ビデオリサーチの新会社「Delta Values」の放つインパクト<インタビュー前編>
編集部
株式会社ビデオリサーチ(以下、VR社)が、データサイエンス事業に特化した新会社として株式会社Delta Values(デルタバリューズ 以下、Delta社)を2018年4月に設立した。VR社の100%出資によるDelta社は、データサイエンティストを集結し、高度なデータ解析から、ロジック/エンジンの作成、ツールの構築までをワンストップで提供する。その設立の背景やミッション、今後の展望について、2回に分けて特集。同社が放つ業界へのインパクトを考察する。
■クライアントの意思決定に役立つアウトプットを提供
もともとVR社には、データデザイン部という企画セクションがあり、データを活用した企業の事業支援のため、同社が保有する豊富なデータを活かしながら、外部データとの統合による新しい価値を提供する取り組みを行っていた。この部署は、2018年4月よりソリューション事業局という大きな枠組みのなかに組み込まれており、基本的な役割は変わらない。
「当社はこの“データ統合”という取り組みをさらに進めるべく、既存の組織やデータ提供業務から切り離し、データサイエンス業務に特化している。」Delta社の代表取締役社長 岩城靖宏氏はこのように語る。VR社のソリューション事業局長を兼任する岩城氏によると、Delta社では、クライアントの求めに応じて、事業の意思決定に役立つレベルの高度なデータ解析、ロジック/エンジン作成ならびにそのためのツール構築までを担うという。
Delta社の取締役である森谷東二郎氏は、同社の事業イメージを「アウトプットに寄っている」と語る。Delta社がこだわるのは、あくまでも実用的なアウトプット。
「こういう課題に対してなら、こんなツールで、必要なエンジン/ロジックはこれ、それには、こうしたデータが必要になる」と逆算して組み立てていくという。
近年は、クライアント自身が豊富なデータ(材料)を持っていることも多い。しかし、それらをどう“調理”すれば、求める“料理”になるのかわからないケースも見受けられる。Delta社は、材料の提供を目的とするのではなく、VRグループとクライアントのデータを組み合わせて「クライアントに合わせたアウトプット(レシピや料理)」をサービスとして提供する。
「 Delta社は、クライアントのニーズに合わせてカスタマイズ対応することが前提。クライアントが普段業務で使っているフォーマットに落とし込むところまで担う。これらにより業務に直結した有益なアウトプットの提供が可能だ」と岩城氏は同社のポテンシャルを語った。
■業界知識を持つデータサイエンティストたち
Delta社の実働部隊は、データサイエンティストたちだ。彼らは、クライアントの個別課題の解決に向けて、アウトプットを設計から具現化していく。大前提として求められるのは、データハンドリングと統計/解析に関するスキル。そこに加えて、プラグラミングをはじめとしたエンジニアのスキルも重要だと森谷氏は話す。
「今や、さまざまなデバイスから大量に細かなデータを収集できるようになっている。しかも、そのサイクルが非常に早い。このようなビッグデータをハンドリングする必要がある」とその理由を語っている。
データサイエンティストには、当該領域のビジネスへの深い理解も求められる。それがなければ、クライアントの事業に貢献するアウトプットの提供は難しい。その点、Delta社はVRグループという土壌があるため、メディア/コミュニケーションの部分で強みを持っている。
岩城氏は「たとえば、私たちは視聴率には季節変動があるといった前提を知っている。だから、特異な分析結果が出たときに、こういう傾向になるのはおかしいと判断できる」と説明する。
Delta社のオペレーションズ・マネージャーである宮脇真也氏も、「そもそも私たちがアウトプットを意識するのは、それを求めている業界のバックグラウンドがわかっているからこそ」と強調する。
■VRグループとの連携も駆使し、ワンストップでデータを価値化
数あるデータサイエンス事業に取り組む会社のなかで、業界に特化した強みを持つDelta社。VRグループとのシナジー効果をサービスに落とし込める点も強みである。一つは、VRグループの豊富なデータとの統合により、さらにアウトプットの質を高めることができること。メディア/コミュニケーション領域を核として、必要なデータを作ったり、新たなデータを調達したり、VRグループ全体で最適な対応が行える。
森谷氏は、「大量の実数データが、早く揃うようになったが、多ければ代表性があるわけではない。VRグループはデジタルのログデータだけでなく、パネルデータ、アンケートなどさまざまな手法で取得した生活者の実態データを保有している。そのデータを組み合わせれば、より実態に近い、正しい判断をするための結果を得られる」と語る。
課題の設定からデータ収集、データ解析、ロジック/エンジン作成、ツール開発、そしてクライアントの求めるアウトプットに至るまでをワンストップで対応し、データを価値化する。それが同社の大きな強みと言えるだろう。
世の中に無数にあふれるデータは、ときに私たちを翻弄する。絶対的だった価値観も揺るがしてしまう。そんななか、個社の事業に有益なアウトプットをズバリ提供するDelta社の誕生は、「いま、確かな指標」を求めているメディア業界にとって喜ばしいことだと言えそうだ。次回は、同社が考えるデジタルマーケティングの現状と課題、そして同社の目指す地平について紹介する。