TBS 海外事業開発部所属の西橋文規氏

18 FEB

TBS海外ビジネスデベロップメント担当者に聞く、世界基準のコンテンツビジネスとは?(後編)

編集部 2022/2/18 09:00

1950年代から海外番組販売に取り組んできたTBSグループがコンテンツ拡張戦略「EDGE(=Expand Digital Global Experience)」を推進するプランを策定するなかで、「海外市場」を最重要領域の1つに設定している。アメリカや韓国との協業を広げ、制作予算規模300億円の「海外戦略の新会社」設立に向けて準備も進めている。なぜ今、TBSは世界基準のコンテンツビジネス展開を強化しているのだろうか。前編に続き、20年以上にわたり海外コンテンツビジネスに携わる海外事業開発部所属の西橋文規氏に現状を聞いた。

■1300人のクリエイターの制作力、企画力、クリエイティビティを世界に売る

TBSは昨年11月、中期経営計画「TBSグループVISION 2030」達成に向けてコンテンツ拡張戦略「EDGE(=Expand Digital Global Experience)」を推進する具体的施策を発表し、最重要領域の1つに「海外市場」を挙げた。グローバル市場をターゲットとした様々な映像コンテンツビジネスプロジェクトが既に動き出している。

【関連記事】TBS、300億円規模の制作費予算を携えて「海外戦略の新会社」を設立

2021年3月に発表したアメリカの有力プロダクションと組み、バラエティフォーマットを共同開発するプロジェクトはその一例にある。声を掛けた海外パートナーはカラオケ勝ち抜きバトル番組『ザ・マスクド・シンガー』アメリカ版を手掛けたプロデューサーで、元NBC、現在は自身の制作会社Smart Dog Mediaを率いるクレイグ・プレスティス氏。なぜプレスティス氏だったのかと言うと、アジア発の番組フォーマットを世界的に成功させる事例を作り出した人物の1人だからだ。『ザ・マスクド・シンガー』のオリジナルは韓国MBSで制作されたもの。それをプレスティス氏がアメリカ仕様の演出を加えてアメリカ版を制作し、米4大ネットワークFOXで大成功させた。このほかにも『I Can See Your Voice』など韓国の番組フォーマットをもとに、世界的にヒットさせた番組は多い。

西橋文規氏

バラエティフォーマットセールスの経験もある海外事業開発部所属の西橋文規氏もプロジェクトチームの一員として参加し、共同開発が進められているという。

「TBSは『SASUKE』など海外実績のあるバラエティ番組がありますが、開発段階から海外に向けて制作する試みは今回が初。これからはTBSグループが抱える1300人のクリエイターの制作力、企画力、クリエイティビティを世界に売っていきます。クレイグさんを中心に特別なプロジェクトチームを組み、これまでにない世界基準の新しい企画開発を進めているところ。具体的な内容をこれから発表していく予定です」と、西橋氏が説明する。

■国もジャンルもこだわらず、様々な国際プロジェクトを仕込む背景とは?

またTBSは2021年6月には韓国の最大手総合エンターテイメント企業CJ ENM(シージェイ・イーエヌエム)と、番組の共同制作を含む戦略的パートナーシップ協定を締結することで合意した。CJ ENMはカンヌ国際映画祭で最高賞であるパルム・ドール賞や、米アカデミー賞授賞式で作品賞を含む4部門を受賞した映画『パラサイト 半地下の家族』の投資・配給社で、グループ企業の制作会社スタジオドラゴンはNetflixで2020年に日本で最も話題になったドラマ『愛の不時着』を手掛けるなど、ヒットメーカーとして知られる。そんなCJ ENMとの強力タッグで映画やドラマ、バラエティやアニメ、電子漫画、ポップミュージック、イベント、商品化など、それぞれの得意分野で協業していく計画だ。

