ソーシャル・シークエンス・アナリシスから解く、視聴者のメディア接触【InterBEE2017レポート】
編集部
音と映像と通信のプロフェッショナル展「InterBEE2017」が、幕張メッセ(千葉市美浜区)にて11月15日(水)から17日(金)までの3日間にわたって開催。その中から「放送と通信の融合を展示とプレゼンテーションで提案する。」というコンセプトで行われた「INTER BEE CONNECTED」初日に行われたセッションの一つ「本格化する“スクリーン選択”の時代の見取り図を描く ~電通・ビデオリサーチによる挑戦~」をレポートする。
今後、あらゆるメディアビジネスの前提として、複雑化する視聴者の生活行動の全体状況を俯瞰し、変化を捉える力が必要となる。そうした課題に立ち向かうべく、株式会社電通と株式会社ビデオリサーチ両社で行われた最新の取組みなどが取り上げられた。
■電通・ビデオリサーチが分析するメディア接触行動の変化
同セッションは、モデレーターに奥 律哉氏(株式会社電通 電通メディアイノベーションラボ 総括責任者)、パネリストには美和 晃氏(株式会社電通 同 メディアイノベーション研究部長)、石松 俊之氏(株式会社ビデオリサーチ ソリューション局 エグゼクティブフェロー)、渡辺 庸人氏(株式会社ビデオリサーチ ひと研究所 主任研究員)を迎える形で行われた。
セッションは下記3つの視点にテーマを分け進行。
視点1:現在、人々はメディアをどう選択しているのか?
視点2:メディア接触行動はどう変わったといえるか? またそれはなぜ?
視点3:今後、どう変化していくのか?
■視点1:現在、人々はメディアをどう選択しているのか?~ソーシャル・シークエンス・アナリシスから読み解く新しいアプローチとは~
渡辺氏は、「ソーシャル・シークエンス・アナリシス」の手法について発表。これは、メディア利用を生活者視点で把握し、「生活行動」と「メディア」の両方の変化を同時に分析。「平均値」だけで見ない新しいアプローチを考察するというものだ。
ビデオリサーチの生活実態調査「MCR/ex」のデータを同分析にかけると、「生活行動」は4クラスターに、「メディア」は7クラスターに分類され、生活クラスターとメディアクラスターを掛け合わせると、フルタイム型×スマホシフト型の組み合わせが1番多いことがわかった。
フルタイム型は、男性7割を占めており、平均年齢は38歳。平日の日中「仕事・勉強」の時間が多いのが特徴。そして、スマホシフト型は、終日極端にテレビのリアルタイム視聴が少なく、22時頃をピークに「スマート・モバイルデバイス」をよく利用している10代から30代中心だ。
また、スマホシフト型は、調査に協力した男女12歳~69歳の1/3を占めていたことが明らかに。さらに、35歳未満では過半数を上回る形となった。
加えて、全年齢で2~3割いることがわかったのが「タイムシフト積極型」で、彼らは、ゴールデンタイム・プライムタイムに、録画していた番組を視聴する傾向があることが伝えられた。
他にも、以前はリアルタイム視聴しやすい傾向にあった「非就労型」の人たちも、テレビの視聴パターンが分散化。「終日テレビ」「テレビ朝夕型」といった割合は減り、若年層は特に、スマホシフト型に偏りつつある。
この結果を受け、美和氏からは、“自宅内での空き時間にどのような行動をするか”という調査の報告がなされた。
空き時間が15分、30分、1時間くらいあったら、何を視聴し、どのデバイスを利用するか、その際、「他の用事をしながら」、「他の用事がない場合」と比較する形で調査をし、下記のような結果が得られた。
「空き時間」×「ながら有無」でのスクリーン選択調査結果によると、地上波は短い空き時間でかつ「ながら」の状況でも選ばれやすいいっぽう、空き時間が1時間で「他の用事がない場合」には逆に選ばれにくくなっていることが分かった。その代わり、比較的長い1時間の空き時間がある場合には、録画再生や動画配信の視聴が選ばれやすくなっている。
また、その場合、どちらかというと、男性は動画配信に流れる傾向があり、女性はタイムシフトや動画配信などわりと分散化する流れがあることがわかったという。
