日本テレビ×LIVEPARKが取り組むVTuber事業 確かな手応えと新たな可能性〜インタビュー(後編)
マーケティングライター 天谷窓大
日本テレビが2020年5月に立ち上げたVTuberネットワーク「V-Clan(ブイ・クラン)」は、グループ企業である株式会社LiveParkが運営する動画配信サービス「LIVEPARK」上にて、人気VTuberらによるバラエティ番組『VTuberおバカぐらんぷり』を有料配信した。
2020年6月22日(月)から7月13日(月)にかけての期間中、全4回の配信を行い、総勢9名のVTuberが参加。「VTuberの『おバカNo.1』を決める」というテーマで、MCに芸人の永野さん、アシスタントMCにVTuberの富士葵さんを迎え、番組ハッシュタグが約10,000件ツイートされ、話題を集めた。
後編では、前編に引き続きV-Clan共同代表で、今回の『VTuberおバカぐらんぷり』プロデューサーの西口昇吾氏、そして株式会社LivePark代表取締役社長の安藤聖泰氏、同社総合プロデューサーの清田いちる氏にインタビュー。制作の裏側や、企画の背景にある深い“VTuber愛”に切り込んで尋ねる。
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■LIVEPARKとは
日本テレビグループのLivePark株式会社が運営するライブ配信アプリ。低遅延のライブ映像配信をベースに、投票やスタンプなどゲーム性の高い演出や出演者とのコミュニケーション機能を備え、スマートフォン上でインタラクティブなオンラインイベントを提供している。
■「VTuberの前提知識がなくても爆笑できる」シンプルな企画で勝負
──『VTuberおバカぐらんぷり』とは、どんな番組ですか?
西口氏:『VTuberおバカぐらんぷり』は、芸人の永野さんとVTuberの富士葵さんMCのもと、VTuberの皆さんが解答者として、早押しクイズで対決する番組です。全4回の配信のうち、初めの3回は「予選」として、それぞれの回で最も「おバカ」だった人同士が決勝戦で競い合うトーナメント形式となっており、決勝戦で最もおバカだった人に「おバカNo1」の不名誉な称号が与えられるという内容になっています。
──MCに芸人の永野さんを起用した点が印象的でした。その意図は?
西口氏:解答者の性格や普段の活動などの事前知識がなくても、誰が見ても腹を抱えて笑える番組にしたいという思いがありました。解答者のVTuberさん同士でも、今回の出演をきっかけに初めて共演する方が多かったですし、さらには新型コロナウイルスの影響で完全リモートでの生配信を行う必要があったため、うまくお互いの距離を縮められなかったり、それぞれが魅力を十分に発揮できなかったりするのは、ものすごくもったいないので、そこを問答無用で巻き込んでいく「破壊力」のあるトーク力とキャラクターが際立った永野さんに出演をお願いしました。また、今回初めてVTuberの世界を体験する視聴者さんも多いと思ったので、“リアル”側の代弁者になってくれると期待しての起用です。
──永野さんと富士葵さんというMC陣の組み合わせにも背景があるそうですね。
西口氏:今回、永野さんと一緒にMCを務めた富士葵さんはかねてから永野さんの大ファンなんです。永野さんのキャラクター性をよく理解しており、なおかつVTuber目線でもトークを展開できる富士葵さんに、解答者と永野さんをつなぐ「架け橋」的な存在として活躍していただきました。この二人の組み合わせは、控えめに言っても最高だったと思います!
