左から中国放送 企画室企画部長 神尾正博氏、広島電鉄 電車企画部 安積雄太氏

05 AUG

平和について考えてもらうきっかけに… 中国放送×広島電鉄「被爆電車特別運行プロジェクト」リモート乗車体験実施への想い〜インタビュー

編集部 2020/8/5 12:00

広島電鉄には、75年前に投下された原爆の被害に遭ったものの、原型をとどめ現在でも活躍している車両が3両存在している。そのうち2両(651号、652号)が現在も現役で、客を乗せて走行している。広島復興のシンボルでもあるこれらの車両のうち、1両(653号)が被爆当時の姿に復元され、被爆70年プロジェクトの一環として2015年から「被爆電車特別運行プロジェクト」で使用されている。

しかし新型コロナウイルスの影響により、例年通りの開催が難しくなった今年、プロジェクトを推進してきた広島電鉄と中国放送(RCC)は、LIVE配信での“リモート乗車体験”という新たな試みに取り組む。広島電鉄の電車企画部の安積雄太氏と、中国放送の企画室企画部長の神尾正博氏に、オンライン取材でプロジェクトの概要と意義を伺った。

■平和について考えてもらうきっかけを提供するプロジェクト

「被爆電車特別運行プロジェクト」は、被爆70年を迎えた2015年に始まった。広島電鉄と中国放送(RCC)が共同して取り組んでいるもので、被爆した車両を特別に期間限定で運行するというものだ。

左から安積氏、神尾氏

「戦争や原爆を体験された方は年々少なくなっています。戦争や被爆について未来の世代に伝えることは、私たち広島のメディアの大きなテーマのひとつです。被爆70年において、平和について考えてもらうきっかけを、少しでも多くの方に提供できないか、ということがプロジェクトのスタートでした」(神尾氏)

昨年までこのプロジェクトは、一般から募った希望者に被爆車両に乗車してもらい、車内で中国放送が制作した原爆被害や復興に関するVTRを流し、車窓からは現在の広島の美しい街並みを見てもらうという乗車体験だった。日本全国のみならず、海外からの参加者も含めて、5年間で2,700名ほどの乗車実績があったという。

同社には原爆投下の被害に遭いながらも原型をとどめている車両が2形式4両在籍している。そのうち650形の2両(651号、652号)は現在でも改造・改修が施され営業運行されている。653号は原爆投下の3年前に製造された、当時としては最新の車両だった。残る150形1両(156号)は、営業運行から離れて江波車庫で保管されている。

原爆投下の被害にあった当時の651号

「653号は2006年に一度引退しましたが、中国放送さんと共同で、この車両をもう一度営業線で走らせる、というのがプロジェクトの始まりです。2015年にはカラーリングも被爆当時の青に復元されました」(安積氏)

被爆の惨禍から復興を遂げた「653号」

■乗車体験は断念。ライブ配信でより多くの人に見てもらう試みを始める

2020年も通常通りに運行される予定で、被爆75年の節目の年の開催に向けて準備が進められていた。

「もともと新たな取り組みをスタートさせていました。それはGPSによる電車の位置情報に合わせて、その場所の被爆当時の写真や関連情報をポップアップで表示させる、地図コンテンツのアプリケーションを開発することでした」(神尾氏)

今年のプロジェクトが始まった当時は、例年のように一般の希望者に乗車してもらい、電車の運行に合わせて、このアプリケーションを利用して被爆当時の画像と現在の街並みを比べて見てもらうことを考えていたという。

しかし、新型コロナウイルス禍で参加者に安全に乗車体験してもらうことは困難であるという判断がなされ、例年通りの開催は断念せざるを得なくなった。

「それでも、この653号は広島から平和をずっと発信し続け、勇気を与えてきた存在なので、こういう厳しい状況だからこそ電車は走らせたいという想いがありました。広島電鉄さんも同じ想いを持っていらっしゃったので、電車は走らせることにしました」(神尾氏)

そして、せっかく走らせるのであれば、その姿をネットで日本全国のみならず、海外の方にも見てもらいたいと考え、ライブ中継の実施を決めた。

「乗車体験ができないのは残念だという声もいただきましたが、この状況でもプロジェクトを継続することに賛同のご意見が多く寄せられています。特に、今まで乗りたくても乗れなかった方々からの、非常に楽しみにしているという声には勇気づけられます」(神尾氏)

リモートでのライブ中継では、車両の中と外にネットワークカメラを搭載させ、653号が走行している姿と車窓からの広島市内の光景がスイッチングされる。この中継はWebを通して行われるので、特にアプリケーションのダウンロードは必要なく、中国放送と広島電鉄のサイトから、デバイスを問わず簡単に視聴できる。

2020年8月6日(木)、8月9日(日) 被爆電車走行の様子をLIVE配信(視聴ページへ)

■広島電鉄と中国放送が、力を合わせて取り組む意義

広島電鉄は、他の形式の車両と同じように651号や652号を、そして復活した653号を走らせてきた。平和学習で使うことはあっても、あくまでも同社保有の車両のひとつだったのだという。

「広島電鉄は技術的には650形車両をずっと走らせることはできるのですが、その車両を通じて、例えば平和の大切さを伝えたりすることは、当社だけではなかなかできません。しかしこの車両は広島にしかないものですから、中国放送さんと手を組んで、このプロジェクトを進めることは、大きな意義があると感じています」(安積氏)

実は今年、このプロジェクトにおいて8月6日に被爆電車を走らせるのは初めてのこと。これまで当日は多くの観光客が広島市に訪れるため、一般の乗客輸送を優先させていた。コロナ禍で多くの観光客に来てもらうことは難しくなり、乗車体験もできないが、原爆が投下された当日に被爆電車が走ること、そしてライブ配信で全国に共有できるという年になる。

「少しの時間でもいいので配信を見ていただいて、広島にこういう電車があること、今年も走ったということを感じていただきたいです。コロナ禍が明けたら、ぜひ広島に来てください」(安積氏)

「被爆電車は広島の復興のシンボルです。被爆してもすぐに修理されて広島の市民を運び、大きな勇気を市民に与えました。新型コロナウイルスの影響で今は不安な状況ですが、653号が走る姿を見て、少しでも勇気づけられ、合わせて、平和について考えるきっかけになればいいと考えています」(神尾氏)

653号は8月6日の13時に被爆した江波車庫を出発し、14時10分頃に広島駅に到着する。また被爆後わずか3日で市内での走行を再開した8月9日にも同時刻に市内を走る。この日は長崎の原爆の日でもあり、平和を伝える被爆電車にとって重要な意味を持つ日だ。

〜「被爆電車特別運行プロジェクト」概要〜

■主催:中国放送、広島電鉄

■協力:電通国際情報サービス

■運行日:8月6日(木)、9日(日)13:00出発

■運行区間

①8月6日(木)江波~広電本社前(千田車庫)~広島駅

※8月6日当日に被爆電車653号が運行するのは、今プロジェクトで初

<運行スケジュール>

13:00江波車庫出発13時20分頃原爆ドーム前通過

13:40頃千田車庫(折り返し)

14:10頃広島駅着

②8月9日(日)広電本社前~西広島~広島駅

※75年前、広島電鉄は被爆3日後の8月9日(長崎原爆の日)に、己斐(現在の西広島駅)~西天満町(現在の天満町)間で電車の走行を再開した。当時の走行区間を含むルートを走行する。

<運行スケジュール>

13:00千田車庫出発

13:15頃原爆ドーム前通過

13:30頃広電西広島(折り返し)

14:10頃広島駅着

■車両:被爆電車653号

公式サイト