広告主が求めるデータとは…ブランドセーフティとビューアビリティ<Advertising Week Asiaレポート>
編集部
マーケティング、広告、テクノロジー、エンターテインメントなどの幅広い業界がひとつとなり、未来のソリューションを共に探求する世界最大級のマーケティング&コミュニケーションイベント「Advertising Week Asia」が、2018年5月14日~17日に六本木の東京ミッドタウンにおいて開催。今回は、3日目(5月16日)に行われセッション「デジタル化するテレビ 〜米国TVデータ活用とビューアビリティ最新事情〜」の様子をレポートする。
このセッションは、渡邉卓哉氏(Media Japan Network 代表)がモデレーターを務め、劉延豊氏(Co-founder, TVision Insights, Inc. CEO)、佐々木亨氏(オラクル、オラクルデータクラウド ゼネラルマネージャー)、須賀久彌氏 (プレゼントキャスト COO)、高橋秀明氏(日本テレビ放送網 営業局営業企画戦略部担当部次長)がパネリストとして登壇。特に米国で重要視されているビューアビリティ、ブランドセーフティの観点から、動画広告(ビデオ広告)・テレビ広告の現状と未来の展望について語られた。
Media Japan Networkの渡邉氏はセッションの冒頭に、米国でデジタル広告費がテレビ広告費を上回った2017年の実績から、「デジタル広告の需要は年々増している」と語る一方で、「ブランドセーフティは揺らいでいる」とデジタル広告の現状を解説した。
まず、米国では現在、アドフラウド(広告詐欺)が問題視されており、全米広告主協会(ANA)の調査では、米国のアドフラウドによる損失額は2016年時点で72億ドルに達している。この事実は、日本の今後を考えても見過ごすことはできないと指摘した。
また、米国の広告主は動画広告のビューアビリティの統一基準の設置を検討しており、ブランドセーフティの観点から、サードパーティーによる監査の必要性を強く認識しはじめている。
この現状から渡邊氏は「昨今テレビ広告の価値が見直されている」として、「広告主にとって安心・安全なテレビ広告は、高価値でプレミアム感がある。サードパーティーによる監査やスケールの大きさも利点だ」と述べたが、ネットメディアにおける動画広告は今や無視できない存在である。アドフラウドを回避しビジネスに最大限に活かすには、どの指標をどのように読み解き、どう活用すればよいのだろうか。
■「テレビ広告の信頼性は、公式配信サイト内の動画広告にも引き継がれている」
「生活者のメディアに対する接し方が変化し、今や見逃し配信は欠かせないもの」と口火を切ったのは日本テレビ放送網の高橋氏だ。
同局では、2014年から見逃し配信をスタートしている。開始した当初は、「ネットで配信される動画における「インプレッション」は、すべて同価値とみなされることに驚いた」という。「ドラマなどのプロフェッショナルが作った人気テレビ番組も、スマホで撮影した猫の投稿動画も皆同等にみなされる」のが動画配信で、テレビの世界とは価値基準が異なることに戸惑ったという自身の体験を語った。
テレビ広告と動画広告においても、価値基準の指標が全く異なる。「テレビ広告は視聴率ベース。なぜならば、音声が出て100%ビューアブルなのは当然のこと。当たり前のように安全性も確保されている」一方、動画広告で重要視されるのは、先にも述べた通りビューアビリティとブランドセーフティの2つ。
その信頼性は、これも当たり前のように、日本テレビが運営する公式動画配信サービス「日テレ無料!(TADA) by 日テレオンデマンド」、民放公式テレビポータル「TVer」など、テレビ由来の動画配信サービスにも引き継がれている。
ブランドセーフティとは、CMが安心・安全なサイトで流れているかどうかであり、ビューアビリティとは、広告がユーザーに本当に見られているかどうかだ。後者はビューアブル・インプレッション率、CM完全再生率、スマホ画面占有率、非ミュート率などが、指標として用いられている。
高橋氏が紹介した、日本テレビの公式動画配信のビューアビリティは、スマホ画面占有率が100%、非ミュート率は99.9%(PCのみ)、ビューアブル・インプレッション率は95.5%(PC・スマートデバイス含)、CM完全再生率は平均91.9%(PC・スマートデバイス含)と圧倒的だ。放送された番組の配信であるため、当然ながらブランドセーフティも保たれている。事業活動に一定の基準を満たすことが必要なテレビ局の強みが、動画広告にも生きていることがわかる。
