テレビちゃん。eat(イート)開発メンバー

22 JUN

新たなテレビの楽しみ方を!愛媛朝日テレビ、“番組連動アプリ”「テレビちゃん。eat」リリースの意図〜インタビュー(前編)

編集部 2020/6/22 09:40

愛媛県をエリアとするテレビ朝日系放送局・愛媛朝日テレビ(eat)は5月20日、テレビ放送のリアルタイム視聴促進と広告効果の可視化を目的としたスマートフォンアプリ「テレビちゃん。eat(イート)」をリリースした。

本アプリは「放送をイベントに変える!」をコンセプトに掲げ、生放送番組の進行にあわせた画面切り替えや視聴者からのリアルタイムな番組参加機能を提供。リリースにあわせ、アプリを利用して視聴者が早押しクイズに参加できる特別番組『テレビちゃん。早押しクイズQ』を生放送するなど、画期的な取り組みが注目されている。

スマートフォンやタブレットなどの普及により、生活者のメディア接触が多様化し、可処分時間の奪い合いが行われるなか、愛媛朝日テレビが提案する「新たなテレビの価値」とは? 本アプリの企画開発に携わった同営業局 事業創造部 部長の玉井謙二氏、同技術局 兼 事業創造部の黒河 純氏に話を伺った。

■番組への「ライブ参加」のみに特化。他の機能は搭載しない

愛媛朝日テレビ 営業局 事業創造部 部長 玉井謙二氏

──「テレビちゃん。eat」開発の経緯を教えてください

玉井氏:他局同様、自社オリジナルのアプリがあってもいいのではないかという議論はもともとありました。一般的にはニュースやイベント、アナウンサーコンテンツなどの情報アプリを志向するところですが、私たちはあえてそうした部分を「外した」コンセプトを立てました。

 

 

──具体的にどのようなことを志向したのでしょうか

玉井氏:「使えるときは使えるけれど、使えないときは一切使えないアプリ」を志向しました。連動番組が放送される際にアプリが使用可能となり、企画に参加できる。逆にそれ以外のときは使えなくてもよい、と割り切りました。

──かなり思い切った方針ですね!

玉井氏:ニュースや天気予報がチェックできる総合的なアプリも良いとは思っていますが、せっかく開発するならば他と同じところを目指さなくてもよいのではと思ったのです。今後の生きる道を探っていく一歩としても、差別化がまず大事と考えました。

すでに参加型を標榜するアプリも多くありますが、たんに「参加型」をうたうよりも、いかに放送と“超連動”して、テレビ番組を「イベント空間」として演出できるかに重きを置きたかったのです。番組へのライブ参加に特化するためにも、それ以外の機能をばっさり切り捨てる決断をしました。

■「知り合い同士が同じイベントに参加している」感覚を意識

──ローカル局のアプリ施策「テレビちゃん。eat」ですが、企画にあたって県民性や風土性はどのように意識しましたか

玉井氏:私たちが放送地域とする愛媛県は人口133万人規模のエリアですが、知り合いの知り合いくらいはすぐにつながれる風土です。つまり、ひとたびイベントを開催すれば「自分の知り合いの知り合いくらいまでは一緒に参加している」というシチュエーションを演出できるのです。

たとえば親子同士や夫婦同士など、近しい人が同じイベントに参加するという地方ならではの環境づくりを「テレビちゃん。eat」では強く意識しました。

 

──アプリ連動番組「テレビちゃん。早押しクイズQ」での展開について教えてください

玉井氏:夕方のニュース番組後に不定期で5分間の枠を特設し、愛媛県に関する知識を題材にした4択クイズを生放送しています。放送時間になると「テレビちゃん。eat」のアプリ画面が自動的に早押しボタンとして機能し、視聴者のみなさんはテレビの問題を見ながらボタンを押すことでクイズに参加することができます。

「テレビちゃん。早押しクイズQ」放送中の様子。番組進行に連動してアプリ画面が4択ボタンに(提供:愛媛朝日テレビ)

──放送時間中、アプリはクイズの「コントローラー画面」として機能するわけですね!

玉井氏:はい。同じテレビを見ながらそれぞれのスマートフォンで参加いただいたり、お茶の間ではご家族同士で挑戦したりと、さまざまな形でお楽しみいただけます。

「テレビちゃん。早押しクイズQ」出題時の画面。選択肢ごとの回答者数をリアルタイムに表示する(提供:愛媛朝日テレビ)

──まさに生放送をイベントとして楽しめる仕組み、という感じがします!

玉井氏:アプリからの回答結果はリアルタイムで集計し、生放送中にランキングを発表しています。上位の参加者に地元企業の商品や店舗やECで使えるデジタルクーポンを付与するといった試みも行っています。

「テレビちゃん。早押しクイズQ」回答者ランキング画面。上位にはプレゼントやクーポン付与も(提供:愛媛朝日テレビ)

──早押しクイズとなると実際の放送とのシンクロ性がかなり大事になってくるかと思いますが、アプリ表示の遅延対策などはどのように行われているのでしょうか

愛媛朝日テレビ 技術局 兼 事業創造部 黒河 純氏

黒河氏:遅延を解消させたり軽減したり、というよりは「遅延をコントロールする」ことを主眼においています。

もともと地上波デジタルの放送はその仕様上、およそ2秒程度のディレイが生じます。完全に時刻ベースでシンクロさせるとかえって回答タイミングにズレが生じてしまうので、放送のディレイにあわせてアプリの画面切り替えをいかに自然に同期させ、臨場感を演出するかが大事となります。