■視点2:メディア接触行動はどう変わったといえるか? またそれはなぜ?~シークエンスクラスターで見る15年変化と要因~
2002年当時の調査データについて、2017年と同様のステップで分析を実施した結果を、渡辺氏が報告。それによると、2002年当時は、ライトなテレビ視聴者だった人らが、15年経ち、PCやスマホ、HDRの普及に伴いリアルタイムのテレビ視聴から離れてしまった。
しかしながら、その一方では、加齢に伴うライフステージ、並びに生活スタイルの変化による「テレビ回帰」が起きていることもわかった。
そもそも15年前の時点で、既に若い人ほどテレビ視聴はライトであったという背景があるわけだが、現在の10代は、15年前10代だった若者と比べても、更にリアルタイムテレビ視聴離れが進んでいる。その要因には、「メディア環境」と「親のメディア利用」に影響されていると分析。すなわち、現段階でリアルタイムテレビ視聴をしていない若者が、将来、リアルタイムテレビ視聴をする可能性は低く、加齢に伴う「テレビ回帰」は起きにくくなっていくと予測される。
それに対しパネリストの石松氏も、「この15年間で働き方が変わっていることもメディア視聴に影響している」と指摘。「2002年にブロードバンドが流行り、2005年からハードディスクレコーダーが普及、2008年にiPhone(スマホ)が登場し、メディアそれ自体も変化した期間でもある」と歴史を振り返った。
そして美和氏から、「では、テレビ離れした人の興味はどこへ向かっているのか」というテーマで行った調査について発表。結論としては、テレビを見なくなった代わりに他のメディアに移行したかといえば、決してそうではない。しかし、テレビの非視聴者が、テレビの印象特性と似た印象をTwitterの利用から得ているところを見ると、テレビに代わるメディアの役割を果たしている可能性があるのかもしれないという見解が伝えられた。
■視点3:今後、どう変化していくのか?~ソーシャル・シークエンス・アナリシスのポテンシャルと、そこからみたメディア接触の展望~
同セッションをまとめる形で、渡辺氏から、ソーシャル・シークエンス・アナリシスのポテンシャルについて、下記3点が伝えられた。
1:「時間帯」を今まで以上に加味した分析が容易になり、メディア利用者のセグメント方法そのものへの新しい風になり得る
2:生活とメディアの組み合わせコーティングや自宅内外データの追加(MCR/ex)、ログデータへの応用(VR CUBIC)など、拡張・利用範囲も広い
3:パターンを分類することで「習慣性」の把握が視覚的に容易になる
また、メディア接触の展望として、新たな習慣を予測するという意味でも、古い習慣と新しい習慣を照らし合わせた「習慣性」を見据える必要があると伝えられた。その理由は、テレビでリアルタイム視聴をしていた古い習慣が、動画配信サービスやタイムシフトで視聴するという新しい習慣に代わっただけで、“ながら見”という習慣は変わっていないことがわかったからだという。
今後の課題としては、外出時の短時間のスマホ利用をどう据えるかがポイント。一方でWi-Fi環境の整っている自宅内では、スマホの利用時間が長くなり、テレビ受像機vsスマホvs PCディスプレイ、ならびにテレビ放送vsタイムシフトvsネット動画の時間の奪い合いにどう対応するかといったことが挙げられた。
このように同セッションでは、人々の生活行動とメディア接触を関連付けた、これまでにない切り口の分析やその手法が紹介された。そこからも見えてきたように、視聴者の生活行動、特に若年層のメディアの捉え方を意識した、新しい番組制作や見せ方をすることが、テレビがサバイブする一つの方法ではないかと感じられた。
―セッション参加者―
〇モデレータ
・奥 律哉氏(株式会社電通 電通メディアイノベーションラボ 総括責任者)
〇パネリスト
・美和 晃氏(株式会社電通 同 メディアイノベーション研究部長)
・石松 俊之 氏(株式会社ビデオリサーチ ソリューション局 エグゼクティブフェロー)
・渡辺 庸人 氏(株式会社ビデオリサーチ ひと研究所 主任研究員)