情報カオスの中で“たしからしさ”を求める~「メディア生活フォーラム2017」レポート前編
編集部
博報堂DYメディアパートナーズ・メディア環境研究所が7月12日、東京都渋谷区の恵比寿ザ・ガーデンホールにて「メディア生活フォーラム2017」を開催した。12回目となる今年は「“たしからしさ”を求める人たち ~情報カオスを生きる わたしの情報ストラテジー」をテーマに、3部構成で展開。同研究所の吉川昌孝所長をはじめ、藤原将史主席研究員、新美妙子上席研究員、野田絵美上席研究員が登壇し、生活者を取り巻くメディア環境やメディア接触の動向に関する調査分析結果を報告した。
「メディア環境研究所」とは…
デジタルをはじめとする様々なメディア環境の変化が、広告サービスにどのような影響を与えているかを研究している機関。生活者のメディア接触の動向を調査・分析するため、2006年より東京・愛知・大阪・高知に住む15~69歳の男女を対象に「メディア定点調査(定量調査)」を続けている。
毎年開催するメディア生活フォーラムでは、この定点調査に基づく分析結果が報告される。コンテンツホルダーや広告主にとっては、デジタル化が進むメディア環境を背景に、生活者の現状を把握してビジネスに活かすためのヒントを得る場として機能している。
■「“たしからしさ”を求める人たち」がテーマとなった背景
フォーラムは、吉川昌孝所長によるメディア環境の現状と今回のテーマに至った背景についての解説からスタートした。吉川氏によると、スマートフォンやSNSの普及、生活情報の増加により、2006年頃から情報の供給量が消費量を大幅に上回る「情報爆発」の時代へと突入し、情報流通量は増加しつづけ、また、情報の真偽がゆらいで「何を信じてよいのかわからなくなっている」という「情報カオス」の状態にあるという。
しかしそんな中でも、自分なりの“たしからしさ”を求めようとする動向が見られる。絶対的なたしかなものは存在しない、それならば自分なりの“たしからしさ”を求めればいい。このような生活者の動向から共通して見えてきたのは、「“たしからしさ”の求め方」があるということ。吉川氏は、「これを情報ストラテジーと名付けた」と解説し、生活者が情報の真偽をどのように見極め、戦略的に取捨選択しているのか、その実態をつかむことが将来のメディア環境を捉える上でも重要なファクターであるとした。
■「メディア接触の実態と情報への意識」/生活者のメディアへの関わり方
吉川所長に続いて、メディア生活グループ・グループマネージャーの藤原将史上席研究員より、12年に渡る定点調査の結果を基に「メディア接触の実態と情報への意識」についての現状が伝えられた。
【ポイント①】メディアへの接触時間は減少傾向
メディアへの接触時間は、デジタルシフト期に平均約350分だったのが、2014年以降のモバイルシフト期には平均約380分と大幅に増加している。しかし、2017年をみると、タブレットを除く6メディアの接触時間が減り、1日当たりの週平均のメディア総接触時間も2016年の393.8分から378分に減少。その主な要因として、メディア全般で「ライト接触層(1日当たり接触時間1時間未満)」が増えたこと、パソコン、雑誌以外の5メディアで「ヘビー接触層(1日当たり接触時間3時間以上)」が減少したことが挙げられる。
また、藤原氏は、「メディア総接触時間の減少には、スマートフォンの所有率も関係している」と説明。スマートフォンの性年代別の所有率は、30代未満は横ばいなのに対し40代~60代は増加。東京では全体の8割近くがスマートフォンを所有しており、元々メディア接触時間の少ない年代にも裾野が広がったことから、総接触時間が相対的に減少したと考えられる。
【ポイント②】メディアイメージの変化~トラディショナルメディアの復権~
テレビのイメージは、全般的に回復している。情報の正確性や信頼性など「質」に関する項目に加えて、「分かりやすく伝えてくれる」「おもしろい」「感動や興奮を覚える情報が多い」「楽しい情報が多い」など、テレビのエンタメ性の評価も引き続き上昇している。また、新聞、ラジオ、雑誌などの他メディアに対する各メディア固有価値の評価も高い水準で維持、もしくは上昇。藤原氏は、「各メディアのイメージは、より鮮明化し、それぞれのメディアの特徴的な価値が向上している」とコメントした。
【ポイント③】生活者の情報への意識~今の世の中は情報量が多すぎる~
