株式会社フジテレビジョン 編成制作局コンテンツ事業センターコンテンツ事業部部長職 東康之氏

25 JUN

フジテレビ、DX時代に海外番販売上3割アップを目指す~JET運用で日本のコンテンツ海外流通の底上げも/後編

編集部 2021/6/25 08:00

フジテレビはDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の一環として、海外ビジネス部門において独自開発した番組販売EC(Eコマース)システム「JET(読み方・ジェット/ 正式名称・Japan Entertainment TV programs market)」の運用を5月17日から開始した。

なぜ、フジテレビは海外ビジネスをDX化?~日本のテレビ局初「JET」を始動/前編

海外のテレビ局や映像配信プラットフォームの番組バイヤーを対象にインターネット上で番組の下見から購入まで可能にするシステムとなる。既存の番販ビジネスのIT化はどのような効果が期待できるのか? 前編に続き、今後の計画についてフジテレビの国際ビジネスを担当する、編成制作局コンテンツ事業センターコンテンツ事業部部長職の東康之氏に伺わせてもらった。

映像配信プラットフォーマーと日本のコンテンツホルダーを結ぶ

この5,6年で海外バイヤーの顔ぶれは変わりつつある。NetflixにAmazon、Disney+といったグローバル規模からローカル発まで映像配信プラットフォーム用に番組購入するケースが増加している。JETはこうした映像配信プラットフォーム事業者とのビジネス強化も目的のひとつにある。

東氏:これまであまりお付き合いのなかった地域でも新たな映像配信プラットフォーマーが増えています。こうした事業者ともリメイクや共同製作といったビジネスを見据えて、JETを活用しながらいろいろなバイヤーとコミュニケーションしていくことを考えています。JETでは、会員となったバイヤーに向けて日々アップデートした作品を紹介することができ、一斉メールも可能です。つまり「生きたカタログ」として、より細かなデジタルマーケティングが可能となり、そこに新たな商機があると思っています。例えばそのときの季節やオリンピックなど世界共通のイベント、流行している文化(アニメ原作など)にあわせてドラマを組み合わせてパッケージ提案するなど、日本発のアイデアあふれるシステムとして運用していきたいと考えています。

JET会員の対象は地域に限定されず、全世界のバイヤーへと広げていくのか。また会員を拡大させる計画はどのように進めていくのだろうか。

東氏:JETの会員は人力で集めていく必要があると思っています。我々が今までお付き合いしているアジアを中心としたクライアントに加え、特に新規開拓に力を入れていきたいと考えています。新しい配信会社や、今までお付き合いの少なかった地域の企業などです。実は計画段階では一般コンシューマーもJETのカタログを見られるようにするか検討にあがりました。しかし、最終的には完全に登録制のBtoBに集中し、プロ専用のサイトとして利便性と安全性を追求することにしました。そしてフジテレビだけでなく日本のコンテンツホルダーにもしっかり還元できることを想定し、サイトをデザインしました。

日本の他のテレビ局やアニメ会社、制作会社などさまざまなコンテンツホルダーがJETを活用し、世界中のバイヤーに向けて自らのコンテンツをセールスできる計画もあるという。フジテレビはディストリビューターとしての役割も担っていくということなのか?

東氏:2021年秋を目処に「他のコンテンツホルダーの皆様がセラーとして登録できる機能」をJETに追加する予定です。JETを映像コンテンツの総合ビジネス・プラットフォームとして運営していくことは、設計段階から想定していました。まずは自分たちで運用を検証しながら、販売システムを固め、日本のコンテンツホルダーの皆様に案内していきます。

■海外ビジネスの商流が変わる、売上アップも目指す

海外ビジネスは昨今、日本のテレビ局が注力している分野のひとつだが、海外番販システムのDX化は日本の放送局で初の試みとなった。かねてより独自で新規開拓から国際番組開発まで時に他局より先行しながら積極的に進めてきたことが導入に踏み切った背景にありそうだ。

東氏:そうかもしれません。気がつけば放送業界は成熟産業と言われていますが、まだまだ我々にはベンチャーマインドは残っています。だからこそ、コストがかかるこの新しいシステム構築にも社内からGOが出て、やってみようということになりました。バイヤーにもセラーにも使いやすいものを構築しようと心掛け、若いスタッフも先頭を切って地道に準備を進めてきました。制作から広報まで、海外ビジネスをとりまく社内の風通しの良さもプロジェクトを進める大きな助けとなりました。ただし、他局に先駆けることはそこまで意識していませんでした。むしろチームを組んでいきたいと思っています。結果として、日本の放送局で初のシステム導入となった次第です。

使い勝手の良いシステム構築に加えて、フジテレビの海外セールスの取引規模の拡大も狙いあるのだろうか?

