“たしからしさ”を求める生活者に向けて企業に求められるアクションとは~「メディア生活フォーラム2017」レポート後編
編集部
博報堂DYメディアパートナーズ・メディア環境研究所が、今年も7月12日に「メディア生活フォーラム2017」(東京都渋谷区の恵比寿ザ・ガーデンホール)を開催。12回目となる今年は「“たしからしさ”を求める人たち ~情報カオスを生きる わたしの情報ストラテジー」をテーマに、3部構成で展開され、同研究所の吉川昌孝所長をはじめ、藤原将史主席研究員、新美妙子上席研究員、野田絵美上席研究員が登壇。生活者を取り巻くメディア環境やメディア接触の動向に関する調査分析結果を報告した。
情報の供給量が消費量を大幅に上回り、また、情報の真偽がゆらいで「何を信じてよいのかわからなくなっている」という「情報カオス」化した状況で、“たしからしさ”を求める生活者に対し、企業やコンテンツホルダーは、情報をどのように発信していけばよいのだろうか? 生活者を取り巻くメディア環境や、メディア接触の動向に関する調査分析を紹介した前編の内容を踏まえ、後編では「企業に求められるアクション」についてレポートする。
「企業に求められるアクション」について、メディア環境研究所の吉川昌孝所長が登壇し、今、企業に求められているのは、生活者が情報に対して望む「2つの欲求」に応えることであると講演をスタート。2つの情報に対する欲求とは、「その情報は世の中でどう見られているのかを俯瞰で広く見たい」、「その情報をクローズアップして詳細に知りたい」というもの。生活者が4つの情報源から“たしからしさ”を求める際に必要な要素である、と報告した。つまり「俯瞰で広く知りたい」欲求は前篇で紹介された4つの情報源のうち「公からの発表」「みんなの意見」で満たされ、「詳細に知りたい」欲求は「専門家の意見」「当事者の見解」で満たされるとしている。
では、企業は具体的にどのように応えればよいのだろうか。
■情報を俯瞰で広く見たいという欲求には、「群で見せる」
メディア分散化時代において、情報の受け手は、その日・その時・その瞬間に、全く違う見方・聴き方・使い方をしている。百人百様の捉え方があるため、情報の送り手側は受け取り側の見方、聴き方、使い方をデータでなんとなくわかっているつもりでも、リアルな姿が見えていないことがあるという。実態を把握するためには、帰属意識(≒エンゲージメント)を高める「群で見せる」仕掛けが必要である、と。
吉川氏は、「スマホネイティブだからこそ、群に触れて初めて帰属意識が生まれる」と語る。イベントやフェスで企業は、そこに集まる人を見て、どんな人たちが使い、見て、聴いているのかという世の中での捉えられ方を感じることができる。またユーザー自身もどんな人たちが使い、見て、聴いているのかを知ることで「私が使っていていいんだ!」という帰属意識が高まるのだ。群で見せることで、“たしからしさ”を感じるメディア・ブランドへと成長する。ユーザーロイヤルティを高め、かつ企業側は利用者のリアルを確認できるイベントやフェスは、広告価値が高いといえるだろう。
■情報を詳細に知りたいという欲求には、「さらす」ことで応える
大量の情報にさらされている生活者は、いわゆる「情報刑事(デカ)」化しており、例えば1本のドラマを見るために、たくさんの情報を調べ上げて選択する事例は前編でも紹介した通り。生活者が企業やコンテンツホルダーに求めているのは、裏表を隠すことなく提示することである。どうせ情報はすぐに探し当てられてしまうという構えで、隠すのをやめて常にさらす姿勢が大切だ。また、情報をさらす際は、「すぐ調べられてしまうこと以上の発見を感じさせる」ことがポイントになるという。
たとえば、アメリカ発・世界最大級のテックイベント「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」で、日本企業数社がプロトタイプを提示。先進ユーザーに開発プロセスをさらすことで、ブランドの覚悟や自信が伝わり、“たしからしさ”が生まれた。また、クラウドファンディングも良い例だ。出資者にコンテンツ開発の進捗が常に開示されるため、そこに商品やサービスの“たしからしさ”が生まれている。進捗の開示によって当事者意識も高まり、広告塔=ファンを増やすことにも寄与。さらに、公開初期の期待感やポジティブな空気は、ネットで評判を調べる時代の“たしからしさ”の源泉にもなる。
このようにリアルタイムで裏も表も提示することで、生活者の「詳細に深く知りたい」という欲求を満たすことができる。プロセスなどを常にさらすことで、“たしからしさ”を感じるメディア・ブランドであると判断されるようになるのだ。
■まとめ
生活者への「見える化」が“たしからしさ”を生む。“たしからしさ”とは、「たしか+らしさ」のこと。「たしか」とは信頼性や確実性、「らしさ」とは人格を表す。生活者は、誰が、どんな人が言っているかを重要視している。最後に吉川所長は、「企業やコンテンツホルダーは、“たしからしさ”起点で新しいメディア価値を考えることが大切だ」と語り、報告を締めくくった。