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Dolby Atmos・Visionでスポーツ視聴体験に臨場感を!「Dolby x Sports」Online Experienceレポート

編集部 2021/6/21 08:00

Dolby Japan 株式会社(本社:東京都中央区)では5月28日より、米国ドルビー研究所の開発・提供する立体音響技術「Dolby Atmos®(ドルビーアトモス)」やHDR(High Dynamic Range)映像技術「Dolby Vision®(ドルビービジョン)」を用いた臨場感あふれるスポーツコンテンツの視聴体験を推進するオンラインイベント『「Dolby x Sports」Online Experience』を開催している。

本イベントにあわせて開設された特設サイトでは、専門家らによるパネルディスカッションやデモコンテンツを公開。これらのレポートをお届けする。

■Dolby Atmosはあらゆる位置に特定の音を配置可能、Dolby Visionは明暗&色彩豊かでリアルな映像表現を実現

Dolby Atmosは、いわゆる「イマーシブサウンド」と呼ばれる立体音響技術の1つで、前後左右上下など、シーンの3次元空間中で、音源の本来の位置から音を鳴らし、あたかもその場にいるような臨場感・没入感を得ることができる。そして、HDR技術であるDolby Visionは、映像の輝度をシーン毎に正確に表示することができ、これまで表現の難しかった、より大きな明暗差やなめらかな階調、広範な色域によるリアルな映像表現を実現する。

従来のSDR(Standard Dynamic Range)の映像(提供:Dolby Japan 株式会社)
「Dolby Vision」のHDR映像。暗闇の景色も浮かび上がっている(提供:Dolby Japan 株式会社)
従来のステレオ・サラウンド音響の音像イメージ(提供:Dolby Japan 株式会社)
「Dolby Atmos」の音像イメージ。上下左右前後に配置された音が特徴(提供:Dolby Japan 株式会社)

各技術の利用シーンとして、映画・ライブパフォーマンス(一部の劇場、UHD ブルーレイ/ブルーレイ)やOTTサービス (VOD、ライブ、音楽配信) などがあり、アメリカやイギリスなど、欧米諸国ではテレビ放送で使用されている国もある。

■Screens記者も実際に体験。感じた「臨場感」

体験した Dolby Japan 社のDolby Vision・Dolby Atmos対応シアタールーム

まずは、Screens編集部の記者が、Dolby Vision、Dolby Atmosのデモンストレーションを体験した。

Dolby Visionで表現された映像では、テニス会場の赤土の色合いや、選手たちの胸元に光る汗、さらに選手たちを取りまく細やかな気候の変動にいたるまで解像度高く表現。グラウンドやスタンドのくっきりと影のついた立体的な浮き上がりなど、これまでにない映像の豊かさを感じることができた。

そして、Dolby Atmosの立体音響は、全身をくまなく会場の物音が包み込み、まるで体ごとそのまま試合会場へワープしたような没入感。選手の一挙手一投足、会場のざわめきやアナウンス、そして静寂など、その音には強い色彩感すら感じられ、目を閉じると、まるで会場にいるかのような気分を味わうことができた。

■特設サイトではアスリートの体験インタビュー、クリエイターによる制作風景を公開

特設サイト『「Dolby x Sports」Online Experience』では、スポーツ業界のインフルエンサーを招いてのパネルディスカッション『「ドルビー×スポーツ」制作現場の最前線 ~Dolby Atmos/Dolby Vision』を2部構成で公開している。

■第1部「コロナ禍でスポーツをどう楽しむか?」

(提供:Dolby Japan 株式会社)

第1部では、プロスノーボーダー・藤森由香氏、株式会社ホリプロ スポーツ文化部 アナウンス室・真鍋杏奈氏、株式会社ビースポーク 代表取締役・綱川明美氏をパネリストに迎え、スポーツ視聴の可能性についてディスカッション。「現地へ足を運べない」「現地に足を運んでも喜びを周りの人と共有できない」といった現状において、Dolby Atmos、Dolby Visionを通すことで得られた興奮が力強く語られている。

■コロナ禍におけるスポーツの視聴形態の変化

コロナ禍においてスタジアム観戦が制限されるようになった現在、スポーツ観戦にどのような変化があったのか?

スノーボーダーの藤森氏は、現場ではなくテレビや映像を通してのチェックとなったと明かし、「観に行ける時に行けないもどかしさがある。冬季スポーツは、天候や風など苛酷な状況が多いのですが、映像で見ている人たちにその過酷さを中々伝えられない」と、現場のリアルな様子を伝えることの難しさを感じているという。

スポーツ中継の取材などでスタジアムに足を運ぶことの多い真鍋氏。コロナ禍になってからスタジアム観戦に1度だけ行ったが、座席の間隔を空けて黙って静かに観戦することになったそうで、「一緒に行った人と嬉しさや悔しさを共感するのが醍醐味なので……」と語るなど、それぞれがスポーツ観戦における物足りなさを感じている様子だった。

また綱川氏は、現地観戦がストリーミングサービスに切り替わり、デバイスに関係なく好きな時に観るようになり、その中で音響などにこだわりだしたという。

■3人が求めていたのが「感動の共有」や「臨場感」。Dolby AtmosとDolby Visionを体験して感じたことは?

