JT米山文子氏、 インテージ深田航志氏

13 APR

企業がスポーツ協賛に感じる“効果”とは? インテージ×JT担当者対談

編集部 2022/4/13 09:00

プロ野球チームがスポンサー企業を冠した名前で親しまれ、ユニフォームにプリントされた企業ロゴが試合中継でクローズアップされるように、プロスポーツにおける企業協賛はチームの認知や企業のブランド認知に大きな役割を果たしてきた。その一方、これらを広告活動としてみた場合の効果測定は難しく、費用対効果という面でその意義を説明しづらい面があった。

eスポーツなどの新たな種目やリーグの誕生に加え、ネット配信などスポーツ観戦の場が拡大する昨今、企業はスポーツ協賛にどのような価値を見いだしているのか。広告主、広告代理店側はどのような形で効果測定を試みているのか。本記事では、インテージ 事業開発本部・深田航志氏と、JT(日本たばこ産業株式会社) PR部 メディア担当・米山文子氏が対談をお送りする。

■スポーツに協賛し続けることで、崩れないブランドイメージが積み上がる

深田氏:2021年9月、インテージでは関東圏の5,124名を対象に、テレビとスポーツに関するウェブ調査を実施しました。この結果によると、20代男性は無料系のコンテンツを通じて、50〜60代の男性はテレビを通じてそれぞれスポーツを観戦している傾向が高いことがわかりました。全体的に見ても、スポーツは女性よりも男性に多く見られています。

テレビで視聴したスポーツを年代別に見ると、ゴルフは60代が非常に多いという結果になりました。一方、バレーボールについては、セミプロバレーリーグである「V.LEAGUE」の人気が高まっていることを反映してか、女性を中心に若年層のスコアが高くなりました。

深田氏:スポーツチームにおける企業ブランド認知度(純粋想起)も見てみましょう。ゴルフはゴルフメーカーのブランドが上位を占める一方、エクストリームスポーツ(スケボー、サーフィン、BMXなど)に関しては、レッドブルやコカ・コーラなどの名前が目立ちます。1位と2位の差が大きく開いている点も見逃せません。

深田氏:スポーツチームにおける企業ブランド認知度(純粋想起)も見てみましょう。ゴルフはゴルフメーカーのブランドが上位を占める一方、エクストリームスポーツ(スケボー、サーフィン、BMXなど)に関しては、レッドブルやコカ・コーラなどの名前が目立ちます。1位と2位の差が大きく開いている点も見逃せません。

米山氏:セ・パ交流戦に協賛する日本生命さんなど、スポーツ協賛に長く取り組む企業の認知が高い点はうなずけます。箱根駅伝の協賛でおなじみのサッポロビールさんについては、自社商品の訴求だけでなく、企業イメージそのものをPRしている点も興味深いところです。コカ・コーラさんはオリンピックのスポンサーをされていましたが、全般的にスポーツ選手を活用したブランドイメージの作り方が非常に上手だと感じます。

ラグビーワールドカップに協賛する大正製薬さんも注目です。看板ブランドである「リポビタンD」を冠にすることによって、結果的に企業イメージそのものの向上にもつながっている、非常に巧い例だと思います。

深田氏:企業名のみの場合、ラグビーに直結するイメージがあまりありませんでしたが、「リポビタンD」はラグビーが持つ力強さイメージとも親和性があって、想起しやすくなりますね。そうした展開が今回の調査結果にも表れています。

米山氏:こうしたイメージの定着は、長く協賛し続けている企業だからこそ。1年やそこらで、どうにかなるというものではないと思います。裏を返すと、長く協賛することによってイメージが蓄積されるわけで、認知が増すことはあっても、減ることはないというメリットを裏付けていますね。

■スポーツの価値を“一緒になって最大化する”ことが、協賛スポンサーの役目

深田氏: JTさんが協賛されている将棋のプロ公式戦に話題を移しましょう。卓上のスポーツとして長い歴史を持つ将棋ですが、最近は竜王・藤井聡太さんの活躍とともに、これまで以上に幅広い層から注目を集めています。

