福島中央テレビ執行役員報道局長 小形淳一氏

25 JAN

復興報道「あれからと、これからと」、福島ローカル5局共同の新たなチャレンジ〜インタビュー後編

編集部 2021/1/25 09:00

東日本大震災から10年。節目を迎える今、福島のテレビ局が垣根を越えて県民の声を届けるキャンペーン「福島to 2021 -あれからと、これからと→」を展開している。参加するのはNHK福島放送局と民放4局(福島中央テレビ、福島放送、テレビユー福島、福島テレビ)の福島県の地上波テレビ局全5局。各局の報道が中心となって取り組み、県民のために今できることを見つめ直している。担当者の一人、福島中央テレビ執行役員報道局長・小形淳一氏に共同キャンペーン実施の狙いとその想いを聞いた。前・後編にわたってお伝えする。

■キャンペーンの座組を報道力に昇華させていく

「テレビにしかできないことをやろう」と、福島のローカルテレビ局が互いに声を掛け合い始まった福島5局共同キャンペーン「福島to 2021 -あれからと、これからと→」が様々な取り組みにチャレンジしている。県民100人の声を届けるキャンペーンスポットと夕方ニュースをジャックするコラボ企画がそのメインとなる。立ち上がりから携わってきた福島中央テレビ報道局長小形淳一氏はどのような想いで5局共同の取り組みを進めているのだろうか。

小形氏:復興の後押しがキャンペーンに取り組む一番の目的です。その根底にあるのは10年の一区切で終わらせたくない、この先も復興を考えるべきだという思いです。各局個別で取り組むよりも、5局がまとまることで、いろいろなことができるはずです。これからもっと大変なことも起こるかもしれない。だから集まって協力できることはやりましょうという考えが5局で一致しました。共同の復興キャンペーンをきっかけに、福島のためにまだまだ様々な取り組みができるとも思っています。

具体的な取り組み案がさっそく出始めている。新型コロナウィルス感染症拡大の収束が見通せないなか、同時に起こりうる災害報道の枠組みを見直すこともその一つだ。

小形氏:コロナ禍で閉塞感もあり、せめてメディアは元気な存在であろうと心掛けています。県内では2019年の台風19号でも大きな被害を受け、2重被災した方もいるなど、県民を元気づける役割は常にあります。まだ具体的な話には至ってはいませんが、月一回、各局の報道責任者が集まる会で5局共同の災害対応について話し合っているところです。名古屋地区の巨大震災に備えたヘリコプター共同取材モデルは大変参考になるもので、災害が起こった際に代表カメラで共同取材できる覚書を交わすことなどを検討し始めています。共同取材体制が構築できれば、例えば避難所の取材で密を避けることもできます。連携による効率的な取材が県民の命を守ることに繋がっていきます。今進めている共同キャンペーンの座組が強みとなって、報道の力へと昇華させていきたい。そう思っています。

■震災から10年、テレビとネットを活用した復興報道のあり方

テレビ局が中心となって5局共同の取り組みは今回が初。苦労も多かったのではないか。だが、答えは違った。「今のところトラブルもなく、収穫の方が大きい」という。

小形氏:NHKと福島中央テレビの2局だけでキャンペーンに取り組んでいた当初は、商品紹介時に調整が必要になるなど公共放送と民放の違いに直面したこともありました。その経験もあって鍛えられたのか、5局共同となってからそれほど苦労はありません。2020年8月に民放4局の報道責任者が集まって、ざっくばらんに話し合いを始めたことをきっかけに、短期間で仕上がっています。報道における横の繋がりは選挙を通じて元々ノウハウがあったことも助けになったかと思いますが、ニュース企画やライブ配信、ポスター作成などでは5局の編成・広報のチームが情報交換する場を持てるようになり、これは新たな収穫です。3月11日当日は夕方のニュース枠で被災地5か所からリレー中継も行う予定で、技術チーム間のやりとりも始まります。互いに関係性が構築されていくことを期待しています。

前向きな話が続く一方で、復興報道のあり方に対して今、難しさを感じる部分があるようだ。

小形氏

小形氏:県内では日常生活を取り戻した方もいれば、今もなお避難生活を送っている方もいます。そして、故郷を無くした方もいる。時間の経過に伴う状況の違いから、分断のような状況が起こっています。つまり、メディアとしては一方向で伝えきれない問題が生じていると認識しています。それぞれをフォローアップするために、テレビだけでなく、配信やイベントなども活用しながら、福島のこれからを考えていかなければいけないと思っています。

メディアを取り巻く環境が変わり、テレビの在り方そのものにも変化が求められている。テレビ局の今後についての考え方を最後に聞いた。

小形氏:テレビ離れが特に若い世代に広がっていることを実感しています。コロナ禍でそれが顕著になっています。記者会見を同時配信すると、とにかく反応が早い。テレビ放送で見てもらいたいと思うものの、待ってもらえない現実があります。放送まで引っ張らず、出せるものは出すという方針に変化しています。テレビのメディア力が薄まっていると思われないように一生懸命取り組み続けていて、県民の皆さんの期待に応えられるよう(自局の)福島中央テレビでは総合コンテンツ企業を標ぼうしています。いろいろなことに挑戦しないといけない。そのひとつとして、今回の5局共同の取り組みが良い経験値になると思っています。

福島5局キャンペーン「福島to 2021 -あれからと、これからと→」の取り組みは復興報道の役割を担うテレビ局の伝え方から広げ方まで、10年前との変化の気づきを与えてもいる。今、県民のためにローカルテレビ局ができることは何か。全局共通のこの問いに応えながら新たなチャレンジを進めていることがわかった。

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