電通・博報堂社長の対談が実現!トップが語る“広告業界の現状と未来”< Advertising Week Asiaレポートvol.1>
編集部
2018年5月14日~17日に六本木の東京ミッドタウンにおいて、マーケティング、広告、テクノロジー、エンターテインメントなどの幅広い業界がひとつとなり、未来のソリューションを共に探求する世界最大級のマーケティング&コミュニケーションイベント「Advertising Week Asia」が開催された。世界各国からさまざまな業界のビジネスリーダーが集結し、プレゼンテーションやワークショップ、イベントが行われたが、本項では最も注目が集まった基調講演「CEO’s Talk 水島正幸 Meets 山本敏博」をレポートする。
■公の場では初めて!電通と博報堂の社長対談
2018年のAdvertising Week Asia(AWASIA)最初のイベントは、株式会社電通(以下、電通)の山本敏博代表取締役社長執行役員と株式会社博報堂(以下、博報堂)の水島正幸代表取締役社長による、広告業界初の社長対談で幕を開けた。
イベントの司会を務めたのは両社にゆかりのある人物で、AWASIAのエグゼクティブ・プロデューサーである笠松良彦氏。
まずは両社長の経歴を紹介するべく、それぞれの入社の経緯を尋ねると、「電通を選んだのは、博報堂の試験に落ちたから」(山本社長)、「博報堂にしたのは、電通落ちたから」(水島社長)とお互いに答えて笑いを誘い、緊張気味のスタートから一転、会場は和やかな雰囲気に包まれた。


以降、笠松氏のインタビューによりお互いの意見を交わす形で対談が進んだが、注目のやりとりをいくつか紹介する。
■変化の時代に、情熱を持ってチャレンジ
まず、議題に挙がったのは「広告とは何ですか?」という疑問。これに対して、山本社長は、「言葉通りに答えれば、僕にとって広告は仕事です。そして、最大の関心ごとです。僕が考える広告の機能は、今も昔も変わらず、商品やサービス、企業、考え方や意見などの広告の対象物の価値や評価が前よりも良く変わる、変えるということだと思います」と答え、水島社長は、「動かすということが重要な役割で、人の心を動かして商品を買ってもらうなど、世の中を動かすことが広告の重要な機能だと思います。また企業、商品、生活者を広告やコミュニケーションでつなげていくということも大きな役割だと考えています」と答えた。

続いては、「これからの広告はどうなっていくと思いますか?」という質問が上がる。これについて、水島社長は以下のように答える。

「今までも広告は変わってきました。80年代前半はグラフィック1枚に素晴らしいコピーが付いていたり、丹念にCMが作られたりする『The広告』の時代で、それがメディアや店頭を使うキャンペーンになってきました。90年代後半はブランドという概念が出てきて、ブランディングが広告の重要な役割になり、最近はデジタルの時代で、統合コミュニケーションが広告の仕事に求められています。このように、時代と共に変化していくことが広告業界の良さだと思います。これからは、生活者のデータが瞬時かつ膨大に取れるので、もっとレベルの高いサービスの提供が必要になってきます。またメディアもデジタルとなり、街や家、社会のいろんなところに入っていくので、これらも広告だと考えて自分たちの仕事にしなければならないですね」。

山本社長も水島社長の発言に、「水島社長のおっしゃる通りです」と呼応。「社会はどう変わるのか、どう変わっていくのかを考えて、具体的な対応をしていくことが重要です。そうした視点で広告はどうなるかと考えると“どう変えていくかという意思“が大切になってきます。世の中が変わっていくことに対処するだけでは後手に回ってしまい、下手をすると広告の本質的な機能を見失うおそれもあります。変化する社会に対して、どこをどう広告しようとするのか、広告を行う我々の意思が大切です」と語る。
それを踏まえたうえで、「我々が獲得してきた能力も変わっていく時代の中で、一番活かせる方法を考えながら、広告を今よりもっと質の高い、効果の高い、効率の良い、もっと精緻で拡張できる、もっと楽しく美しい、力強いものに変えていくという意思がないと、自分たちの機能を磨くために作ったはずの中間指標が目的化してしまって、迷走するようなことがあるかもしれません」と山本社長は未来の広告への警鐘を鳴らした。
続いて、質疑応答のテーマは「広告を面白くするために、広告人はどうあるべきですか?」へと移行する。これについて水島社長は、「広告会社は、もっとポジティブに変わっていかないといけなくて、やれる仕事も増やさなければいけないと考えます。そして、広告会社には無限の可能性があります。何をやってもいいと思うので、自分の好奇心を発揮しながら、熱狂的にチャレンジすることが一番大事だと思います」と答えた。
一方、山本社長は、「まず人や社会に向かっていく仕事をするには、覚悟、洞察、倫理観、謙虚さが必要で、人の人生や社会に関わるという自覚が必要です。また広告は事業活動のプロセスのひとつであり、ビジネス全体から広告を捉える視野を持たなくてはいけません。そしてこのような時代においては過去の成功体験を捨てること。毎日思い切り良く捨てて、人と違う、楽しいことに向かっていくべきだと思います」と語った。
■社長になれるぞ! と自分を誘いたい
貴重な対談は時間があっという間に過ぎ、まだまだ聞き足りない、次の質問は何かと期待しているうちにタイムリミットを迎えた。
最後に笠松氏は2人に「今、もし目の前に大学4年生の自分がいるなら、どうやって会社に誘いますか?」という質問を投げかけた。

これについて、山本社長は「社長になるぞ!と誘います。なったらひどいぞ、とは言わずに」。水島社長は「お前でも社長になれるぞ!」と答えて再び聴衆の笑いを引き出し、握手を交わしてセッションは終了した。