視聴の制約はテレビらしい楽しみを生むのか?インテージ「ライフログデータ」分析
編集部
インテージは、自社が保有する生活者の「ライフログデータ」を自主分析したレポートシリーズ「インテージのライフログデータが示す、メディアの未来」と題したレポートシリーズの発行を開始することを発表した。
その第一弾として、スマートテレビの視聴ログデータを活用したサービス「Media Gauge TV」のデータを利用した、「インターネット上の動画サービスにはない『テレビらしい楽しみ方』についての考察」をリリース。動画配信サービスでは置き換えられないテレビの特色として「地域特化」と「同時に見る」という2点を指摘した。
■調査のポイント
1.「地域特化」
地域に特化した番組が、当該エリアの人々の高い関心を引き付ける。
→『アド街ック天国』の「八王子市」放送回の番組平均接触率は関東広域4%なのに対して、八王子市では17%、周辺のあきる野市や相模原市緑区では10%超。
2.「同時に見るからこそ」
「団らんの場でみんなで見る」ことに意義がある番組の存在
→低タイムシフト接触率(1.5%未満)、高リアルタイム視聴率(11%超)の「サザエさん」
■「地域特化したテレビコンテンツ」と「地域ごとの放送事情」の関係
インターネット上のコンテンツには「世界中のどこからでもアクセスできる」のに対して、テレビ放送には「受信できるのはその放送局の電波が届くエリアに限定されている」という前提がある。関東、近畿、中京地区の3つの広域放送域には5~7つの民放局があるのに対し、それ以外のエリアでは1~3つしかないというのはテレビの大きな特徴である。
本調査では4月14日(土)にテレビ東京系列で放送された『アド街ック天国』について取り上げている。該当回のテーマは「八王子市」。関東広域計での番組平均接触率は4.4%だが、特集された八王子市では接触率17.1%と極めて高い数値が出た。また、周辺のあきる野市で11.8%、相模原市緑区では10.2%と同様に高い接触率が記録されている。地域に特化した番組がその地域の人々から高い関心を持たれていることが伺える。
本調査では、地域ごとに見られる番組が限られてしまうことが制約になる一方で、各局が製作した「地域に特化した番組」と視聴者がより強く結びつく要因にもなると考察しており、そのことがインターネット上の動画サービスにはない、テレビらしい体験であるとまとめている。
それを踏まえたうえで、八王子市の近隣地域でありながら、テレビ東京系列の民放を持たない山梨県のデータが興味深い。テレビ東京系列の民放を持たないにもかかわらず、山形県では、当回の接触率が関東広域の接触率と同程度であることが分かった。これらは区域外再放送(CATVなどを通して、他放送エリアの放送局の番組を放送すること)の視聴による結果だと考えられる。
地域の放送事情により求める番組にアクセスしづらい状況にありながら、高接触率を出した山梨県のケースは、「特定地域にフォーカスした番組は該当地域だけでなく、近隣地域の住人にとっても極めてバリューが高く、地域ごとの放送事情という制約を乗り越えうる」ことを示したものだといえる。
一方で、山梨県を放送域とする民放局は2局と極めて少ない。この結果は、「興味関心のあるコンテンツであっても、隣接するエリアの放送局の番組を区域外再放送で視聴するためにはCATVなどに加入しなければいけない」という事実を改めて浮き彫りにしているともいえる。
これを「CATVなどの存在が地域ごとの放送事情の制約という壁を取り外した」と捉えるか、「地域ごとの放送事情という制約を乗り越えるためにCATVなどを巻き込んだ工夫が必要である」と捉えるかについては、検討の余地があるのではないだろうか。
■「同時に見るからこそ楽しめる」テレビコンテンツの存在
本調査では、テレビ放送のもうひとつの特徴として「同時性」を取り上げている。
インターネット上のコンテンツにはンターネット上のコンテンツには基本的にいつでも好きなときにアクセスできるのに対し、テレビの場合は番組が放送されたその時点に受信しなければならないという制約がある。
近年、録画機の利便性の向上やHDD容量の増加による録画視聴の普及により、放送の同時性はいくらか緩和されている。いわゆる「全録機」により、自動的に録画された数多の番組から「その時に見たいものを見る」という視聴スタイルは、ビデオ・オン・デマンド(VOD)やその他のインターネット上の動画サービスに近いものがあるのではないだろうか。
そこで本調査では放送と同時に受信して見るリアルタイム視聴と、好きな視聴タイミングで見るタイムシフト視聴、生活者はどのように使い分けているのかを分析している。
RT(リアルタイム)接触率を横軸、TS(タイムシフト)接触率を縦軸にとり、アニメ番組をプロットに散布図を作成。それぞれの特徴を割り出した。
グラフ右上に位置しているのはリアルタイムでもタイムシフトでも人気のある定番アニメ。『ドラえもん』や『ワンピース』など、ある程度幅広い年代の視聴者が楽しめる作品が並んでいる。幅広い視聴者層が自分のライフスタイルに合わせたスタイルで視聴している姿がうかがえる。
一方、『ポケモン』や『アンパンマン』など、子供向けのメジャー番組は、幅広い年代が楽しんでいる定番アニメよりリアルタイム、タイムシフトともに低くなっている。
また、チャートの左中央には、深夜アニメが中心に並んでいる。RT接触率に対してTS接触率が高く、「毎週深夜まで起きて見るのは辛いが、欠かさず見たいのでTSで」という視聴スタイルが見て取れる。
これらの番組から距離があるのが、右下に位置する日曜18時台放送の『サザエさん』と『ちびまる子ちゃん』だ。TS接触率はいずれも1.5%未満と非常に低い一方で、RT接触率は11.0%、8.5%と非常に高い数値を出している。ここからは、「TSで好きなタイミングで見るよりも、家族団らんの場でみんなで見ることに意義がある」というスタイルが想像される。
インテージによる、「グッド・ライフ意識調査から見えてきた日本人の幸せとは?(前編)」(https://www.intage.co.jp/gallery/goodlife01/)のデータからも、『サザエさん』視聴者が「家族で過ごす時間」を大事にする層であることがわかっている。
こうした「家族団らん」のスタイルが、まさに『テレビらしい』楽しみ方ではないかと考察されている。また、SNSを使って意見や感想を共有しながら番組を楽しむケースを取り上げ、同時に同じコンテンツを視聴できるところが、同時性のもたらす価値ではないかとまとめている。
■まとめ
本調査では「通信と放送の融合」を起点に、インターネット通信と比較した際のテレビ放送の特徴として「地域性」と「同時性」を取り上げている。いずれも生活者にとってある種の制約でありながら、一方でインターネット通信による動画サービスによっては置き換えづらい『テレビらしさ』に繋がると考察。今後これがどのように変化、あるいは維持されていくのか注目していきたいとしている。