──VTuberの知識がなくても、純粋に番組として楽しめるというのは大きいですね。
西口氏:「てぇてぇ(VTuber業界でよく使われるスラング。尊いという意味。)」な感じの番組というか、推し(自分たちが熱烈にファン)のVTuberさん同士が絡んでいて、なんだか優しい気持ちで観ていられる構成の番組が多くて、実際にこれはVTuberファンの間でも求められていますし、VTuber番組の正解の一つの形なんだと思います。僕も推しのVTuberさんがいるので、この気持ちはすごくよく分かるのですが、やっぱりこれは出演者のことをよく知らないと置いてきぼりにされてしまうコンテンツなんですよね。
VTuberの世界は、VTuber同士の繋がりやストーリーも含めて楽しめる世界なので、番組の限られた尺の中で簡潔に言語化して説明しようとするとつまらなくなってしまいますし、むしろVTuberの世界のことがよく分からない人たちにもその世界を説明するのではなく、フラットに体験していただきたかったんです。もちろんVTuberの世界をよく知っている方達にも楽しんで貰える番組にも仕上がったと思っています。
だから、企画自体は「一番おバカな人を決める早押しクイズ番組」と誰でも入りやすいようにシンプルかつ王道にして、その中で、VTuberの世界をまだよく知らない人の代表として永野さんが、富士葵さんのサポートを得ながら、番組を通じてほぼゼロからVTuberの皆さんの個性と魅力に気付き、だんだんとそれをわかりやすく視聴者目線で引き出していくという構成にしました。また、テレビ番組のクリエイターとも相談をして、事前学力テストを行っておバカ解答を面白おかしくいじるくだりを入れたり、クイズの出題から正解発表の流れのフォーマットを決めたりするなど、「ネットっぽさ」と「テレビっぽさ」をミックスした番組にすることも工夫しました。
■VTuberの魅力に気づき、番組中に「ハマった」MC・永野
──番組制作の現場で苦労したことは?
西口氏:だんだんとVTuberの皆さんの魅力に気付いていくような構成とはいえ、全く知識がないと、そもそもVTuberとは何か?というところを追求しているうちに番組が終わってしまうので、初回の配信前に打ち合わせを行い、永野さんに企画の趣旨や解答者の個性などざっくりとお伝えしました。VTuberのことをあまりよく知らない永野さんから見て、おバカな解答が出た時に「(彼女たちは)おバカな解答をした方が“おいしい”と思っているのでは?」と思われてしまうと、場の空気が白けてしまうので、事前の打ち合わせでも「彼女たちはウケを狙っているのではなく“マジ”なんです。狙っておバカ解答をする子は居ないんです。」と説明をしましたが、いざ本番になると、予想を越える“ありえない解答”が連発し、そのたびに永野さんが「ウケを狙っているのでは?」と心配になっている様子が伺えました。
──MCとしても「ハプニングか、ギャグか」では、その後のイジり方も大きく変わりますよね。どこまで本気なのか、という……
西口氏:でも、解答者の皆さんはとてもピュアなので、分かる問題が出題された時には、すごい勢いで必死に当てにいくんです。そして、見事正解して大喜びする姿を見て、永野さんも解答者がウケを狙っているわけではないと分かり、皆さんの個性や魅力にだんだんと気付いてくれました。
──VTuberファンとしても、この反応は嬉しいですね!
