新しい視聴計測でわかった“真の視聴率と今後の課題”【Inter BEE 2016レポート】
FUMIKO SATO
広告取引をする際に、広告効果を計るひとつの指標として利用される重要なものとして、視聴率データが挙げられる。Inter BEE 2016では、株式会社インテージ・株式会社ビデオリサーチ・ニールセン株式会社という日本のBIG3と言われる視聴計測会社の御三方が招集され、各社が取り組んでいる新しい視聴計測から見えた真の視聴率と今後の課題についてのセッションが行われた。
■テレビほどリーチが獲得できるものはない!テレビ認知度の高さ
セッションでは、株式会社ビデオリサーチ ソリューション推進局長 新妻 真氏(以下、新妻氏)から、リオデジャネイロオリンピック開会式での「テレビ×インターネット」の総合視聴率の推計結果が事例として挙げられた。
これによると、全国4,230万人が同開会式を視聴、うち9割を超える人がテレビで視聴したという結果が明らかになった。その内訳は、地上波・BSで放送された開会式・ハイライト番組をリアルタイムで10分以上視聴した人は3,865万人、同番組をタイムシフトで10分以上再生した人は144万人。また、オリンピック関連のサイトで接触した人は641万人(パソコン549万人、スマートデバイス100万人)となっている。
この結果を受け、株式会社インテージ 執行役員 MCA事業本部長 長崎 貴裕氏は、「これまで何年も分析してきたが、やはりテレビの効果は大きいと言える。モバイルシフトによりデジタルが高まると思ったが、弊社の分析によると、特に地方でテレビの価値が高まっていることもわかった。正しいデータを使いマーケティングすれば、テレビ側にメリットをもたらすことが必ずできるだろう」と語った。
これに対しモデレーターを務めたメディアコンサルタントの境治氏も、「ネットではテレビのように人は集まらない。ネットでは5%の視聴率が取れればすごい」とコメント。続けて「覚えているネット広告は少ないが、テレビCMは自然と記憶に残るし効果がある。だからデジタルと並行することで、その価値はより高まるだろう」という見解を示した。
■タイムシフト視聴率取得から見えた本当の数字
かつてテレビの視聴率は放送番組をリアルタイムで見ている人の割合だけを示してきたが、近年ではテレビの見られ方も分散・多様化されているため、各社さまざまな新しい視聴計測を導入している。
例えば、株式会社ビデオリサーチではテレビの価値を正しく示すことを使命とし、分散化する生活者のテレビ視聴に対応した新しい視聴計測をスタート。同時にテレビとデジタルのデータを統合し、動的な生活者に対する広告計画・広告実行を支援するためのデータ整備にも取り組み始めた。実例としては、2016年10月より関東900世帯で視聴率・タイムシフト視聴率・総合視聴率の提供を開始。総合視聴率の取得によって、これまで見えていなかった「番組視聴の拡がり」と「視聴者の特性」を可視化できたこと、そしてタイムシフト視聴率の取得によって+10%強の総合視聴率が計測できたことを新妻氏は語った。
■米国でトータルオーディエンス計測が開始!
米国ニールセンが、2017年3月からタイムシフトを含むテレビ視聴と、各種プラットフォームを通したデジタル視聴の両方を統合したトータルオーディエンス計測を広く市場に提供すると発表したことは、まだ記憶に新しい。米国も日本と同様、数年前からメディア視聴の大きな転換点に来ているのだ。
特に、スマートフォンに代表されるモバイルデバイスやNetflix、Amazon Prime Videoといった定額制動画配信サービス(SVOD)の急速な普及から 、若年層(10代後半から30代前半)である“ミレニアル世代(Millennials)”の動向に注目が集まっているとした米国での事例を挙げ、日本でも米国での知見を活用し、情報取得、共有に努めたいとニールセン株式会社 エグゼクティブ アナリスト 中村 義哉氏(以下、中村氏)より報告が上がった。米国でも従来のテレビ視聴率だけでは把握しきれない、分散した視聴行動の増加が日本と同様に見受けられ、トータルオーディエンス計測を実施するに至ったのだろう。
■広告会社により正しい情報共有を…
新たな視聴計測により見えていなかった部分が可視化されてきているとはいえ、日本ではまだ世帯視聴率が主流だ。他にもデジタル側含め個人視聴の計測が難しいことや、エリア計測はできても日本でのトータルオーディエンス計測が実現できていない。今回のセッションからは、こうした課題が掲げられていることが受け取れた。とはいえ各社、どこで誰に、いつ見られようと、それらすべてをカウントして広告会社にも正しい情報を共有していく意向に変わりないようだ。
―セッション参加者―
○モデレータ
・境治氏(メディアコンサルタント)
○パネリスト
・長崎貴裕氏(株式会社インテージ 執行役員 MCA事業本部長)
・新妻真氏(株式会社ビデオリサーチ ソリューション推進局長)
・中村義哉氏(ニールセンエグゼクティブ アナリスト Watch/デジタル)