オラクルの佐々木氏も呼応し、「そもそも、広告とは見られないものには価値がない」と下記のスライドを表示しながら指摘した。
また、ビューアブルの基準の概念が、現在米国では2つ(※MRC基準とAgency基準)あるが、そのうちAgencyが定めている厳しい基準で評価するとスマートデバイスでの動画広告のビューアビリティを満たすものは、全体の7.4%しかないことになる。
※MRC基準とAgency基準
<MRC基準>
・ディスプレイ広告…広告ピクセルの50%以上がビューアブルなスペースに1秒以上
・動画広告…広告ピクセルの50%以上がビューアブルなスペースに2秒以上再生
<Agency基準>
・ディスプレイ広告…広告ピクセルの80%以上がビューアブルなスペースに1秒以上
・動画広告…広告ピクセルの80%以上/再生時間の半分以上、音声ONの状態
しかし、佐々木氏は「日本には潜在的なビジネスチャンスがある」と付け足し、「正しい場所に正しい形で広告を出すことで価値が高まるはずだ」と語った。
プレゼントキャストの須賀氏はこれを受け、「民放公式テレビポータル「TVer」でのCM完全再生率は、全局全番組のデータで、91.6%と、別途紹介された日本テレビのデータと同様に高く、また「TVer」での再生数の80%がスマートデバイスでの再生となっており、動画の性質上、音声は基本的にON状態。動画広告の広告効果を求めるのには非常に適切である」としている。
また、長尺コンテンツに関しては「TVerのユーザーは、ドラマやバラエティなど“見たい番組を見る”という目的をもって来訪するので、長尺コンテンツでも最後までご覧いただけるケースが多い」と分析している。
高橋氏も、「動画配信サービスをスタートした当初は、動画投稿サイトの動画と同様に短尺しか見られないのではないかと考えていたが、TVerでの配信をスタートしたところ、視聴時間も長く、テレビの延長線上にあるメディアであることがわかった」と語った。
これについて劉氏は、日本のテレビ局の公式動画配信サービスは、「コンテンツ力が違う」という。「視聴時間の状況はアメリカの4~5倍。結果アメリカより増えることになる日本のテレビコンテンツの広告在庫の量は魅力的だ」と語った。
■「リーチを最大にするのではなく、認知を最大にすることが重要」
また、ブランドセーフティに関して渡邉氏から「アメリカでは広告主の75%がブランドセーフティを気にはしているが、対処しているのは26%程度」という報告がなされた。「アンセーフコンテンツを避けることが必要になるが、実は非常に主観的な課題であり、個々の対応が必要になる。例えば、競合ブランド対応、未成年対応などは商品ブランドによって異なる課題であり、一概にこれがアンセーフとは言えないもの」であり「ブラックリスト化はそう簡単にできるものではないし、フェイクニュースを見破ることも容易いことではない」という課題があるためとした。
佐々木氏は、ブランドセーフティを保持したまま広告展開するには「広告主である企業が主体となって、企業ごとにブラックリストやキーワードなどを設定すべきである」と述べ、「広告で大切なのはアテンションをどれだけ取れるかだ。ブランドセーフティが保たれているという視点は結果広告取引の価格にも反映する」とした。
続けて劉氏も、「テレビはアテンションを獲得する手段。クロスプラットフォーム、テレビ×WEB、それぞれのコンセンサスが必要だ」と語った。
須賀氏は「ブランドセーフティとビューアビリティは、広告主にとって必要条件でしかない。それでは十分条件はなにか」と問題提起した上で、「マーケティングに資するかどうか、これは広告主、商品によっても違うが、例えば、CMを覚えているかどうか、認知しているかどうかを計測する、といったことも1つの考え方になると思う」と指摘。次いで渡邉氏が「デジタル広告において運用型が増えた結果、供給が増えた。これはターゲティングが容易にできるという非常によい効果を発揮したが、その広告はどこに出たのか? という点ではおきざりになってしまった」と。また、「今後、デジタル広告においてはブランドセーフティとビューアビリティは基本的なもの。さらにその先を考えることが大事だ」とまとめ、セッションを締めくくった。
ブランドセーフティを保ち、ビューアビリティを上げるには、多様なニーズに応え得るバラエティに富んだクリエイティブづくりと、動画広告の配信先(プラットフォーム)を取捨選択する選別眼を研ぎ澄ます必要性があるのかもしれない。