NHK福島放送局で開催された5局キャンペーン 共同記者会県の様子

18 JAN

東日本大震災から10年の節目、福島初の5局共同キャンペーンの狙い〜インタビュー前編

編集部 2021/1/18 08:00

東日本大震災から10年。節目を迎える今、福島のテレビ局が垣根を越えて県民の声を届けるキャンペーン「福島to 2021 -あれからと、これからと→」を展開している。参加するのはNHK福島放送局と民放4局(福島中央テレビ、福島放送、テレビユー福島、福島テレビ)の福島県の地上波テレビ局全5局。各局の報道が中心となって取り組み、県民のために今できることを見つめ直している。担当者の一人、福島中央テレビ執行役員報道局長・小形淳一氏に共同キャンペーン実施の狙いとその想いを聞いた。前・後編にわたってお伝えする。

■県内初の全局キャンペーンに発展した「福島to 2021 -あれからと、これからと→」

「2021年は震災から10年の節目。福島にとって大きな意味を持つ」。そう話すのは福島共同キャンペーン「福島to 2021 -あれからと、これからと→」の5局担当者の一人、福島中央テレビ報道局長の小形淳一氏。事の始まりは日本テレビ系列の福島中央テレビとNHK福島放送局の2局の取り組みからだった。2019年1月から先行して同時放送やキャンペーンスポットを実施していたことをきっかけに、福島放送、テレビユー福島、福島テレビも加わることになったという。

小形氏:テレビメディアが一緒になって震災10年に向けて何かできないか。この考え方をベースに2局が始めたことに対して、他の民放3局も賛同してくれ、「我々も参加できないか」と声をかけてくれました。そんな経緯から2局から5局に増え、福島県内のテレビの全局キャンペーンに発展したのです。キャンペーンタイトルの「福島to 2021 -あれからと、これからと→」やテーマはそのまま引き継ぐかたちで、11月から正式に5局キャンペーンとして展開しています。

またキャンペーンの顔として郡山市出身の俳優・西田敏行氏の起用と、福島高校出身のミュージシャン大友良英氏の提供によるキャンペーンスポット楽曲も全局展開に引き継がれている。

小形氏: 故郷を気にかけ、向き合い続けていらっしゃる方々にお願いしました。キャンペーンタイトルの声と題字は西田敏行さんご自身によるもので、快く引き受けてくださり、題字を書いていただく様子も収録して放送しました。大友良英さんとは福島中央テレビの夕方情報ワイド番組『ゴジてれChu!』のテーマソングを手掛けてもらっているご縁。以前から復興にも熱心で「福島のためになれば」と快く新たな楽曲を提供していただきました。福島と縁の深いお2人の起用を継続させてもらっています。

そもそもテレビ局が中心となってこうしたかたちで全局キャンペーンに取り組むのは県内ではこれが初。全国的にみても珍しい試みになる。「テレビでつながる 福島がつながる」というサブタイトルを加えて、局の垣根を越える取り組みに新たな想いも込められた。

小形氏

小形氏:キャンペーンタイトルの「福島to 2021 -あれからと、これからと→」を設定した頃は日本中が東京オリンピックの2020年に向かって盛り上がっていた時でした。しかし、福島にとっては震災から10年の2021年こそが大きな意味を持つという意味で、「1」が目立つデザインにしたのです。サブタイトルの「テレビでつながる 福島がつながる」は福島の全局キャンペーンとなったタイミングに考えたものです。ニュース企画やキャンペーンスポットを通じて、復興に向かう声と表情を伝えることで、県民の心を繋いでいく役割をテレビ局が果たしていこう。テレビにしかできないことをやろう。そんな想いをサブタイトルに込めました。

■夕方ニュースをジャックするコラボ企画は25通りの展開に

共同キャンペーンの柱は2つ。1つは2020年11月11日から放送開始した「5局キャンペーンスポット」(30、60、150秒の3パターン)で、未来に向かってチャレンジを続ける県民のメッセージを映像で紹介している。

公式サイトより(男性アナ30秒)
公式サイトより(女性アナ30秒)

5局それぞれが制作した映像素材を交換し、相互に放送やWeb配信を行いながら、2021年3月11日までに約100人の県民の声を届けていくことを目指す。

小形氏:2局でのキャンペーンで既に約70人を紹介していたこともあり、5局での立ち上がり当初はそれまでのノウハウを共有しながら進めました。その後はそれぞれ役割を分担し、例えば福島テレビは全体のコーディネート役を務めてもらっています。5局10人のキャスターが「テレビでつながる 福島がつながる」をキーワードにメッセージを届けるスポットCMを収録した会場も福島テレビに提供してもらいました。福島放送とテレビユー福島は「被災地のあれからとこれからと」を取材し、1月から各局の夕方ニュースで放送する企画のハンドリングを担います。

2つ目の柱がその夕方ニュースのコラボレーション企画「つながるウイーク」になる。第1弾は各局情報ワイド番組(NHK『はまなかあいづTODAY』/FCT『ゴジてれChu!』/KFB『ふくしまスーパーJチャンネル』/TUF『Nスタふくしま』/FTV『テレポートプラス』)で1月18日(月)から22日(金)まで展開する予定で、この1週間は夕方帯(18時15分~各局によって放送時間は異なる)で自局のみならず、他局のスタジオにも生出演し、それぞれのニュース企画のプレゼンが入り乱れるかたちで披露される。1月だけでも5局それぞれが制作した5つのニュース企画が計5日間で25通りの展開があるということだ。

小形氏:この方式でニュース企画を実施するのは全国で初めてのことになるかもしれません。割り振りは、原発事故直後に避難指示が出されたエリアを10か所に分け、5局が2か所ずつ担当。1月は各局の男性キャスター、2月は女性キャスターが現地を取材し、5~7分のVTRを制作します。それを月曜は自局で放送し、火曜日以降は他局のスタジオに出演してVTRを紹介していきます。例えば、福島中央テレビの緒方太郎キャスターは、月曜日は自局でプレゼンした後、火曜日は福島放送で、水曜日はテレビユー福島で、木曜は福島テレビ、そして金曜はNHKで生プレゼンします。リレー形式ではなく、持ち回って展開するので、他局を迎える場合は「きょうはNHKの〇〇キャスターです」などと呼びこんで、放送することになります。特集の振りや感想の受けは各局それぞれの演出が入りますので、取材の素材が同じでも掛け合いが変わる可能性は大いにあります。生放送ですから、実際にはどのような形になるのか、本番を迎えるまでわかりませんが、これまでに見たことのない放送になるのではないでしょうか。

夕方ニュースをジャックするこの企画は、各局の報道の責任者が集まった場で「話し合っているうちに、誰からともなく出された案だった」という。熾烈な視聴率競争が行われている夕方ニュース枠で敵に塩を送るようなこともあり得るが、反対意見は出なかった。復興の「あれからと、これからと」をどのように伝えるのか、どうしたら伝わるのか。その答えを求めたからだ。そして、5局共同キャンペーンを通じて、テレビ報道を見つめ直すきっかけも芽吹き始めている。後編に続く。

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