東氏:目標は現状の売上より3割アップ。世界中でIT革命が起こり、新たな映像配信事業者が立ち上がっていますが、我々は今、世界中の配信事業者の状況を改めてリストアップしています。JETを使いながらそれらを開拓していくことで売上は必ず上がっていくと信じています。このシステムの一番の特性は、「一度使ってもらったら、手離せなくなる」こと。世界中のバイヤーの皆様に、はやくこの便利さを体験していただきたいです。

一方、商談の場を提供する既存の国際見本市にはJETのようなDXシステムは打撃を受ける可能性も否めない。どう考えているのだろうか?

東氏:今は海外渡航が難しく、フィジカルなマーケットは開催されていません。そのためオンライン上で商談が進められているわけですが、何度もお会いしたことのあるバイヤーとはオンラインでもそう支障はありません。しかし、初めてお会いするバイヤーとの商談は、オンラインだけだと正直、がっちりと心を掴むまでは難しいと感じています。そんな時にJETがあれば、こまめにかつ継続的に情報をお伝えすることができ、オンラインにおける不足を補うことができるんじゃないかと。今まで通りの人間同士のコミュニケーションに、この便利なJETというツールを媒介させることは、我々の国際ビジネスの商流を変えるものになっていくと思っています。プロモーションからマーケティング戦略、顧客管理、素材転送もJETの中で一気通貫できることはバイヤーにもセラーにもメリットがあるのではないでしょうか。

■「ビジネスのやり方が変わることにDXの本質がある」

市場の変化と共にJET利用の可能性はDXを体現していくものになっていくのか?

東氏:当面はシンプルに海外番販をベースに、審査の上でバイヤー登録を増やしていきます。並行して、ラインナップする作品数を増やしていく地道な作業も続けていきます。これらがリメイクする上でのカタログ替わりにもなり、バラエティー番組のフォーマットを検証する舞台にもなり、共同開発のきっかけになっていく、そんな発展的な利用を進めてまいります。ITを使いながらビジネスのやり方が変わることに、DXの本質があります。アフターコロナに見据えて作りましたので、JETは平時の時こそ活かせるものだと思います。JETを使いながら既存のビジネスの流れを変革していくことは、まさに我々の理想の海外ビジネスのモデルの追求でもあるわけです。

日本のコンテンツ全体がもっと海外に売れていく理想のビジネスモデルとも言えそうか?

東氏:手離せないシステムになっていくと自負しています。人間力によるコミュニケーションによって番組販売を進めることはもちろん基本ですが、その土台としてJETは日々アップデートされる「生きたカタログ」になります。そして商談のやりとりや購買履歴をデータで残すことができ、実際の担当以外も確認できる。さらには素材の転送もできる。これはバイヤー・セラーのだれもが実感できる便利な機能です。またスタープレイヤーはいつの時代も存在するし、我々全員もそれを目指していますが(笑)、現実的に異動などもあるなかで、ビジネスの知識や経験が属人化しすぎないで、チームできちんと継承できるようにすることはビジネスのクオリティーを維持する上で大事なことだと思います。JETはそれを可能にするし、この新しいビジネススタイルはセラー側の体制の根本を変えるものになっていくと思います。結果、国内のコンテンツ産業をさらに盛り上げ、日本のコンテンツホルダーが一丸となって世界に出ていく一助となれば、と考えています。

ビジネススタイルを見直し、世界の隅々まで日本の番組が簡単に届くような新しいビジネススタイルを創造することがJETの狙いという。一歩を踏み出したことによって、大きな変化が起こることに期待したい。

「JET」公式サイト