テレビ岩手・丸谷尚史氏 山口放送・弘田由香氏

24 SEP

ローカル発ドキュメンタリーの海外展開の実態~中国MIPChina2021フォローアップレポート前編・テレビ岩手/山口放送

編集部 2021/9/24 09:00

メディア環境の変化やコロナ禍を背景に、放送コンテンツの海外展開は今どのような影響を受けているのか。民放連を中心に組織する国際ドラマフェスティバルが取りまとめ参加局数が計13社に上った2021年6月開催の中国オンライン国際ミーティングイベント「MIP China(ミップチャイナ)」を事例に、参加局の北海道放送、テレビ岩手、CBCテレビ、山口放送の4社の協力を得て、話を伺わせてもらった。中国をはじめとする海外バイヤーとどのような商談が進められたのか。今、世界に求められるローカル発コンテンツとは何か。ローカル放送コンテンツの海外展開の実態を前後編にわたってレポートする。

■MIP China初参加の北海道放送、テレビ岩手、CBCテレビ、山口放送

中国オンライン国際ミーティングイベント「MIP China(ミップチャイナ)」は世界最大級の国際映像コンテンツ見本市MIPTV/MIPCOMを主催するフランスのRXフランス社(旧リードミデム社)が今年6月28日~30日の3日間にわたり開催したもので、中国浙江省杭州市内を拠点とした中国地域専門イベントとして5回目の開催を迎えた。今年は日本から過去最多の参加社を集め、計24社がオンラインで参加した。その内、民放連を中心に組織する国際ドラマフェスティバルがとりまとめた参加社数は計13社に上った。キー局、準キー局からは過去にMIP China参加実績局が含まれる日本テレビ、テレビ朝日、テレビ東京、フジテレビ/フジクリエイティブコーポレーション、讀賣テレビ/読売テレビエンタープライズ、ABCフロンティア、毎日放送、関西テレビが参加し、ローカル局からは北海道放送、テレビ岩手、CBCテレビ、山口放送の4局がMIP China初参加となった。

MIP Chinaのメインイベントは1to1(ワン・トゥオー・ワン)ミーティングと呼ぶ商談会であり、RXフランス社独自開発のマッチングシステムによって事前に組まれた商談相手とミーティングの機会を得る。主催側が完全サポートするため、商談を行うために最も苦労するアポ取りの手間が省け、ミーティング日程のリマインドメールなどによってNo Show(連絡もなく、商談テーブルに現れないことを指す)を防ぐ対応も行われたことがわかった。中国をはじめ、東南アジア、欧米、中東地域の約150人のバイヤーに対し、取引する放送コンテンツに合わせて希望に沿った相手と3日間で組まれた商談数は合計平均15件ほど。MIP China初参加の北海道放送、テレビ岩手、CBCテレビ、山口放送の4局それぞれにオンライン商談の実態を聞いた。

まずは海外展開後発組のテレビ岩手と山口放送のケースから紹介する。

【テレビ岩手のケース】

MIP China2021商談会に参加したのは2014年から海外セールス担当を兼務するテレビ岩手報道制作局制作部兼コンテンツ戦略室担当部長の丸谷尚史氏。テレビ岩手の海外展開そのものも2014年開催の東京TIFFCOM参加出展から始まる。これまで香港フィルマートやシンガポールATFなどに出展実績があり、オンライン開催となった2020年、2021年開催の各海外コンテンツマーケットにも積極的に出展、出品参加している。総務省による放送コンテンツ海外展開助成事業を含めたテレビ岩手の海外展開実績の詳細はウェブ上に公開されている。

世界に発信!~テレビ岩手の海外展開~

テレビ岩手制作部兼コンテンツ戦略室の丸谷尚史氏

今回、MIP China2021への参加は主催のRXフランス社からテレビ岩手制作のドキュメンタリー映画『たゆたえども沈まず』のオンライン特別上映依頼を受けたことがきっかけとなった。本作は東日本大震災から10年を迎えた今年、被災地のテレビ岩手が取材・撮影した1850時間に及ぶ映像をもとに制作されたもので、今年3月から国内で劇場公開されている。海外での上映はこれが初。MIP Chinaを後援し、文化芸術を推進する杭州市の都市政策の一環で中国語字幕付与の支援を受け、来年3月まで長期にわたり視聴可能となっている。

テレビ岩手制作ドキュメンタリー映画『たゆたえども沈まず』

具体的な反応はまだ得られていないというが、丸谷氏は「新規15組と直接商談を行うことができ、上映会を通じて海外バイヤーの方に作品に触れてもらう貴重な機会をいただいた」と話す。これを皮切りに、海外の映画祭への出品に力を入れていく。

【山口放送のケース】

2017年から海外セールス担当する山口放送東京支社編成業務部の弘田由香氏がMIP China2021商談会に参加した。山口放送としては2015年開催の東京TIFFCOMに参加出展したことを皮切りに海外展開に取り組む。これまでカンヌMIPCOMや香港フィルマートなどに出展実績がある。また総務省による放送コンテンツ海外展開助成事業にも取り組み、スイス、台湾との共同制作番組を手掛ける。

山口放送東京支社編成業務部の弘田由香氏

今回の商談会においてセールスを行った作品は主に2つ。ある夫婦と彼らを支える家族の姿を25年にわたり追いかけた受賞歴のあるドキュメンタリー映画『ふたりの桃源郷』と、山口県の祭りを追ったドキュメンタリー番組『日本の祭り』(3話)。後者の番組はBEAJ(放送コンテンツ海外展開促進機構)の支援企画により海外のプロダクションが制作したトレーラーを用意したところ、反応を得たという。「説明部分を最小限に抑え、強弱のある映像と音楽だけでインパクトのあるトレーラーに仕上がりました。日本の地方に住む人々の様子が映像だけで伝わるようで、これまで以上に海外バイヤーから興味を持ってもらうことが増えました」と弘田氏は説明する。

山口放送制作ドキュメンタリー映画『ふたりの桃源郷』
山口放送制作ドキュメンタリー番組『日本の祭り』

【動画】山口放送制作ドキュメンタリー番組『日本の祭り』海外セールス向けトレーラー:ジャパン・プログラムカタログ C21Screenings

またオンライン商談そのものについて弘田氏は「効率の良さ」がメリットにある一方で、「関係性を築くための雑談がしにくい」「一回で済むような商談も、商談後にフォローのメールが欠かせない」といった感想を寄せた。他局もおおむね同様の意見だった。今回、MIP China2021商談会中、オンライン上で動画の画面共有ができなかったことで、「不便さを感じた」という意見もあった。

オンラインの場合は出展料や渡航費のコスト削減を大きく見込めるものの、契約に至るまでの過程は海外セールスの経験値や実績が左右されるように思える。後編は放送コンテンツの海外展開のノウハウを10年にわたり積んできた北海道放送とCBCテレビのケースと共に今後のローカル局における海外展開の課題についてお伝えする。