西口氏:めっちゃ嬉しかったです!収録が終わるたびに「すげー、楽しかった!」「VTuberの世界って面白いね!」と、永野さんにはうれしい反応をいただきました。これまでVTuberの世界に触れてこなかった永野さんがどんどん「VTuberの沼にハマっていく(VTuberの世界に夢中になっていく)」様子がすごく嬉しかったです。
■ビジネス面でも感じた「手応え」
──今回はグループ企業であるLIVEPARKでの配信でしたが、こうした協業の座組は当初から決まっていたのでしょうか。
西口氏:企画が出来上がった後、どの配信プラットフォームでどのような座組みでやるのかを思案していたところ、まずは日本テレビのグループ企業であるLIVEPARKの安藤聖泰社長と総合プロデューサーの清田いちるさんに「VTuberの番組をやりたい」と提案させていただきました。LIVEPARKでは、VTuber番組の配信実績がゼロの状態で番組を採用することに、事業的なハードルを感じてはいたものの、「単純に『制作委託』のような形で単発企画として行うのではなく、継続的な事業展開も含めて一緒にできないか」と逆にご提案いただき、LIVEPARKが有料チケット型の生配信サービスを開始するタイミングに合わせて、『VTuberおバカぐらんぷり』の実施が決まりました。
──今回の『VTuberおバカぐらんぷり』、事業としての手応えはいかがでしょうか。
西口氏:VTuberのファンのみなさまに思い切り楽しんでいただく、ということは大前提としてあるものの、「VTuberの番組を初めて見た」という声がかなり多かったのが印象的でした。事業ターゲットを広げるという意味でも、良い取り組みになったと思っています。また、音楽ライブのように演出面での制作コストを大きくかけず、純粋に企画と構成で勝負することで、制作費を抑えられるバラエティ番組であり、かつ出演者同士を完全リモートでつなぐ形で実施できたことは、今後コロナ対策を行いながら継続できるフォーマットになったと思っています。券売もかなり好調だったので、もっと領域を広げながら、LIVEPARKさんと一緒に事業展開していきたいと思います。
――『VTuberおバカぐらんぷり』を初めて開催するにあたり、告知面で工夫されたことはありますか?
清田氏:事前に告知を行い、今回『VTuberおバカぐらんぷり』参加のVTuberたちによる「事前学力テスト」の一部を公開しました。こちらがものすごく好評で、10万〜20万台のインプレッションを叩き出したのです。これによって「これまでVTuberに興味はあったけれど、視聴のとっかかりが見つからなかった」というライトなファンの方たちにも注目していただき、実際に番組本編を観に来ていただく流れにつなげることができました。コンテンツの一部を見せることによって「(VTuberの世界の)中はこんなに面白いことになっているんだ!」と“刺さった”ことに手応えを感じています。
🥳VTuberおバカぐらんぷり🥳 #VおバカGP
— LIVEPARK (@livepark_jp) June 26, 2020
参戦VTuberの事前テスト答案をチラ見せ!
6/29配信の予選グループB、最後の刺客は銀河アリスさん(@alice_shinryaku)
ことわざを体現するかのような怒涛の間違えラッシュ!
そんなアリスさんはもう誰にも止められない!! https://t.co/K8ji16XsR0 pic.twitter.com/P3yb6ls9FS
──今回の配信を通じてさまざまな視聴データが集まったと思いますが、特徴的な動きはありましたか?
清田氏:今回配信をご覧いただいた方のうち男性が68.1%で女性が31.9%、年齢層では25〜35歳の方々が再多数でした。私たちが当初たてていた仮説よりも男女比がフラットに出たという印象です。
安藤氏:もともとLIVEPARKは女性ユーザーの方が多く、普段の配信では平均60%を占めています。アイドルとのコミュニケーションというコンセプトを持つ配信アプリが多いなかでLIVEPARKの場合はエンタメに特化しているということも影響しているのかもしれません。
──LIVEPARKのユーザー層をひとことで表すと、どんなイメージですか?
安藤氏:興味の範囲が集中的で、かつ熱量の高い方たちに多く集まっていただいていると思います。こうした方々に向けて、ブランドや商品などを届けたいという企業様とご一緒させていただくことが出来れば、さらに熱量の高い空間が出来上がるのではないかと期待しています。
──高い熱量がさらに高い熱量を生む、そんな好循環が期待できる環境ですね。
安藤氏:そうですね。熱量が高いサービスになるほど、視聴データがもたらす価値も大きくなっていくことと思います。
──データを活用した施策なども、これからは考えていますか?
安藤氏:いまの時点ではデータドリブンをむやみに急ごうとは考えていません。まずは継続可能な企画を第一に考え、そのもとで生まれた「盛り上がり」を積み重ね、データの価値を上げていきたいと考えています。
西口氏:データ解析は得意分野ですが、単発の案件のみで何かを判断するのはまだ早いと思っています。まずはLIVEPARKとの取り組み実績をじっくり積み重ね、そのなかで仮説を立てて、その検証をしながら、「クリティカルに響く要素」を見出していきたいと思います。
──今後、具体的に取り組んでいきたいと考えていることはありますか?
