北海道放送・田中正人氏 CBCテレビ・五十嵐ファヨン氏

29 SEP

海外展開10年のノウハウを活かしたローカル局の中国進出~中国MIPChina2021フォローアップレポート後編・北海道放送/CBCテレビ

編集部 2021/9/29 08:00

メディア環境の変化やコロナ禍を背景に、放送コンテンツの海外展開は今どのような影響を受けているのか。民放連を中心に組織する国際ドラマフェスティバルが取りまとめ参加局数が計13社に上った2021年6月開催の中国オンライン国際ミーティングイベント「MIP China(ミップチャイナ)」を事例に、参加局の北海道放送、テレビ岩手、CBCテレビ、山口放送の4社の協力を得て、話を伺わせてもらった。中国をはじめとする海外バイヤーとどのような商談が進められたのか。今、世界に求められるローカル発コンテンツとは何か。前編に続き、ローカル放送コンテンツの海外展開の実態と課題をレポートする。

【前編】ローカル発ドキュメンタリーの海外展開の実態

■ローカル局から海外展開の成功例を生み出す北海道放送とCBCテレビ

世界最大級の国際映像コンテンツ見本市MIPTV/MIPCOMを主催するフランスのRXフランス社(旧リードミデム社)が今年6月28日~30日の3日間にわたりハイブリッド形式で開催したMIP Chinaに参加した北海道放送、テレビ岩手、CBCテレビ、山口放送の4局はいずれもMIP China初参加となった。前編で紹介した海外展開後発組のテレビ岩手と山口放送のケースに続き、約10年にわたり海外展開のノウハウを積む北海道放送とCBCテレビについて紹介する。

【北海道放送のケース】

北海道放送の海外セールス実績の代表例は農業をテーマにした教養番組『あぐり王国北海道』である。2013年から海外セールスを開始し、2014年1月から現在まで香港の公共テレビ局RTHK(Radio Television Hong Kong)でレギュラー放送が続く。ローカル局の海外展開を語る上で欠かせない成功例でもある。

北海道放送制作番組「あぐり王国北海道」
北海道放送メディア戦略局ライツ・コンテンツ部の田中正人氏

今回、MIP China2021商談会には2012年から海外セールスを担当する北海道放送メディア戦略局ライツ・コンテンツ部の田中正人氏が参加し、料理トラベルショー『Traveling Chef』(全4話)を目玉に商談を行った。同番組は総務省による放送コンテンツ海外展開助成事業(2018年度、2019年度)でフランスのテレビ局と共同制作したものになる。既に販売状況は好調で、イタリア、ロシア、カナダ、メキシコなど20の国と地域でセールスされているヒットコンテンツと呼べるもの。田中氏は「新たに南米の国からもオファーをいただいています。中国本土ではまだ売れていないため、MIP Chinaの商談会に参加しました。19件の商談のうち、中国5件とミーティングを行い、現在1件と継続交渉中です」と説明する。

北海道放送がフランスと共同制作した料理トラベルショー「Traveling Chef」
番組「Traveling Chef」のワンシーン

【CBCテレビのケース】

これまで約20の国と地域と販売実績のあるCBCテレビは今回、中国市場への参入をミッションにMIP China2021商談会に参加した。商談に臨んだ海外セールス担当歴10年になるCBCテレビ国際共同制作プロデューサーの五十嵐ファヨン氏は「コンテンツマーケットで中国相手と商談までたどり着くまでハードルは高いと感じています。この5年、商談を申し込んでも反応がない状態でした。予算内で参加できるオンライン商談のMIP Chinaは中国進出のトリガーになると思い、参加した次第です」と説明する。

CBCテレビ国際共同制作プロデューサーの五十嵐ファヨン氏

持ち込んだメインの番組は、総務省助成事業により日本の食と文化をテーマにしたイタリアと共同制作したドキュメンタリー番組『Japanese Dairy』(全6話)や現在国内で放送中の健康番組『健康カプセル!ゲンキの時間』など。『健康カプセル!』はCBCテレビの海外セールス番組で最も実績のある番組という。

CBCテレビがイタリアと共同制作したドキュメンタリー番組「Japanese Dairy」
CBCテレビ制作「健康カプセル!ゲンキの時間」

今回、4局に話を聞くなかで、ほぼ共通して大きなダメージを受けているのがインフライト向けセールスであることもわかった。単発番組から販売可能なインフライトセールスはローカル局の海外番組販売において欠かせないものであるがゆえに、売上への影響は大きい。北海道放送の田中氏はコロナ禍の影響としてコンテンツそのものも不足していることを指摘し、「全国共通して今はVTRものを制作しにくい現状があり、その影響を受けてHBCも海外セールス用のロットの多い新作がほぼない苦しい状況です」と話す。

課題はこのほかにも慢性的な人材不足も挙げられる。セールス担当は1人ないし2人ほど。これまで報道部や編成部、制作部と兼務しながら担当してきたテレビ岩手丸谷氏は「ここ数年は総務省事業案件と番組販売の両方を担当していくなかで、マーケットの参加は調整が必要です。海外売上が500万円を超える規模になると、専任が必要だと感じることも多い」と話す。一方、CBCテレビの五十嵐氏は海外セールス業務を専任するなかで、「制作段階から仕込むことで、プラスアルファの経費は私ひとりの人件費と考えることもできます。売れば売るほど、その分は利益になります」と考える。

最後に4局それぞれにローカル局における今後の海外展開の可能性を尋ねた。

山口放送・弘田氏今はまだ自分たちの身の丈にあった展開から始めていこうという段階です。今後、マネタイズを具体化し、山口県のブランディングにも繋げ、国を越えても伝わるであろう『ふたりの桃源郷』を制作したディレクターの想いも届けていきたいと思っています。

テレビ岩手・丸谷氏実績を先行させないと続ける意味はないと思うなかで、10年後を見据えて取り組んでもいます。例えば「南部鉄器」を海外に販売促進することと、番組を販売することがもっとリンクする時代は近い将来必ずや来るはず。トライアンドエラーを繰り返しながら、プラス材料を一つでも二つでも増やしていくことを目標に進めています。

CBCテレビ・五十嵐氏テレビだけで育っていない次世代の視聴者を考える上で、海外展開は風通しを良くするものになると思っています。現場の制作者の視点が変わる可能性があるからです。CBCの優秀な制作者たちもコンテンツが海外に出ることを願っています。

北海道放送・田中氏民民取引で番組が海外販売され、北海道を舞台にした番組が社会貢献や経済発展に繋がることが理想のかたちです。「あぐり王国北海道」の番組MCが札幌市内を観光中の中国の旅行者から声をかけられることがあるのは香港で長期的に放送されているからです。効率の良い地域プロモーションとして、行政サポートの継続を検討して欲しいと思っています。

なお、テレビ岩手、山口放送、北海道放送、CBCテレビの4局共に6月開催のMIP China2021で商談された番組コンテンツは現在も継続交渉中である。今後、カンヌMIPCOMや東京TIFFCOM、シンガポールATF、香港フィルマートなどで継続的に商談し、契約成立を目指す。メディア環境の変化やコロナ禍によって、ローカル局の海外展開への取り組みはこれまで以上に厳しい状況にあるが、これまでの知見を活かしながら今後を見据えた取り組みは確かに続いている。

【前編】ローカル発ドキュメンタリーの海外展開の実態