株式会社フジテレビジョン 編成制作局コンテンツ事業センターコンテンツ事業部部長職 東康之氏

18 JUN

なぜ、フジテレビは海外ビジネスをDX化?~日本のテレビ局初「JET」を始動/前編

編集部 2021/6/18 07:00

フジテレビはDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の一環として、海外ビジネス部門において独自開発した番組販売EC(Eコマース)システム「JET(読み方・ジェット/ 正式名称・Japan Entertainment TV programs market)」の運用を5月17日から開始した。

海外のテレビ局や映像配信プラットフォームの番組バイヤーを対象にインターネット上で番組の下見から購入まで可能にするシステムの導入に踏み切った。日本のテレビ局としては初の試みとなる。コロナ禍を背景に変わりつつある番組コンテンツの国際流通ビジネスの商流に対応したものなのか? システム構築の経緯や今後の計画についてフジテレビの国際ビジネスを担当する、編成制作局コンテンツ事業センターコンテンツ事業部部長職の東康之氏に伺わせてもらった。前後編にわたってお伝えする。

■「コロナ禍が後押ししたと言い切れるものではない」

コロナ禍の影響で海外渡航が困難になったことで、これまで番組の売買が行われてきた全世界の国際見本市が全てオンラインに切り替わっている。新作を並べる商談から契約を結ぶに至るまで、全ての営業活動がインターネット上で行われている現状がある。こうしたなか、JETの開発が進められていったのだろうか?

東氏:具体的に話が進んでいったのは1年ぐらい前です。ただし、実はコロナ禍が後押ししたと言い切れるものではないのです。ちょうど具体化していくタイミングで国際ビジネス部門に配属された私がJETをまとめることになったわけですが、それまで地上波やCS、FODのドラマ制作などに携わるなかで、制作側の目線で理屈抜きに作品がもっと海外に出ていって欲しいと思っていました。2000年代半ばから韓流ドラマのもつ可能性には注目していて、海外進出を目的としたドラマ制作もやってきました。ヨーロッパで原作が大変人気があることから制作した『スイッチガール!!』(CSオリジナル)は日本ドラマではじめてフランスでDVDになりましたし、中国YOUKUと共同製作した『運命から始まる恋』は、日本と中国で同時に配信しました。だからこそ国際ビジネスを進める立場になって、ITを使ってもっともっと海外の方に近く寄り添うことのできるシステムの可能性を感じ、推進すべきだと実感しました。

海外ビジネスを担当するセラー(売り手)は、番組購入を担当する海外のバイヤーと日々メールで連絡を取りながら、海外番販を行っている。こうした地道なアナログ作業を見直すこともJET開発の背景にあった。

東氏:最新のIT技術を使うことで、バイヤーはアマゾンやZOZOTOWNのようなショッピングサイトの利用と同じような感覚で気軽に訪れて、楽しく番組を選ぶことができます。さらにショッピングサイトを利用中に漫画を購入するつもりが、日用品の購入に繋がることもある。こうした脱線から予期せぬ作品と出会いの機会を作り、契約を含めて簡単に番組購入できるシステムを構築しようと、そんな構想から始まりました。

■『東京ラブストーリー』をリアルタイムで知らない若い世代のスタッフも「作品愛」をもって販売できるツールに

システムは、フジ・メディア・ホールディングスのグループ会社であるフジゲームス(本社:東京都江東区/大多亮代表取締役社長)とともにシステム開発された。運用は同じくグループ会社のフジクリエイティブコーポレーション(本社:東京都江東区/前田和也代表取締役社長、以下「FCC」)と共同で海外へのセールスを行っていく。グループ全体で取り組む上でキーワードとなったのは“DX”だった。

東氏:今回、フジテレビは海外ビジネスの分野でDXを進めていきます。「海外ビジネスにおけるDXとは何か?」をとにかく具体的に考えながら、JETの構想を練りました。JETはフジゲームスによるシステム構築になります。運用はこれまで共同で海外セールスを行っていたFCCと進めていきます。JETを海外番販で活用することによって、我々の限られたマンパワーをより効率的に運用することも狙っています。

JETに作品を揃えていくにあたり、準備段階で苦労した点は何だったのか。

東氏:全話放送が終了し海外番販が可能となった最新作品『監察医 朝顔』『ルパンの娘』をはじめ、『教場』や『コンフィデンスマンJP』、かつてアジアでも大ブームを巻き起こした『東京ラブストーリー』や『ロングバケーション』、海外でもリメイクされている『白い巨塔』といった弊社の作品が並び、運用開始時点では作品数は100作品ほど。これまでもセールス用に作品紹介カタログを作成していましたが、JETに並べるために新作から過去作まで全て掘り起こして、基本情報などを地道に入力していきました。今はドラマが中心ですが、今後はバラエティ番組やドキュメンタリーも追加していきます。苦労と言えば、やはり情報の入力作業です。マンパワーが必要で、数もあるだけに正直大変でした。それでも運用を開始し始めると、現場の営業スタッフから「便利ですね」と言われ、喜んでいる様子がわかり、これまでの苦労が報われます。スタッフには『東京ラブストーリー』のことをリアルタイムで知らない若い世代もいます。我々自身もJETを使いながら自局の作品の世界を改めて勉強し、ベテランから若い世代までスタッフ全員、「作品愛」をもってセールスに臨んでいけると考えています。

■運用開始から間もなく国内外から問い合わせの反響あり

JETでは会員登録後、作品トレイラーを自由に下見できる。さらに番組の購入から素材の受け渡し、請求書の発行までシステム上で完結する仕組みになっている。バイヤーとセラー双方の利用メリットについても改めて聞いた。

東氏:バイヤーはジャンルや脚本家、監督別に作品を検索することができます。作品によっては独占契約されているものもあり、放送や配信予定の期間や地域に合わせて実際に購入できるのかJETを操作するなかで自動的に確認することができます。これは我々セラーにとっても便利な機能だと思います。作品ごとに現状の契約内容を確認する手間が省けるからです。言語は英語、中国語(簡体字)を標準装備し、日本語にも対応します。契約作業も機能としてありますが、社によって契約書の仕様が異なる現実もあり、まずは互いに気軽に使うことから始めて、実用しながら同時にビジネス検証していきます。

運用開始から間もないが、どのような反響を得ているのだろうか。

東氏:まずは国内中心にリリースしたところです。海外バイヤーには6月の上海国際映画祭併設マーケットやMIPCHINA(カンヌMIPTV/MIPCOMの中国版マーケット)を皮切りにプロモーションしていきますが、既に国内外から問い合わせが入っています。カンボジアなど取引実績のまだ少ない国や地域からも問い合わせがあり、まずは関心をもらっていると実感しているところです。

好感触のスタートを切っている様子が伝わってきたが、海外ビジネス業務のDX化によって、果たしてどのような新たな商機を生み出すことができるのか。後編に続く。

「JET」公式サイト

フジテレビ、DX時代に海外番販売上3割アップを目指す~JET運用で日本のコンテンツ海外流通の底上げも/後編