テレビ×デジタルの統合的なデータの重要性!求められる共通指標とは?【VR FORUM 2018】
編集部
株式会社ビデオリサーチが3月1日に開催した「VR FORUM 2018」(@東京ミッドタウン)は、今年で3回目を迎えるが、今回はテーマを「TV×Digital NEXT Stage」として実施。第1部では、テレビ・デジタル・広告会社それぞれの視点で「デジタル時代のテレビメディア」をテーマにパネルディスカッション、および同社の「これからの視聴率」計画案が語られ、第2部は「デジタルマーケティングの今とビデオリサーチのデジタルソリューション」をテーマに、前半で「ビデオリサーチのデジタルソリューション」と題した発表がなされた。
後半は、第1部、第2部前半までの流れを受ける形で、デジタルマーケティングの課題感をあらためて共有・議論すると共に、各社の具体的な取り組みについて語り合う場となった。
第2部のパネルディスカッション登壇者(企業名50音順)
・村山直樹氏(株式会社ジュピターテレコム 上席執行役員 メディア事業部門長)
・柴田貞規氏(株式会社博報堂DYメディアパートナーズ データドリブンビジネス開発センター データマネジメントプラットフォーム部部長)
・山口真氏(株式会社フジテレビジョン 総合事業局 コンテンツ事業センター 局長)
・有馬誠氏(楽天株式会社 副社長執行役員チーフレベニューオフィサー/楽天データマーケティング株式会社 代表取締役社長)
モデレーター
・池田宜秀氏(株式会社ビデオリサーチ デジタル推進局長)
■「Ad Verification(アドベリフィケーション)」の定義
池田氏は、本パネルディスカッションの議題を以下のように提示。
まず、1つ目のテーマ「Ad Verification(アドベリフィケーション)」では、確認の意味も含めて、池田氏よりインターネットのメディアにおける「Ad Verification」の定義を「広告掲載先の環境の品質確認」とし、その主要要素を以下4つにまとめた。
上記4点を踏まえた「Ad Verification」について、パネリスト4名がどう考えているのかを池田氏より投げかけられた。
■議題1:「Ad Verification」についての各社の考え
JIAA(一般社団法人 日本インタラクティブ広告協会)の理事を務めている山口氏は、「この4つの主要要素については、急ピッチで対応されていることを肌で感じている」と語り、VTRにあった広告主のインタビューを例に挙げ、「意識の高いしっかりした考えの広告主が以前より増え、我々メディアの方が後追いになっているといった焦燥感を感じている。我々テレビ側こそ同じメディアとしてAd Verificationをしっかり捉えないとならない」と回答した。また、昨年、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)がデジタルメディアに対して、不透明な状況が改善されるまでデジタル広告費の削減も辞さない姿勢を見せたことについて触れ、「放送局は“これまでちゃんとやってきたから大丈夫”と安心しそうになるが、広告主の意識はトータルメディアにあることをきちんと認識した対応が必要である」と告げた。加えて、各企業が放送やデジタルを統合して運用するセクションをどんどん出来始めている現状について、「以前のように地上波の広告宣伝費が配分されるのを待つのではなく、配分される前の段階で営業をかけていく必要がある」とコメントした。
次に、20年以上デジタルメディアに携わってきた有馬氏は、「こうなった原因はCPC (Cost Per Click:クリック単価)にある。ネット広告が浸透しはじめた創成期にCPM(Cost Per Mille:ネット広告を1000回表示させる広告コスト)でビジネスしたかったが、テレビで言うところのGRP(Gross Rating Point:延べ視聴率)と同じような感覚で、クリックというわかりやすい指標が主流となってしまった。そこに先ほどのアドフラウドやビューアビリティといった問題が起きている」と続け、「CPCから脱却します!」と宣言。現在、楽天ではいくつもの仮説を設けた実証実験を行っており、その中で、“大量クリックはあっても、思った程の商品購入には結びついていない事例”、逆に、“クリック数は少ないのに購入されている事例”もあるということがわかったという。そのことから検証を繰り返し、「ユーザーの滞在時間の長い、じっくり読み込むサイトの方が購買に繋がりやすい」ことが重要なポイントであり、「今後はパフォーマンスだけじゃなく、アドフラウド対策等の新しい指標がメインの対策になっていくのではないか」という見解を述べた。
