iQIYIトップらが語った、中国ドラマ争奪戦事情~香港フィルマート2018レポート後編~
テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子
アジア最大級のエンタメコンテンツマーケット「香港フィルマート」(開催期間:3月19日~22日/主催:香港貿易発展局)の中国からの参加者数は過去規模に上った。開催初日のトップバッターを飾ったセミナープログラムも中国市場をフォーカスした内容が企画され、中国最大手の動画配信プラットフォームiQIYI(アイ・チー・イー/愛奇芸)らが中国ドラア争奪戦事情などを語った。
■1年間で配信ドラマ280本、PV数も伸長
香港フィルマートの会場には北京市、広東省、上海市、杭州、福建省、寧波市、四川省、湖南省、山東省、重慶市など中国の地域ごとのパビリオンブースが展開され、コンテンツマーケット市場における中国勢の存在感を示していた。
そんななか、セミナー会場が満席となったプログラムもテーマは中国。iQIYI のヴァイス・プレジデントChen Xiao氏と中国本土の制作会社トップらが並んだ「Navigating the Chinese TV Market=中国テレビ市場ナビゲート」と題したものだった。
冒頭、登壇した北京のEntgroup Century Data Technology社によれば、2016年から2017年までの1年間、動画配信プラットフォームで扱われた配信ドラマの数は280本に上り、「既存のテレビ局が扱うドラマの数を上回った」と報告した。また人気のある配信ドラマのPV数も伸びている傾向にあるという。さらに、テレビと配信ではドラマの好みに違いがあることを指摘し、「テレビでは都会を舞台にしたラブストーリーが最も好まれ、配信は時代劇ものが人気」と分析していた。
続いて行われたiQIYIと中国の制作スタジオのCiwen Media、Daylight Entertainment、Croton Cultural Media、Talent International Filmによるパネルディスカッションパートでは「IP=知的財産権」の話題に集中した。これはプラットフォームであるiQIYIをはじめ、中国スタジオ各社もIPを取得したオリジナルのドラマシリーズを展開することに力を入れているからである。
■テレビも映画も配信も人気原作のIP取得がカギ
登壇したiQIYのヴァイス・プレジデントChen Xiao氏は「中国国民が求めているのは原作(小説やマンガ)を元に映像化したドラマ。だから、人気作品から満足度の高いオンラインドラマをいかに作ることができるかが、ヒットのカギになっています」と述べた。またアジアをはじめ世界各地で実績を作っているCiwen MediaのプレジデントMa Zhong Jun氏は「人気のある原作者はさらに人気を集め、テレビも映画も人気原作者のIPを取得することに力を入れています」とテレビや映画も同じ状況であることを補足した。
つまり、中国ではIPの取得競争が激しくなっているということである。Daylight Entertainment のCEO、Hou Hong Liang氏は「中国の多くの制作スタジオがその問題を抱えています」とそれを強調していた。一方、その対策として、Croton Cultural Mediaのエグゼクティブ・プレジテントLiu Zhi氏は「一般受けするドラマだけでなく、ニッチな層に刺さるドラマもあります。だから、どのターゲット層にヒットさせる作品にしたいのか、それをより分析し、その上でIPを取得していくことがこれからは大事なのではないか」と指摘した。
中国のおけるヒットドラマのカギは、IP取得に加えて、キャスティングも重要視されている。これは中国に限らないことでもあるが、中国では「ストーリー以上にキャスティングが大事」とまで言われている。Talent International FilmsのゼネラルマネージャーRen Yi-wan氏は「ここ最近、問題にあるのが出演者のギャラが高騰してしまっていることです。出演料が制作費全体の大部分を占めるようになり、中国政府は上限を設定していく方針です」と話していた。
最後にiQIYIのChen Xiao氏は「競争が増していますが、人材育成や企業の発展に繋がっていけば、良い効果も生むでしょう。中国全体のエンターテイメントコンテンツ力も向上していくはず」と述べ、締めくくった。
■香港では中国ドラマが人気、東アジアのコンテンツ視聴傾向
会期中、コンテンツ視聴傾向の変化をテーマに、日本、中国、韓国、香港それぞれのマーケット事情について語られたパネルディスカッションも行われた。日本は共同通信社の国際報道室次長古畑康雄氏、中国はNew Studios PictureのCEO、Michelle Mou氏、韓国はD’LIVEのCEO、Jeon Yong Ju氏、香港はAsia Television Digital Mediaのエグゼクティブ・オフィサーNg Yu氏が登壇した。
日本の状況については「モバイルデバイスでの視聴が増え、若年層のテレビ離れが進んでいる」などと説明され、中国については先の通りドラマ人気が高まり、「テレビと配信では視聴者層と視聴する時間帯の傾向が異なる」と報告された。また韓国においても「若年層の動画配信プラットフォーム利用率は高まり、視聴デバイスはもっぱらモバイル」という。テレビ離れの傾向は若年層を中心に東アジア各国で広がっているようだ。
興味深かったのは香港の状況だった。テレビの編成事情についてAsia Television Digital MediaのNg Yu氏が「伝統的なテレビ局は動画配信プラットフォームの勢いが増していることよって、以前よりもいろいろなことに挑戦するようになっています。広告収入は急速に落ちていますから、いろいろな対策をしています。例えば、配信コンテンツと差別化を図って、懐かしさを楽しむようなコンテンツを増やしています。それでも厳しい状況は免れず、自局制作番組よりも中国のドラマを買って、放送する傾向も高まっています。今は映画よりもドラマが人気ということもその背景にあります。今後はテレビと配信の組み合わせで考えていく戦略も必要になるでしょう」と語っていた。
香港フィルマートには欧米をはじめ、幅広い地域からも参加者を集め、国別にフォーカスもされていたが、開催地の香港と政治や経済事情により繋がりが深い中国に話題は集中していた。中国の市場状況を把握しながらニーズの傾向を図ると共に、ビジネス上の付き合い方についても各国が探っている様子が登壇者の発言から読み取れた。