将棋の対戦は非常に長時間であり、丸1〜2日にわたって行われることも珍しくありません。長い時間ロゴが露出するため、ブランドPRの場としては非常に価値が高く、対局の合間にとる「将棋メシ」を通じて食品スポンサーが入りやすい土壌にあります。

米山氏:ある意味、将棋はeスポーツにも通じるものがありますね。従来はメディアに取り上げられることが少なかったのですが、藤井さんの活躍によってメディアのプレゼンスが高まり、将棋のファン層も大きく広がりました。

深田氏:最近は、自身で将棋をささず、将棋の試合を見て楽しむことに特化した「観る将」という新たなファン層があるそうですね。

米山氏:インターネットテレビ局・ABEMAでも将棋の専門チャンネルが開設されており、将棋を見る環境が増えたことにより、見ることに対してモチベーションを持つ層が増えてきました。昔は将棋ファンといえば年齢層の高いイメージでしたが、いまは比較的若い方や、女性の方々の観戦も多いと聞きます。

深田氏:棋士の方をきっかけに、将棋に興味を持つ方も多いですね。

米山氏:豊島将之・九段は女性ファンも多くいらっしいますし、渡辺明・名人はSNSを活用してファンとのコミュニケーションを活発に行っています。棋士のみなさんが直接発信できる場所が増えてきたことも、この人気を支えているように思います。

深田氏:JTさんは将棋のプロ公式戦に長らく協賛されていますが、協賛の目的としてはどのようなことを考えていらっしゃるのでしょうか。

米山氏:協賛スポンサーの醍醐味は、スポーツ団体とともにお互い盛り上げていける場所を作っていけることにあると思います。将棋の場合も、棋士のみなさんをふくめ、どのように将棋を魅力的な競技にしていくかを考えることも、スポンサーの役目ではないでしょうか。

深田氏:スポンサーも一緒になって、ファンを作っているのですね。

米山氏:JTでは、将棋連盟をはじめとした主催者と一緒に、より将棋の魅力が伝わるような企画を考えるほか、一般公開の対局を無料開催して、リアルに棋士のみなさんの戦いに触れられる場を設けています。また、こうした取り組みの広告を自社で行い、見たい方へ将棋をお届けできるよう、スポンサーとしてのフォローも行っています。

■企業イメージ浸透のためには、テレビ中継によるマス訴求は非常に重要

深田氏:スポーツのスポンサー企業に感じるイメージを調査したところ、「その企業を大有名だと感じる」「信頼が高まる」といったポジティブなイメージは、年代別に見ると男性や高年齢層に多く、「応援したくなる」「商品を購入したくなる」というイメージは若い世代に高いことがわかりました。ロゴ露出による商品やブランドへの親近感の醸成という面に、協賛スポンサーの価値が発揮されていることがわかります。

米山氏:JTの場合、たばこ商品の広告活動が制限されていることもあり、「JT」がどのような会社なのか知らない方も多くいらっしゃいます。スポーツ協賛においては、「JT」という企業を知っていただく機会と捉えており、JTがたばこ事業だけでなく、幅広い事業を行っていることや、JTがどのような社会を目指しているのかを知っていただく方法として、非常に有意義であると考えています。

深田氏:少し気になる話題もあります。2022年の女子ゴルフツアーでは賞金額が過去最大規模になるなど、盛り上がりを見せていますが、その一方で、試合中継を行うメディアに対して(来シーズンから)放送権料を徴収する動きも起こり始めました。テレビ局に対する放送権料の価格交渉がうまく行かなければ、中継からの撤退も考えられ、ロゴ露出の減少による広告価値の低下も懸念されます。