続く村山氏は、有馬氏の実証実験に関するVerificationについて触れ、「本質的な部分として、テレビとデジタルでは世界がまったく違う。ブランドセーフティを考えていくと、広告主はいいメディアを選んでいくのが必然的な流れになる。つまり、メディアのブランド化を考えると、テレビやデジタルに関わらず、全てのメディアにおけるブランド化を真剣に考えなければいけない時期にきていると思う」とコメントした。
また、柴田氏は、「長い間、ホワイトリストをどう作るかをやってきたが、いつの間にか時代の流れはクリック重視に変わり、広告会社も怠慢になっていた部分もあったのかもしれない。誰でもクリックできる、安い方がいい、そういう今の風潮を作ってしまったことを反省しているが、改めて今、違う手法を提案していかなければいけないと思う」と述べた。
■議題2:“データマーケティング”と“テレビ×デジタル”の各社の取組み
次に、スクリーンに、楽天会員ID数と、J:COMケーブルテレビの契約世帯数が映し出され、池田氏が「楽天ではデジタルデータをどのように使用しているのか」と質問した。
有馬氏は、「当社のビックデータを、他社さんが保有するデータと楽天会員IDで繋げて行けたらいいと考えている」と語り、「楽天市場での購買データをはじめ、POSデータやオフラインのデータなども結び付けられれば大きな価値が生まれる」と伝えた。その具体例として、同社ではテレビ受像機を通じて取得したログデータや、電通と手を組みID連携するという取組みを行っており、「全てが整備されるには5年はかかるだろうが、それでもこの数年で相当な進化が見られると思うし、テレビの視聴データと楽天のデータ、そしてリアルな店舗での購買データなども繋がっていけば相当のことがわかると思うし、ワクワクする」と述べた。
これに対し柴田氏も同意を示し、「僕らもそうだが、こういう取り組みをひとつひとつやり続けてきた先に答えがあると思う。今の時代は、こうしたトライをしない会社が一番危なくて、やり続けた会社にはノウハウが溜まる。多くの実験を繰り返し、そのうちの99%が失敗となるかもしれないが、残り1%に良い答えがあると思う。地方局の方もふくめて、実際にトライアルをやっていける環境を、われわれもお手伝いして一緒に作っていきたいと常々考えている」と抱負を語った。
では、約534万世帯分のチャンネルデータを保持するJ:COMの取組みとその意義について、同社ではどう考えているのか。
村山氏はケーブルテレビの普及率が90%近くあるアメリカの事例を挙げ、「プログラマティックテレビ広告が1~2%ではあるが出始めている」という実態を報告。「デジタルの世界のプログラマティックは日本がデジタルメディアで抱えるような課題があるが、放送におけるプログラマティックを考えた場合、非常に安全なプログラマティックになる可能性がある。アメリカではまだ1~2%とはいえ、アメリカのテレビマーケットは8兆円に近い。大きい取引では2,000億円になるものもあるし、そういうアプローチが増加傾向にある」と続けた。そしてここからは、「あくまでも個人的に膨らんでいる妄想」と前置きし、「いわゆるオーディエンスデータに基づいたプラットフォームを作り、ターゲティングができるようなプログラマティックの出稿をオンライン送稿も含めて組み合わせていけると、枠の価値や媒体価値を上げられるのではないか。J:COMのSTB上にはかなりリッチなデータが集められてきているから、まずは(プログラマティックテレビ広告を)多チャンネルという仕掛けの中でトライできないかと妄想している」と提言した。
“詳細に絞り込んで明確なオーディエンスへ広告をあてるのと同時に、パイが小さくなりすぎないためのターゲティングの共存”について村山氏と有馬氏が言及したことを受け、柴田氏からも事例の紹介があった。2015年に行った消費者の購買行動調査で、“ピンときて買う人”、“好きで買う人”、“比較してから買う人”の3パターンに分けたところ、“ピンときて買う人”が増えているという最近の傾向を伝え、J:COMのユーザーデータでも「“ピンときて買う人”が何人いるかを見える化できる」と提案。さらには、「例えば、とある商品を“ピンときて買う人”の中で“エコ”に興味があったり、“常に地域に貢献したいと思っている”人がいたりする場合、エコ軸を作ると、従来では当てはまらないと思われていた広告主とマッチングする可能性がある」とし、「“このようなユニークなデータとマーケターが持っているセンス”を組み合わせていけたらとても面白いのではないか」と意欲的なコメントを語った。
