですが、お笑いや感動モノと同じように、人を怖がらせることも一級のエンターテインメントであり、創造力の産物です。欧米のホラー作品はモンスターのような明確な脅威と対決する構図のものが多いですが、日本のホラー作品は家にいる幽霊と対峙したりと、見えざる「存在」がまず主軸にあり、その周囲に生まれるドラマを見せていく「話芸ベース」のものが多く見受けられます。『怪談』で知られる作家・小泉八雲の作品のように、怖いのに感動を呼ぶ話もある。日本は恐怖を文化や芸術に昇華してきた国です。こうした魅力を国内外でもっと広く楽しんでもらえたらと思うのです。
──「ショートホラーフィルムチャレンジ」受賞作品には、闇も参加しての企画化も検討されているとのことでしたが、展開方法としていま気になっている分野があれば教えてください。
荒井氏:「XR」と呼ばれる、さまざまな視覚拡張に興味があります。すでに闇はARやVRのコンテンツを展開していますが、その先にはMR(Mixed Reality:複合現実)を見据えています。現状のVRでは体験者が(VR)ゴーグルを付けた瞬間(仮想空間に)ひとりぼっちになってしまい、(複数人での)共有体験を作り出すことが難しい環境にありますが、MRが普及すればゴーグルを装着した同士がおなじテーマパークにいるような感覚で楽しむことができ、仲間とコミュニティを作って「コミュニケーションしながら遊ぶ」一体感ある環境が生まれるでしょう。そこにホラーの強みを掛け算できれば、より没入感のある新しい体験を作り出せると考えています。
高速回線やSNSが日常生活にひろく浸透したことで生まれた「視聴習慣の変化」が、新たなホラーの形を生んでいく──。従来のイメージを凌駕する、これまでにない価値感のホラーエンターテインメントを体験できる日は遠くない。
【GEMSTONEクリエイターズオーディション『ショートホラーフィルムチャレンジ』】
応募期間:2020年2⽉5⽇(⽔)17:00〜6⽉15⽇(⽉)23:59
受賞者発表:7月上旬(予定)
応募作品は、順次「GEMSTONE」公式YouTubeチャンネルで発表予定
賞金総額:50万円
受賞者には東宝株式会社、ALPHABOAT合同会社、株式会社闇3社での新規企画開発検討