【関連記事】TBSと韓国エンターテイメントグループCJ ENMが戦略的パートナーシップ協定で合意

このほかにもインド最大のエンタメ企業Zee Entertainmentとドキュメンタリーシリーズの共同制作を計画する。国別では中国、インドネシア、フランス、ドイツ、カナダなどとも話し合いを進めているという。国もジャンルもこだわらず、様々なプロジェクトを仕込んでいる。

【関連記事】TBS、インドNo.1のエンターテインメント放送事業社と協定を締結 海外エンタメビジネスを加速

TBSはEDGE戦略をもとに、急速に海外企業とのビジネスデベロップメントを広げているが、国際番組コンテンツ市場全体からみると、決して珍しいことではない。映像コンテンツビジネスが多様化していくなかで、国際間の連携案件は増えている。

そこで、業界のビジネストレンドに精通することも求められる。西橋氏はテレビの番組フォーマットを知的財産として法的に保護する役割を担う、オランダ拠点の国際業界団体FRAPAで日本人唯一の理事も務める。なお、FRAPAはテレビプロデューサーのフィリップ・グリン氏らコチェアマン以下、4人のマネージメントボードメントと、7人の欧米人、西橋氏を含めた2人のアジア人の計9人のアドバイザリーボードメンバーで構成されている。

「10年ぐらい前は日本もフォーマットビジネスにおいてアジアをけん引していましたが、今はいろいろなジャンルで韓国のエンターテインメントも人気を博しています。また中国やタイも海外セールスを伸ばしています。さらに、配信プラットフォーマーがフォーマットビジネスに入り込んでいます。変化は激しく、予測が立てにくい現状です。だからこそ、日本もこうしたコミュニティに入り、日本市場の国際交流がさらに活発化していく一助を担えればと、オファーを受けた経緯があります」。

コンテンツビジネスマーケットのエキスパートの人材は各国企業と新たな取引を交わす上で役立つ。世界基準のコンテンツビジネスが続々と成立されている背景の1つにありそうだ。

■グローバルヒットを目指すプロダクション及び新スタジオ設立へ

さらにTBSグループはEDGE戦略の具現化において新たなステージに進む。世界市場、世界品質を見据えて300億円規模の制作費予算を運用する「海外戦略の新会社」を設立することを2021年11月に発表した。2022年3月にTBSホールディングス100%子会社として本格稼働する。また日本最大級の約300坪規模の世界標準に対応する「新スタジオ」の建設も計画する。“制作実働部隊を持たない”コンテンツ・プロデューサーおよびIP管理部隊を備え、グローバルパートナーやプラットフォームのニーズに応えるハイエンド・ドラマをはじめとした様々なコンテンツの企画開発、プロデュースをしていく予定だ。

海外市場からの注目度は高い。イギリス最大手の業界誌C21をはじめとする各海外ニュースメディアがいち早く報じ、TBSホールディングス菅井龍夫取締役(TBSテレビ専務)が抱負を語った「新制作会社とハイスペックなスタジオなどにより、日本発の良質なコンテンツ制作をさらに加速させ、世界中の人々に喜びの瞬間を生み出していきます」というコメント文も添えられていた。

「海外も市場の1つとして捉えるべき時に来ていると思います。海外は“ファンクション=機能”ではなく、“市場”の1つと捉えることによって、可能性が広がっていくものだと信じています。20年以上にわたりテレビの業界でドラマやバラエティ、アニメの海外コンテンツビジネスに携わってきましたが、広告ビジネスの時代がこの先も安泰であるかは不確かななかで、コンテンツで勝負することが今まで以上に求められています」(西橋氏)

今回、話を聞いたのは海外ビジネスデベロップメントの役割を担う担当者の1人の声だが、グローバルパートナーとの連携から、グローバル展開を念頭に置いた新たなプロダクションの設立に向けた動きも始まり、TBSグループ全体で本気度が高まりつつあるようにみえる。

TBS海外ビジネスデベロップメント担当者に聞く、グローバル展開体制強化の意図(前編)