藤森氏は「例えば、目を閉じていても、ボールが動く音が、右から左、後ろから前というのがイメージできた。自分がその場所にいて、全体で音を感じることができる。音が映像と一緒に流れ、動いていく。パソコンのスピーカーだけでそう感じられた」と驚きを表現。真鍋氏は「スポーツの仕事で大切にしているのが臨場感で、空いている日があったら現場に取材に行くことにしているのですが、目と耳から現場に近いものを味わえたと感じた。選手の息遣いが耳元で聞こえるなど、フィールドにいるような感覚になれたので、観戦を超えてチームの中にいるような気分になれた」と話した。

そして、綱川氏はDolby Visionについて「びっくりしたのが、会場では見えないはずのものが見えてくる。髪の毛穴からでてる汗とか。アスリートだったらあれで撮影されたらいやだろうなって(笑)」とユーモラスに映像の精細さを表現していた。

■第2部「臨場感のある配信を実現するには」

(提供:Dolby Japan 株式会社)

第2部では、映画『相撲道』監督を務める株式会社TBSテレビ・坂田栄治氏、株式会社WOWOW 技術局 制作技術部・戸田佳宏氏、株式会社共同テレビジョン 技術センター制作技術部・高橋敬氏、株式会社ティー・ツー・クリエイティブ・近藤大輔氏をパネリストに迎えてディスカッション。Dolby Atmosを用いた実際の現場エピソードが詳しく語られている。

■映画『相撲道』ではDolby Atmosを臨場感アップだけでなく演出としても利用

坂田氏は、力士同士のぶつかる音や両国の歓声など、音響の面白さにすぐに気づいたと言い、「Dolby Atmosを使えば表現できると思い、自分の中の構成が大きく変わった」と制作秘話を披露。また、ちゃんこを作るシーンでもDolby Atmosを使い、様々な野菜を切る音を次々に別方向に重ねていった。「これが効果的かわからないのですが、自分が野菜を切る音が大好きだったので」と笑いながらも、Dolby Atmosを演出として利用した一例を示していた。

■ラグビーワールドカップの会場をパブリックビューイングで再現

2019年に大きな盛り上がりを見せたラグビーワールドカップ。初戦の日本vs.ロシア戦と日本vs.スコットランド戦のパブリックビューイングでDolby Atmosが採用された。劇的な展開も相まってものすごい盛り上がりになったという。イベントの制作を行った近藤氏は「音も映像も照明もあり、没入感のあるイベントになったと思う。普通にやったら左右のステレオですが、それとは違う音の感じ方ができたのでは」と振り返った。

■Dolby Atmosは意外と簡単に作ることができる

楽天ジャパンオープンテニスで音響ミックスを担当した戸田氏は、Dolby Atmosの音響制作について説明。「ソフトの中にキューブがあり、そこに音源を配置していきます」と語り、その音源を収録するために、40本以上のマイクをアリーナの各所に設置して回ったという。また、高橋氏はラグビーのブレディスローカップでDolby Atmosのトライアル収録を実施し、その際に音声中継車を対応させた。「車を作る計画が出た時に、イマーシブオーディオという言葉が出てきて、Dolby Atmosの技術を知りました。映画館でも使われているものだったから、映画館で行うパブリックビューイングにも使えるかなと思った」と用途の広がりに言及した。

また、両者ともにサラウンドに触れたことがある人であれば「Dolby Atmosは難しくない」と言い、技術的な部分でもミキサーがDolby Atmosに対応していなくても作れると話した。

■リアルさの追求だけではなく、音響&映像の作り込みでも効果を発揮

フェンシングではDolby AtmosとDolby Visionの両方をトライアルで採用。近藤氏はイベントの演出を担当した。ここではライブではなく収録で力を発揮。各スポーツで音の特徴は違い、フェンシングでは剣がぶつかる高い音や選手のステップ音、選手の声などによって臨場感を伝え、ここに実況や現場の音などを合わせることで音を作りこんでいったという。また、会場は360度真っ黒な空間を作り、棒状のLED照明で入場や試合判定を演出。この明暗差はDolby Visionで収録され、漆黒から浮かび上がる美麗な映像を生み出すことに成功した。

■今後制作したいコンテンツは?

高橋氏は「Doby Atmosの臨場感、没入感は映像と共に表現できた方が良い」と述べ、「4K HDRとあわせることで効果的になる。映像に引き込まれる感覚と相性がいい。スポーツでも縦の動きのある競技、例えば、バスケットボールとかでゴールを決めて下に叩きつけるみたいな表現をやってみたい。スポーツクライミングや飛び込みなども面白いのではないか」と話した。

そして、「Dolby Atmosに出会えていないスポーツがたくさんある」と語ったのは戸田氏。「個人的にスキーをやるのですが、雪と板のぶつかる音などはセンシティブに感じている部分だと思うので、選手がどう考えているか興味がある。パラスポーツで音だけを頼りにする競技もあるので、スポーツの音にフォーカスして伝えられると面白いのではないか」と話した。

ユーザーの視点と制作者の視点、その両方からDolby AtmosとDolby Visionの持つ可能性が論じられたパネルディスカッション。映像と音響の進化によって、家に居ながらにしてこれまで以上の臨場感を得られるようになったことがわかった。

特設サイト『「Dolby x Sports」Online Experience』