池田氏からは、「ビデオリサーチとしてもそのために色々な取り組みを行っている。オンラインデータだけでなく、オフラインデータと他社が保有する購買データなどを一緒にしていって、幅を広げていきたい」と伝えた。その流れで、「フジテレビではデータ周りでは、どんなことに取り組んでいるのか?」と山口氏に問いかけると山口氏は、「自社でキャッチアップ配信のデータ属性を蓄積することができ、社内では様々な活用案が出されている」とし、実際にマネタイズにも繋がりはじめている事例についても紹介があった。マネタイズに繋がっているのは、部署毎で営業を行っていた体制から、営業局とコンテンツ事業センターが協力して営業を行うようになったことも関係あるとし、「取組み自体は良い方向に向かっているが、クリック数を重視して、安ければいいという流れが出てしまう場面もあるのでそこには注意したい」と続けた。また、今後の展望としては、「きちんとした制作費とプロの作り手が作っているコンテンツをキャッチアップ、あるいは配信に出しているので、広告の単価については強く意識したい。プレミアム感のあるコンテンツをきちんとした形で世の中に出していくことで、将来の市場の基盤の底上げを目指している」と語り、社内でもそういった士気が高まり始めていると伝えた。
また、山口氏の話を受け、柴田氏は「視聴者が24時間365日どんな生活をしているかを知りたがっている中で、媒体社さんとしてどういう情報を取っておくことが広告に結び付くのか、そういう実験の積み重ねが、広告業界が底上げされる一つの良さなのではないかと思う」と続けた。
他、リターゲティングについてのディスカッション時には、有馬氏による楽天スーパーセール時の購買リフトなどの事例も紹介された。
■今後のインターネット、広告データマーケティングについて
最後に、今後のインターネット、広告データマーケティングについて一言ずつマイクが向けられた。
山口氏は、「楽天のような実証実験の結果をコンテンツに落とし込もうとすると、また迷いが生じる。その時に頼りにするのは、“一人でも多くの人に見てほしい”というテレビマンの本能である」と伝え、今後について下記のようにまとめた。
「地上波だけでなく、視聴者にコンテンツを届ける場が増えているからこそ、一人でも多くの人に見てもらいたいし、それぞれのセクションで個々の才能、経験値といったものを統合し、一方で営業活動にも励みながらも、テレビマンの気持ち、本能を大事にするといったシンプルなことも忘れてはならない」とした。
有馬氏は、「クリックではなく正しい購買、成果につながるように、正当にお金が落ちていく仕組みをもう一度再建したい。テレビだろうがデジタルだろうが、本来は優良なコンテンツにお金が落ちて行くもの。基本的な根っこは一緒だから、放送局、代理店、広告主が実現している世界をデジタルでも実現させていきたい。我々はビデオリサーチやニールセンのように中立の立場にはなれないが、購買データ、ID、ビックデータといった観点から業界に貢献していけると思う」とコメントした。
村山氏は、冒頭で“全てのメディアにおけるブランド化を真剣に考えていく時期にきている”と発言したことを再度繰り返した上で、「1次情報の重要性が非常に高まっていること」と伝え、昨年のキュレーションメディア問題を含めて、2次情報に埋没しているデジタルメディアの世界をどう1次情報ベースに戻し、きれいなホワイトベース化をしていくのかといったことは非常に需要だと考えていると語った。具体例として、「オリンピックのスポ―ツ中継、音楽のライブ、といったライブエンターテインメントは、本来は生で見たいけれど、見られない(行けない)からリアルタイムで見たいという視聴欲求に繋がる」とし、「1次情報の発信をメディアとしてどう強化していくかが課題であり、自身もチャンネル運営を考える際に、1次情報へのこだわりをしっかりと持ちたい」と続けた。
柴田氏は、「絶対に普遍的なことは、生活者のことを徹底的に知ることにある」とし、「その原点にもう一度戻り、メディアのみなさんが視聴者、消費者の何を見ているのか、メディアが自身の特徴をデータからよく把握しておくこと、そしてデータをどう活用していきたいのか、その目的を明白にしていかないといけない。そして、その目的を業界全体でもしっかり共有し、共通指標を作って、そこから再度マーケティングというものを作り直すところから始めたい。そして、放送局で、例えば自分たちの番組を誰がどう見ているのかを知りたいなどのご要望があれば、ぜひ一緒にやっていけるといいなと思う」と意見した。
以上が本パネルディスカッションの内容となるが、各事業者とも共通していたのは、テレビとデジタルの統合的なデータが重要であり、そのデータを用いて最適なミックス解を模索し、これまで価値の見えなかったところを価値化させるための取組みを行っている点にあったように思う。すでに手応えを感じ始めている話もあり、メディア、事業会社、広告会社、それぞれにおいて意味のある共通項・共通軸を発見しながら、いい意味でのパートナーシップが築けることが理想ではなかろうか。