一歩外に踏み出せば、テレビのブルーオーシャンは広がる~InterBEE「テレビの再定義」レポート
編集部
2017年11月15日~17日に幕張メッセ(千葉市美浜区)で、音と映像のプロフェッショナル展「Inter BEE 2017」が開催された。3日間で過去最多となる出展者数1,139社・団体と38,083名の登録来場者数を記録するなど、今年も大きな盛り上がりを見せていた。本項では、従来のテレビ番組だけではない分野での活躍で注目を集めている若い制作者たちが集まった企画セッション「テレビの再定義~最前線の制作者たちは、今、テレビをどう捉えているのか?~」をレポートする。
(モデレータ)
・倉又 俊夫 氏
日本放送協会 放送総局 デジタルコンテンツセンター 副部長
(パネリスト)
・下川 猛 氏
株式会社フジテレビジョン
総合事業局コンテンツ事業センターコンテンツ事業室コンテンツデザイン部
・小国 士朗 氏
日本放送協会 制作局 開発推進ディレクター
・岸 遼 氏
株式会社HAROiD クリエイティブディレクター
■さまざまな取り組みをしてきた制作者が集まった
本セッションは、NHK放送総局デジタルコンテンツセンターの倉又俊夫氏がモデレータを務め、テレビ番組だけではなくテレビの外側のコンテンツ作りでも実績を残している若い制作者を集めて行われた。
まず、各パネリストが制作したコンテンツをそれぞれ紹介した。
フジテレビの下川猛氏は過去に担当した番組において、デジタルと連動した番組をプロデュース。『テラスハウス』ではYouTube展開企画を行い、最近ではFODオリジナルコンテンツのプロデュースとして『さいはてれび』、『ラブホの上野さん』などに携わり、FODから地上波やBSへの流れも作り出している。また、NETFLIXオリジナル番組としてよみがえった『あいのり:Asian Journey』も担当している。
NHKの小国士朗氏はかつて『クローズアップ現代」、『プロフェッショナル 仕事の流儀』、『おやすみ日本 眠いいね』、『ドキュメント72時間』などを担当。2016年には制作局の開発推進に異動し、“番組を作らないディレクター”を宣言し、プロモーション、ブランディング、デジタル施策などを担当。『プロフェッショナル 仕事の流儀アプリ』、『NHK 1.5 ch』、また個人的なプロジェクトとし『注文をまちがえる料理店』などを手掛けた。
HAROiDの岸遼氏は2010年に日本テレビに入社後、2015年に日本テレビがバスキュールと立ち上げたHAROiD inc.に出向。インタラクティブな番組、CMやイベント、ウェブのプランニングやディレクションに携わっている。テレビを演出装置にした新しい遊び場作りという考え方のもと、「キリンビールのINTERACTIVE LiVE CM」、新たな行事作りとしての番組『流星放送局(BSジャパン)』、WEB×テレビ×イベントのメディア連携プロジェクト「SENSORS(日本テレビ)」などを作り出している。
その後、パネリストたちにモデレータが質問を投げかける形で、活発なディスカッションが行われた。本項では、その中から興味深いトピックをピックアップして紹介する。
■テレビと、テレビの外側の関係性がますます重要になる時代
倉又氏はまず、「各々の『試み』で、従来テレビにはない一番の教訓は?」というトピックにおいて、NETFLIXで『あいのり』 を復活させたフジテレビの下川氏に対し、NETFLIXとの仕事で得た教訓を尋ねた。
下川氏はコンテンツ制作においては従来のテレビと大きくは、変わらないとしたうえで「用意するアセット、メタデータなど、周辺のモノがすごく多い。例えば、番宣素材を例にとっても、テレビではホームページ用くらいしか用意しませんが、NETFLIXの場合はスマホのアプリ用、PC用素材、さらには、テレビデバイス用の素材も用意しなければいけないということなどを学びました。」と答えた。
