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日本ジャーナリスト会議、2022年第65回 JCJ 賞受賞作を発表

編集部 2022/9/22 08:00

日本ジャーナリスト会議(JCJ)は、1958年以来、年間の優れたジャーナリズム活動・作品を選定して、「JCJ 賞」を贈り、顕彰してきた。今年で65回を迎え、8月31日の選考会議において、次の 6点を受賞作が決定したことを発表した。

【JCJ大賞】1点
● 映画「教育と愛国」 監督・斉加尚代

大阪の教育現場で長く取材してきた斉加尚代ディレクターが、2017年にMBS(毎日放送・大阪市)で放送した作品に追加取材をして再構成したドキュメンタリー映画。小学校の道徳教科書で「パン屋」が「和菓子屋」に書き換えられる。滑稽な書き換えだが、そこから斉加は、沖縄戦における集団自決について「軍の強制」が削除された問題とつながると感じた。ほとんどの出版社から取材を断られながらも、「新しい歴史教科書をつくる会」を支持する立場の伊藤隆・東大名誉教授のインタビューを実現。「歴史に学ぶ必要はない」という、歴史学者としてはあるまじき発言に衝撃を受ける。教育への政治介入が強まる中で、教科書から史実が消える。5月の公開から2か月で、2万7千人が映画館に足を運んだ。教育への危機感が広がっている。

MBS、映画『教育と愛国』が第65回JCJ賞大賞を受賞

【JCJ賞】4点(順不同)
● 「土の声を『国策民営』リニアの現場から」 (信濃毎日新聞)

日本列島の中央部の自然体系と地形、風土を大きく傷つけながら強行されているリニアモーターカー建設プロジェクト。現下で総工費約 7 兆円のうち約 3 兆円を政府が財政投融資で貸し出すという「国策民営」の事業だ。しかし長野など関係県や市町村には大きな負担が押し付けられている。その必要性、有効性からも「21 世紀最大の無駄プロジェクト」といわれる事業に対して、地元住民などの根強い反対運動が続く。86%がトンネル工事の同プロジェクトでは、残土の処理や運搬など「土」の処理が大きな課題になっている。この「土」に焦点をあてながら、報道機関がとかく及び腰だったリニア問題に、正面から本格的に切り込んだ本企画は、斬新でインパクトが大きい。

● 風間直樹/井艸恵美/辻麻梨子『ルポ・収容所列島 ニッポンの精神医療を問う』 東洋経済新報社

この闇の深さに慄然とさせられる。日本は精神疾患の患者数400万人を超え、精神病床入院患者数約28万人、人口当たりでも世界ダントツ。そして日本の精神病院特有の強制入院制度「医療保護入院」がある。この実態を、東洋経済調査報道部メンバーが丹念に取材した。問答無用の長期入院、DV夫の策略による入院、40年も退院できなかった男性、向精神薬の薬漬け、「一生退院させない」とおどされてパイプカットした男性、密室での虐待横行……など、家族のしがらみをも利用し、人権のかけらも見られない実情の報告は生々しくおそろしい。少し広げて福祉行政問題にも言及がある。深刻な事態が予想される認知症急増という現在の日本に、警鐘を大きく打ち鳴らす一冊。

● 北海道新聞社編『消えた「四島返還」 安倍政権 日ロ交渉 2800 日を追う』 北海道新聞社

北方領土返還問題に関する安倍政権の日ロ交渉はこの上ない稚拙外交そのものであった。本書は、従来の「四島返還」から歯舞・色丹の 2 島返還に独断で舵を切ってしまい、あげくプーチンに手玉にとられた安倍対ロ外交を 7 年以上にわたって追った地元紙の記録である。交渉の背景に見えてくる米ロ関係の悪化、ロシアのクリミア支配、連繋の深まる中ロ関係、ロシアとその周辺諸国との領土交渉の経緯等々、日ロ交渉を考えるうえでのさまざまな要素を含め、広く深く取材と分析をしている。未発表の証言の掘り起こしやロシア周辺諸国の動向への目配りも光る、北方領土問題の全貌を理解する上での必読の書である。

● 「ネアンデルタール人は核の夢を見るか~“核のごみ”と科学と民主主義」 北海道放送

原⼦⼒発電所から出る⾼レベル放射性廃棄物、いわゆる核のごみ。北海道寿都町と神恵内村で、全国初の核のごみに関する⽂献調査が⾏われている。⼈体に影響がない放射線量になるのは10万年後とされる。今から10万年前はネアンデルタール⼈がいた時代だ。彼らは核の夢を⾒ただろうか。私たちは10万年先まで安全に核のごみを管理できるのか。「迷惑施設」を地⽅に押し付ける構図は原発や⽶軍基地とも通じる。しかし、道内のテレビや新聞は交付⾦⽬当てに調査に応募した町⻑や反対派住⺠の動きを中⼼とした報道に終始している。この番組は、本来、国全体で議論すべき問題が地⽅に押し付けられている構図を鮮明にし、⼀⼈ひとりが考えるべきだとのメッセージを発信している。
 

HBC北海道放送『ネアンデルタール人は核の夢を見るか』が第65回JCJ賞を受賞

【JCJ特別賞】1点
● 沖縄タイムス社と琉球新報社

沖縄タイムス、琉球新報の2紙は、ことし復帰50年を記念して、タイムスは「防人の肖像」、「50歳の島で」の企画などで、また新報は「沖縄の日本復帰50年の内実を問う」の特別号などで、ともに復帰50年を迎えた沖縄の基地の現実と、人々の生活を詳しく報道した。県内に2紙が併存するという、厳しい経営状況の下で、真実の報道を求めて切磋琢磨する2紙の活動は、日本の民主主義のために極めて重要である。2紙はこれまで戦後77年の日本で、米軍統治下での闘いを含め、県民の人権と日本の民主主義のために、絶えざる報道と評論活動を続けてきた。その活動は、日本のジャーナリズム全体の中で特筆されるべき成果を生んでおり、その果たした役割は極めて大きく、本土の新聞が教えられ、手本とするものでもあった。特に、「再び戦争のためにペン、カメラ、マイクをとらない」をモットーに活動してきたJCJとして、「反戦」を明確に掲げる沖縄2紙の活動は、特に頼もしいものでもある。JCJは沖縄復帰50年に当たり、2紙のこの間の活動の努力と成果に対し、JCJ特別賞を贈り表彰する。

※なおJCJ賞の贈賞式を下記の通り開催
 贈賞式:9月24 日(土)13:00~ 全水道会館・4 階大会議室(東京・水道橋)
 詳細は右記でご参照→https://jcjsyou.peatix.com/