日本テレビ放送網株式会社 演出・プロデューサーの栗原甚氏

20 MAY

日本テレビとTikTokが実現する、若者とテレビコンテンツの新たなタッチポイント創出(インタビュー前編)

編集部 2020/5/20 08:00

放送局が、Twitter、Facebook、InstagramなどのSNSを活用し、生活者に番組のPRを含め、“テレビ”の情報を届けるといった動きは年々増加。ドラマにおいては、放送開始前から出演者自身がSNSで告知をし、放送期間中は収録の裏側などを公開。最終回が近づくと、視聴者をより惹き付けるための施策などが行われている。

そんな中、最近増えているのがTikTok(ティックトック)の活用だ。本項ではTikTokを積極的に活用して幅広い層に作品の魅力を伝えた日本テレビのドラマ『トップナイフ-天才脳外科医の条件-』(2020年1月、毎週土曜22:00~、以下、『トップナイフ』)のプロモーション担当者とTikTokのマーケティング担当者にインタビュー。取り組みに至った経緯などを伺った。

■ドラマ制作の現場でもSNSでのプロモーション展開の意識が強まる

『トップナイフ』は、天海祐希が主演を務める、超一流の技術と誇りを持つドクターたちの物語である。椎名桔平、広瀬アリス、永山絢斗、古川雄大、そして三浦友和らが名を連ねる豪華キャスト、脚本は『コード・ブルー』『医龍』の林宏司が担当した本格的医療ドラマだ。

 

完璧な技術が求められる脳外科という分野を描き、登場するドクターたちの内面や葛藤にもスポットを当てる、リアルな人間模様の描写が評判を呼んだ。加えて、後にSNSで動画が拡散されバズったエンディングでのダンスシーンも好評を得た。

 

これについて、日本テレビ放送網株式会社 編成局 宣伝部の桐本篤氏は、

日本テレビ放送網株式会社 編成局 宣伝部の桐本篤氏

「もともと天海さんがエンディングでダンスを踊ることは鈴木亜希乃プロデューサーから聞いていました。同じく天海さんが主役を演じ高視聴率を記録した『女王の教室』(2005年7月)の大塚恭司さん(※塚の字は旧字体)が本作でも監督を務められるということもあり、話題になるだろうなと考えました」と語る。

 

 

 

このダンスを軸にして、十数年前とは違った現在の方法でドラマの情報を拡散したいと考えた時、当然のように浮かび上がってきたのがコンテンツのSNS展開だ。

日本テレビ放送網株式会社 演出・プロデューサーの栗原甚氏

SNSでのプロモーション展開について日本テレビ放送網株式会社 演出・プロデューサーの栗原甚氏は、「2年半くらい前から現場の意識が大きく変わってきました。やらなきゃいけない、というところから、今ではもう通常業務として当然のようにやる、という意識改革が進んでいます」と言う。

 

 

 

ドラマの現場では、かつては良い作品を作れば視聴者に見てもらえるという感覚もあったが、現在は、SNSを活用して自ら発信していかなければならないという姿勢が浸透しているようだ。

■“フォロー”だけではなく“おすすめ”で広がるTikTokの視聴者

『トップナイフ』では、いち早く公式Twitterアカウントを開設し情報を発信し始め、InstagramやLINEでの投稿も積極的に展開していた。さらに放送開始時には、若者の間でユーザーが増えているショートムービープラットフォームのTikTokで、エンディングに流れるダンスシーンを中心にしたコンテンツ配信が始められた。

もともと、それぞれのSNSにはリーチする年齢層や活用方法に違いがあり、視聴率が良くても公式アカウントのフォロワー数が伸びないというケースもあったようだ。『トップナイフ』の場合は、どのように考え、進められたのだろうか。

桐本氏は、「それぞれのSNSのフォロワー数を増やすことと並行して、フォローされていなくても見てもらうには何をすればよいのかと考えました。その時に“フォロー”されなくても“おすすめ”で視聴が広がるTikTokを活用するアイデアが浮かび、ドラマを知らない人ともコミュニケーションが取れるこのツールを使いたいと考えました」と答えた。

TikTokのテレビやメディアに関するマーケティングを担当するTikTok Japan マーケティング本部 マーケティングマネージャーの島田健次氏は、「日本テレビさんからTikTokを使って若い世代にもアピールをしたいという要望があり、現在のトレンドはどういうものかを踏まえて、音楽を使ってどういう展開をするかを考えました」と、テレビドラマとTikTokの新たな取り組みが始まったことを振り返る。

■SNSが有機的につながり効果を発揮するドラマ

今回の取り組みに関して島田氏は、「天海さんを始め豪華なキャストがTikTok上に出るだけでもかなりのインパクトがあるというのは想定できました。加えてダンスと楽曲が魅力的だったことも、番組の認知につながると考えました」と語る。

エンディングで流れる主題歌、JUJUの「STAYIN’ ALIVE」と、主演の天海祐希のキレキレのダンスがTikTokユーザーにも受け入れられ、当初から再生回数は跳ね上がった。

 

島田氏は、音楽とダンスに加え、「素の部分が出る撮影の裏側部分を出演者が提供してくれたのも、TikTokと非常に相性が良かった」のだと言う。その理由を、「TikTokは最大でも60秒、基本的にタテ型の動画です。スマホで、その画角で動画を閲覧した場合、テレビでは少し遠い存在のタレントが非常に身近に感じられるのです」と語る。

『トップナイフ』の内容はシリアスなドラマだが、テレビでは見られない親近感が感じられる動画がTikTokユーザーに刺さり、楽しんでもらうことで番組の認知にもつながったようだ。加えて、TikTokならではの動画拡散の取り組みが成功に結びついている。

後編では、テレビとTikTokによるプロモーションの進め方と相乗効果について、それぞれの考え方を聞く。