米山氏:放送権料の行方は、私たちも気になっている部分です。最近はYouTubeなどを通じた試合中継も増え、若年層のなかでもゴルフの試合を見る流れが生まれていただけに、ここへ来て、ふたたびファン層に変化が生じてしまうのではないかと心配しています。

スポンサーとしては、ロゴを目にしていただき、そのスポーツとブランドを結びつけて認知していただくことに価値を見いだしています。多くの方々に見ていただき、ゴルフの裾野を広げるという趣旨で協賛している以上、一部の限られたターゲットではなく、幅広い方々に見ていただきたいというのが正直な気持ちです。そういった意味でも、テレビ中継の存在は非常に重要だと考えます。

■「AI画像解析×視聴データ」でロゴ露出の具体的な広告効果を可視化

深田氏:企業イメージの醸成という面で非常に大きな役割を発揮するスポーツ協賛ですが、ロゴ露出の具体的な効果を算出することができれば、その費用対効果を定量的に評価できるかもしれません。

インテージでは、テレビのスポーツ中継における協賛企業のロゴ露出をAIで自動追尾し、露出効果を可視化するソリューション「SEEC(シーク)」を開発しました。画面中におけるロゴの露出面積を可視化できるほか、視聴データをはじめとするさまざまなメディアデータと連携させることにより、具体的にリーチした層を毎秒単位で見ることが可能です。

この仕組みを活用すれば、今後はロゴ露出に対するCPM(費用対効果)単位で見ることができ、協賛の効果を、より透明性をもったかたちで検証することができます。

米山氏:これまでロゴ露出の効果は感覚的なものさしに頼ってきましたが、このように具体的な広告効果を算出できると、上層部やステークホルダーに対しても、「ロゴ露出によってこれだけのファンを獲得できる」という強力な説得材料になります。

深田氏:媒体価格からパブリシティ換算額を算出したり、調査会社に依頼してブランドリフト率を調査するといった方法もこれまでにはありましたが、大規模な予算を必要としたりと、調査そのものがコストに見合わない場合が大半であったと思います。「SEEC」によって、これまで難しかった効果測定が手軽なものとなり、スポーツ協賛に対する費用対効果がより明確にできるのではないかと期待しています。

米山氏:協賛そのものには社会的な使命もあり、費用対効果そのものが協賛の継続可否に直結するものとは限りませんが、事業会社である以上、指標としての費用対効果は出して行かなければならないと感じていました。こうした仕組みがあれば、より戦略的に協賛活動を行っていくことが可能となるでしょう。小口スポンサーから大口スポンサー、ナショナルスポーツから地域スポーツまで、幅広く適用できそうですね。

■ファンとスポンサーが“シンクロ”して盛り上げる、これからの協賛

深田氏:スポーツ協賛企業はロゴ露出や冠協賛によって露出の権利を獲得し、知名度のアップや商品購買の促進、企業やブランドに対する親近感といった“対価”を得るというものでしたが、最近はさらに広い価値が見いだされているように思います。

米山氏:スポーツ全体において、これまで以上にファンとプレーヤーの距離が近くなったように、ファンとスポンサーの距離も近くなったと感じます。

深田氏:「V.LEAGUE」ではアプリを駆使してファン投票を実施するなど、ファンとプレーヤーを近づける試みが行われていますね。とくに、スポンサー名が冠されているチーム名など、応援したいファンの気持ちとスポンサー企業の方向性がうまくシンクロしていると感じられる事例を多く見受けるようになりました。

米山氏:スポーツ団体とファンのみなさん、そしてスポンサーがひとつの円のなかでともにプレーヤーを応援しあう、理想的な関係性が育まれていると感じます。

深田氏:ファンと距離が近くなれば、よりスポーツも盛り上がりますね。

米山氏:どこまでスポンサーが介入するか、という点はまだまだ検討の余地があると思いますが、「こういうサービスを始めたら面白いのでは?」と、運営面を一緒になって考える関係性でいられるのは、スポンサーのありかたとして、とても幸せであると思います。