続いて小国氏は「NHK 1.5 ch」の動画作成にあたって、テレビとの違いについて次のように説明した。まず、「根本的にテレビって本当に引っ張る文化なんだ」という部分を指摘し、「早く結論を言いなさいということは分かっていても、テレビではいかにして45分なりの尺を見せ切ることを考えていました」と述べた。テレビは本当に長い取材を重ねてコンテンツを作るので、それを40秒とか1分にまとめるのは制作の現場が分かリ過ぎているテレビ局内部の人間からするとすごく抵抗感があり、例えば「外部の制作会社に委ねた方が良い」とも語った。
一方で岸氏は、「従来のテレビはテレビの中だけで完結していました。しかし、僕はテレビをきっかけとしか考えていないので、どれだけウェブに誘導できるか、さらに、そこからリアルな世界にどれだけ連れていけるかを考えています。テレビはゴールではないという気持ちでやっています。また、テレビという枠を取り払えばコンテンツとしての番組の出口はいたるところに存在する」と話し、この展開にはこれからすごく大きな可能性があることを示した。
次に倉又氏は、「テレビは何と戦っていると考えるか?」という、今日のメディア状況を前提とした質問を投げかけた。
下川氏はこの質問に対して、「人の生活態度の変化と戦っているのかもしれません。スマホと戦っているといえばそうですし、LINEやFacebook なのかもしれません。今も僕のスマホに通知がたくさん来ていますが、それでテレビを見なくなる可能性があるのかなと思います」と答えた。
一方で小国氏は、「少し哲学的かもしれませんが」と前置きをしたうえで、「テレビはテレビと戦っているような気がします」と語った。「テレビがオワコンだと言っているのは、実はテレビの人たちのような気がして、自分たちが持っているテレビのイメージに囚われているのかもしれません」と、現在のテレビ業界の状況を表現した。
岸氏は、「僕もテレビはテレビと戦っていると思います。もし僕がテレビ局の中にいたら、テレビ局の慣習に従ってしまうので、ライブCMなんか提案できません。CM枠に対して不確定要素をわざと入れて演出を変えるようなものはテレビ局の慣習ではあり得ないですね」と続けた。しかし、「一歩外に出ると、テレビはいまだにすごい“ブルーオーシャン”だということが分かります。固定概念や枠を取り払えば、新しいものがどんどん作れるのではないでしょうか」と、テレビの新たな可能性について触れた。
■「ポストテレビ」時代のテレビに向かって
最後に倉又氏は「ポストテレビ」時代のテレビに向かって制作者ができることを尋ねた。
下川氏は制作コストの問題に触れ、「NETFLIXは多額の予算を使えると言われていますが、そんなことはないです」と笑いを誘いつつ、この会場に出展されているカメラや技術を使いこなせば、現在の3分の1くらいの金額でクオリティを維持した番組は作れると思います。FODの番組などはそもそも低予算で制作しているので、まだまだできることはあると思います」「結果的にコンテンツを増やしていくことが可能」と答えた。
小国氏は、「僕たちのテレビの価値、NHKの価値をまだまだしゃぶり尽くせていないと感じています。新しいテクノロジーやメディアがこれだけ出てきたのならば、僕たちが持っている企画力、取材力や構成力といった武器を使えば、やれることが増えてきていると考えています」とテレビの可能性の高まりを訴えた。
岸氏は、「テレビとユーザーが一対一で繋がることはやってきました。でもそこには何万人、何十万人もの人が集まっているので、その人同士を横にどう繋げるかを考えたいと思います」と述べ、テレビを使って次は何ができるのかに挑戦したいと語った。
そして倉又氏が、「テレビとネットが出会うことで、豊かなコンテンツになります。新しい豊かな時代に向かって行けば良いと思います」と取りまとめ、セッションは終了した。
これまでテレビの中だけで完結しそこでオンエアされることがゴールとなっていたテレビは形を変え、ネットの世界とリアルの世界を横断することができるメディアに変貌しつつあることをパネリストたちは示していた。世界が拡大するということは、ブルーオーシャンが広がることと同義であるのかもしれない。一歩外に踏み出せば、そこには新たなビジネススキームや、豊かなメディアコンテンツ、メディアイベント、あるいはメディアアートを生み出す無数の可能性が眠っていると感じさせられたセッションだった。