西口氏:オンラインイベントはこれからもどんどんやっていきたいと思っています。7月19日(日)にXRエンターテインメント、BS日本、日本テレビの三社共催で、バーチャルユニットが様々なバラエティ企画に挑戦したり、音楽ライブを行うオンラインイベント『VILLS(ビルス)』を開催したりしました。こうしたVILLSをはじめとするVTuberのイベントを国内だけでなく海外にも展開していきたいと考えています。
■あくまで「いちファン」の目線を忘れない
──今回の『VTuberおバカぐらんぷり』では、有料配信チケットの購入特典として参加VTuberの特典ボイスがプレゼントされました。こうした「特典」ひとつとっても、ファン心理をくすぐる“VTuber愛”を感じます。
西口氏:シチュエーションボイスを特典として付けさせていただいたのですが、正直めちゃくちゃ豪華だと思います!
──作り手でありながら、あくまでひとりのVTuberファンとしての目線を忘れない姿勢がとても印象的です。
西口氏:推しのVTuberさんのイベントにはよく参加しているのですが、例え運営さんと一緒にお仕事をしたことがあっても、なんだか照れ臭いので、こそっとバレないように自費でチケットを購入して、関係者入口ではなく、一般の入口に他のお客さんと並んで参加しています。ビジネスとして成功させることは言わずもがな当然なのですが、この文化を楽しみながら仕事をしています。ファン目線に立つと演出面、運営面、事業面で学ぶべきこともたくさんあります。
■様々な制約から解放されるアバター文化
──誰もが楽しめるエンターテインメントとして進化し続けているVTuber、今後は人々にとってどんな存在になっていくと思いますか?
西口氏:“バーチャルYouTuber”という名前の通り、現状は動画配信プラットフォームやライブ配信プラットフォーム上での活動されている方が多いですが、すでに、バーチャルタレントやバーチャルアーティストなど、その活動領域はどんどん広がっています。また、アバターがエンタメだけではなく、社会にもっと広がり、AIなどのテクノロジーや、認知心理学的な研究の知見が交わることで、人類が身体的、空間的、社会的、知能的、様々な制約から解き放たれ、新しい生き方ができるようになります。
──海外でもVTuber文化が盛り上がっていると聞きます。
西口氏:中国やインドネシアを拠点に活動する人気VTuberも現れてきています。人種や国境・言葉の壁を越え、日本発のVTuber文化が様々な国から受け入れられているのはとても素晴らしいことですよね。どこまで広がっていくのかワクワクします。
──今後のVTuber事業にかける思いを聞かせてください。
西口氏:新型コロナウイルスの影響で、リアルイベントなどできないことも増えましたが、オンラインイベントなど逆にチャンスも広がっていて、beforeコロナよりも今の方が事業的には圧倒的に好調だったりします。オンラインイベントやVRイベントとVTuberはすごく相性が良いので、国内での成功事例を積み上げながら、海外でも展開していきたいです。VTuberの皆さんの夢となるような大きな舞台をもっと作りたい、そして、夢に向かって頑張る姿を全力で応援したいです。その過程を通じて、世界中に“ワクワク”と“感動”を届けていきたいです。
コロナ禍によって物理的なコミュニケーションが封じられるいっぽう、情報インフラの発達によって、コミュニケーション手段に大きな変化が生じている。これまで社会を覆っていた既存の価値観も大きく変わってきている今だからこそ、あらゆる属性や制約を飛び越えて人々が個性を表現できるVTuber文化は「新たな日常」における新たなエンターテインメントの形として成長していくのかもしれない。若手プロデューサーが牽引するV-Clanの活動、そしてLIVEPARKとの協業が生み出す新たなオンラインイベントのかたちに注目したい。