具体的にはシステム側で回答権の有無を管理するフラグを持っておき、番組送出の遅延を考慮して制御することで、テレビ側で出題が流れると同時にアプリ側でも回答が可能となる仕組みにしています。

■「サーバーレス技術」を活用し、驚きの低コストで運用

──「テレビちゃん。eat」の開発体制について教えてください

玉井氏:私と黒河を始めとする事業創造部のコアメンバーが3人、くわえて社内の各部署にサポート役のメンバーが4人ほどいます。制作をはじめさまざまな部署との調整がどうしても必要なので、組織横断型のチームを作っています。

黒河氏:アプリケーションとシステムの開発については、私の方で担当させて頂きました。

──ひとりで開発を!?

黒河氏:はい。会社の規模的に人的リソースを確保しづらいという事情もあるのですが、もともと技術局で放送システムに精通していたこともあり、アプリ開発から放送画面に出力するリアルタイム画面処理までを一括して担当することとなりました。

──開発にはどのような技術を用いているのでしょうか

黒河氏:アプリ部分はUnity(*1)を使い、C#(*2)で開発しています。内製ゆえあまり開発リソースが割けないこともあり、クロスプラットフォーム(*3)を前提に開発環境を構築しました。放送用CG送出についてはC#で開発した表示用アプリをPCに立ち上げ、その画面出力をHDMI/SDI変換して送出しています。

(*1)Unity:Unity Technologies社が開発するゲームエンジン。高速なグラフィックや、物理法則を反映したリアルタイム描画などに優れている。

(*2)C#:プログラミング言語のひとつ。メモリー管理の容易さや異なる動作環境での処理の互換性の高さから、あらゆるシステム開発に広く用いられている。

(*3)クロスプラットフォーム:複数の機種やOS環境で同一仕様を実現すること。ここではiOSとAndroid両方の環境で同一のアプリが差異なく動くことを指す。

──送出システムのシンプルさが印象的です

黒河氏:単純に、表示用アプリケーションを立ち上げたPC画面をそのまま出しているだけという形です。使用するPCも特殊なスペックではなく、普段の事務作業に使用するレベルのごく一般的なものでも運用可能です。

──システム側のサーバー環境はどのように構築していますか

黒河氏:専門知識やメンテナンスコストがかかる自社サーバーではなく、クラウドサービスを利用して構築しています。インフラはAmazon Web Services(*4)かFirebase(*5)かで悩んだのですが、インターフェースが優しく、Unityとのつなぎこみの相性がよかった点からFirebaseを採用しました。サーバーアプリケーションはCloud Functions (*6)とFirebase Realtime Database(*7)で構築しています。

(*4)Amazon Web Services:Amazonが運営するクラウドサービス。サーバー構築や膨大なクラウドアプリケーション群を組み合わせてシステムを構築できる特徴を持つ。

(*5)Firebase:Googleが運営する、クラウドベースのアプリケーション開発プラットフォーム。サービス開発に必要なサーバープログラムの実行環境があらかじめ整備されており、少ない開発コストでシステムを構築できる。

(*6)Cloud Functions:サーバーレスなプログラム実行環境。固定のサーバーを構築することなく、サーバーアプリケーションを動作させることができる。

(*7)Firebase Realtime Database:Firebaseが提供するNoSQL型のデータベースシステム。格納データをJavaScriptでそのまま扱える形式(JSON)である点が特徴。

──生放送での早押しクイズとなると短時間での膨大なアクセスが想定されますが、負荷対策はどのように行っていますか

黒河氏:負荷対策についてはFirebase側(のサービス)に任せています。Firebaseはいわゆる「サーバーレス」(*8)と呼ばれる仕組みで、処理負荷に応じてサービス側で自動的にスケーリング(*9)が行われます。このため開発者はサーバー構成を意識することなく、サーバープログラムの開発のみに集中できます。

(*8)サーバーレス:固定のサーバーを持たず、サービス側にあらかじめ用意されてプログラム実行環境を必要に応じて駆動させる仕組み。

(*9)スケーリング:処理負荷に応じ、サーバー台数や処理スペックを柔軟に切り替えること。

──サーバーレス環境とすることで、コストの削減とプログラムの高機能性を両方担保しているのですね

黒河氏:これまではユーザーからのアクセスを待ち受けるためにサーバーを24時間起動させておく必要がありました。今回のような番組連動アプリの場合は「使用するとき」「使用しないとき」が明確に分かれているため、必要な時だけサーバープログラムを稼働させればよいのです。

サーバーレス環境の利用料金はプログラムの駆動時間や同時接続数に応じて課金される形式が多いのですが、現状は稼働量が無料枠内にほぼ収まっており、きわめて低いコストでの運用に成功しています。

「テレビをイベント会場として再定義する」ことのみに集中して特化した「テレビちゃん。eat」。クラウド環境の発達により、これまで考えられなかったような高パフォーマンス、高効率での運用を実現している点にも注目だ。

後編では、「テレビちゃん。eat」のマーケティング面での活用法について掘り下げる。

【関連記事】リアルタイム視聴を「地元の一大イベント」に!愛媛朝日テレビ、“番組連動アプリ”「テレビちゃん。eat」リリースへの想い〜インタビュー(後編)