「情報量は多すぎる」と感じている生活者は、2016年は42.1%だったのに対し、2017年は52.2%と10ポイント近く増加。年代や性別にかかわらず、全体の過半数が「情報過多」と感じているのは特筆すべき結果だ。「情報のスピードは速すぎる」の項目でも、2016年の35.5%から2017年の36.0%に増加。3~4人に1人が、情報の速さに対してストレスを感じ始めている。
膨大な情報にさらされる環境下で、特にインターネット上の情報の不確実性に疑問を抱く人が増えている。「インターネットの情報は、うのみにできない」という項目では、前年の71.7%から79.0%と7.3ポイント増加。約8割がネットから得られる情報を信用ならないと感じている。このように特定の情報源だけでは確信がもてないことから、「気になるニュースは複数の情報源で確認する」という生活者が前年より5.3ポイント増えて64.4%に増加した。また、「情報コンテンツは無料のものだけでいい」の項目では、前年比6.8ポイント減の39.2%に留まり、“必要な情報にはお金を出してもよい”という意識の変化が見られた。
これらの結果を受けて藤原氏は、「生活者自身に関係のあることに対しては、徹底して情報を求める傾向がみられる」とコメントした。
■自分なりの“たしからしさ”を求める生活者
情報カオスの中で、生活者は必要な情報をどのように得ているのか。自分なりの“たしからしさ”の求め方について、インタビュー調査の動画を会場で流しながら、メディア生活グループ野田絵美上席研究員から報告があった。
(1)“たしからしさ”でノイズはカット
インタビュー調査動画では、性別年齢の異なる生活者に情報源について聞いており、「【ほんまかいな】フィルターを強める」、「センセーショナルなことは信じてはいけない」、「自分に合った最短を見つける」といった、不要な情報をノイズとしてカットしているようなキーワードが散見された。ある40代の主婦の「無料レシピサイトは不要な情報が多すぎて、結局、自分に合ったレシピ集を本屋で買いました。結果、探す手間もなくなり、効率的になりました」といったコメントが紹介された。
生活者は、“たしからしさ”のフィルターを通して、不要な情報=ノイズをカットしている。正しくない、質が悪い、怪しいと感じる情報を冷静に判断してカットするのはもちろん、情報が多すぎて選べない場合にも、ノイズとしてカットする。
(2)4つのたしからしさ情報源
また、別のインタビュー動画の中では「化粧品はやっぱり商品の公式ホームページをチェックする」「アニメは公式サイトでチェック」などいわゆる「公」の情報を確認。そして、「旅の場所はインスタで決めた」「子連れ旅行は口コミサイトで幼児対応をチェック」といった「みんなの意見」、「育児はママ友の実体験」「投資で失敗している人の意見も参考に」といった「当事者」、「ニュースは池上彰」「プロの写真家のブログで写真のとり方を的確にアドバイスを貰う」などといった「専門家の知識」を参考にするといったコメントも紹介された。
すなわち、生活者は“たしからしさ”を求めるために、「公(おおやけ)」、「皆」、「当(事者)」、「専(門家)」の4つの情報源を頼りにスマートフォンなどで調べつくして情報を得る。たとえば、最新の情報は早くて確実な企業の公式サイトをチェックし、世界情勢や社会的常識については新聞やテレビなどのマスコミから情報を得る。世間の意見は、SNSやランキング、口コミなどの意見を参考にする。アイドルや俳優の情報は本人が出演するラジオやブログから、育児はママ友から、グルメ情報は賛否両方の感想が書かれている個人のブログから生の情報を得る。専門的知識が必要な場合は、医師や弁護士を頼るほか専門誌や書籍を読む。
(3)自分なりのたしからしさMIX
そして生活者は、ノイズカットと4つの情報源をミックスさせて、自分なりの“たしからしさの求め方”を構築している。ある50代の主婦の例が象徴的で、1本の無料ドラマを見るにもたくさんの情報を調べている実態が明らかになった。GoogleやYahoo! JAPANなどの検索サイトにはあえてネガティブキーワードを入れて意見の賛・否を調べ、身内の声だけでなくSNSなどで世間のコメントもチェックし、表と裏の情報を幅広く立体的に確認する。さしずめ「情報刑事(デカ)」となって裏取り捜査をしているのだ。
このように、メディアやビークルの枠を超えて調べ上げるのが今の生活者の実態である。
■まとめ
膨大な情報量が目まぐるしく入れ替わるメディア環境は、まさに情報カオスの状態。情報過多と情報の質への不満を背景に、生活者は自分にとって“たしからしい”情報を求め始めている。このような状況下で、企業やコンテンツホルダーに求められるアクションとはどのようなものなのか。後編で紹介する。