Delta Valuesが考える、デジタルマーケティングの現状と課題~データを集める時代から生かす時代へ<インタビュー後編>
編集部
前回に引き続き、株式会社ビデオリサーチ(以下、VR社)の新会社・株式会社Delta Values(デルタバリューズ 以下、Delta社)について特集する。メディア業界に詳しいデータサイエンティストが結集しているDelta社。今回は、同社が考えるデジタルマーケティングの現状と課題、描いている事業の展望について迫っていく。
■データが持て余され、正しく価値化されていない
Delta社の代表取締役社長 岩城靖宏氏によると、デジタルマーケティングにおける課題のひとつは、氾濫するデータを処理しきれず、十分に活用できていないことだ。「データを集めやすくなったことで、とりあえず先に集めておくという場合も少なくない。目的を見失っているケースもある。そこをVRグループは支援する。そもそもの課題を紐解き、必要なデータの粒度や頻度、見るべき切り口や指標を整えていくと、非常に喜ばれる」と語る。
また、同社取締役の森谷東二郎氏は、全数データに偏重したマーケティングに警鐘を鳴らす。「たとえば、あるサービスで高い数値が出たとしても、そもそもサービスを利用している人は全国でどれぐらいいるのかといった前提が加味されていなければ、実態とかけ離れた分析結果になる」と森谷氏は懸念する。Delta社が、豊富なデータを有するVRグループとの連携を重視しているのは、まさにこのためだ。近年、VRグループは国際的な調査会社であるニールセン社ともデジタル領域で提携した。この取り組みにより得られるデータも統合できるのは、非常に大きな意味がある。
同社の強みであるメディア/コミュニケーション領域にフォーカスすると、テレビの価値を可視化し、良さを伝えることが課題とのことだ。岩城氏は、「テレビCMやテレビ番組での露出により、モノやコトが大きく動くことを現場は体感している。しかし、その関係性が見えにくいのが現状だ。あれほど良質で、すなわちCMの考査があり、コンテンツの規制が行き届き、その上で高いリーチ力を持ち、短期間に多くの生活者の意識と行動変化を促すメディアはない」という。若者のテレビ離れについても、若年人口が減っていることを鑑み、市場を捉え直す必要があるとのことだ。「VRグループとしての取り組みになるが、きちんと実態を捉え、テレビで生じている意識・態度の変容の明確化を推進したい」と岩城氏は語っている。
■「テレビCM×デジタル広告」の効果シミュレーション開発に注力
4月にスタートしたばかりの同社だが、VRグループと取引がある総合広告会社、デジタル媒体社などと、すでにいくつかのプロジェクトが動き出している。Delta社のオペレーションズマネージャーである宮脇真也氏によると、「VRグループの社員とともに、クライアントのもとで打ち合わせを行うこともある」と、VRグループ間のシームレスな連携体制を語る。
そのような流れのなかで、当面はテレビCMとデジタル広告の効果をシミュレーションするツールの開発がメインとなる。これは、業界の最重要課題と言っても過言ではない。これらの案件はVR社でも扱うが、一つひとつの課題に対して、顧客の意思決定に資するツール開発を前提とした業務を行うのがDelta社だ。
岩城氏は、「市場全体を捉えたデータを提供するのがVR社。一方、Delta社は実務に直結するソリューションを提供する。媒体社によって条件も違う。テレビCMの出稿も1局なのか、複数なのか、クライアントやキャンペーンごとにコンディションが異なる。それらを盛り込みながらチューニングしていく」とのこと。このように、クライアントと密接に関わりながら事業を展開していくのが、Delta社のスタイルである。開発するツールは、一社一社まったくの別物になるという。
■広がる事業展開。VRグループへの還元も
同社のアウトプットは、基本的には生活者理解や意思決定のために使われるものだが、クライアントによっては、クライアント自身が持つデータをマネタイズしたいという声もあるという。岩城氏は、「クライアントが持つデータだけでは価値化まで至らなくても、VRグループが関わることで、VRグループが保有するデータを含め、さまざまなデータを統合することにより、価値を高められるケースもある。また、VRグループはテレビ業界・デジタル業界・広告業界とのお付き合いがあるので、販路拡大についても貢献できる」と事業の可能性を感じている。
Delta社は、さまざまな案件を通じて得た知見を、VRグループに還元することも目指している。具体的には、VRグループの新たなASPサービスとして結実したいという。「グループ内において、当社はある種、実験的なところも担っている」と森谷氏は語る。シナジー効果によるVRグループ全体の可能性を広げたいと考えている。
会社としては、メディア/コミュニケーションを主軸にしつつも、チャンスがあれば領域を広げることもやぶさかではないとのこと。「クライアントが、他領域に事業を展開している場合もある。求めに応じ、柔軟に対応していきたい」と岩城氏は話す。領域を広げるにあたって、その領域に詳しい人員を迎えていきたいという。欲しいのは、“その領域での価値を表せる人”。その業界がわかってこそ、よいアウトプット、ツールができると考えている。森谷氏も同意見で、「ゼネラリストよりも、スキルであれ、業界であれ、特化した人を採用したい」とのことだ。
あくまでもクライアント側に寄り添い、データを自在に組み合わせて価値化していくDelta社。その柔軟性が、同社最大の強みかもしれない。同社が、データを集める時代から、生かす時代へシフトさせたとき、業界がどう変わっていくのだろうか。今後の活動に大いに注目したい。