日本×フィンランド共同製作ドラマ「連続ドラマW BLOOD & SWEAT」WOWOWプライム放送・WOWOWオンデマンド配信/2026年4月5日(日)午後10:00 放送・配信スタート、全8話。出演:杏 ヤスペル・ペーコネンほか。(写真:WOWOW)

19 MAY

15分で世界が揃うタンペレが鍵に〜WOWOW国際ドラマ『BLOOD & SWEAT』制作の舞台裏【現地インタビュー前編】

編集部 2026/5/19 12:00

国際プロジェクトで取り組むドラマに、新たな事例が生まれた。日本のWOWOWとAX-ON、フィンランドのICS Nordicが共同制作した『連続ドラマW BLOOD & SWEAT』だ。主演に杏とヤスペル・ペーコネンを迎え、日本とフィンランドを舞台にした完全オリジナル脚本のクライムサスペンスを描く。いかにして本作は実現したのか。ICS Nordic創業者でエグゼクティブプロデューサーのイルッカ・ヒンニネン氏とイルッカ・ラーコネン氏に話を聞いた。前編では、日本とフィンランドのチームがどのように進めていったのか、制作の舞台裏に迫る。

(ジャーナリスト 長谷川朋子)

■フィンランド出身の作り手が偶然結んだ出会い

ICS Nordic創業者でエグゼクティブプロデューサーのイルッカ・ヒンニネン氏(左)とイルッカ・ラーコネン氏(筆者撮影)

日本とフィンランド、二つの制作現場を横断するドラマプロジェクト『連続ドラマW BLOOD & SWEAT』の始まりは、2023年5月のロサンゼルスでの偶然の出会いだった。ICS Nordic創業者でエグゼクティブプロデューサーのイルッカ・ヒンニネン氏は当時をこう振り返る。

「LAで撮影していた映画製作の合間に参加したコンテンツマーケットのカンファレンス会場で、仲間と母国語で会話をしていたんです。そうしたら、数列前に座っていた男性が振り返って『君たちはフィンランドから?僕もフィンランド出身なんだ』と声をかけてきたんです」

その相手が、AX-ON所属で、本作の脚本と監督を務めるダニエル・トイヴォネン氏だった。互いにすぐに「一緒に何かやろうか、できないか」と会話が始まった。

「日本とフィンランドをまたぐ連続殺人犯がいて、日本の刑事とフィンランドの刑事が、両国を行き来しながら事件を追っていく。そんな話はどうだろうか、と。これは物語の出発点になると考えが一致したんです。翌日もさらに話し合いを重ねるうちに、このプロジェクトの可能性を確信しました」(ヒンニネン氏)

その場のアイデアは、具体的なプロジェクトとして動き始めていく。実際、『BLOOD & SWEAT』は、日本とフィンランドを舞台に連続猟奇殺人事件の真相に迫るクライムサスペンスだ。日本の警視庁捜査一課の刑事・涼宮亜希役を杏、フィンランド国家捜査局FNBIの刑事ヨン・ライネ役をフィンランド俳優のヤスペル・ペーコネンが演じる。約7800kmの距離を越え、2人の刑事が事件を追っていく。

■日本とフィンランドの共同ライターズルームを立ち上げる

もっとも、こうした物語を形にしていくには、日本とフィンランド、それぞれの文化や制作環境を理解しながら脚本を組み立てていく必要があった。

「ロサンゼルスから帰国した後、オンライン上でライターズルームを立ち上げました。日本とフィンランドのチームで脚本づくりに取り掛かり、少しずつ、少しずつ作り上げていきました」とヒンニネン氏は説明する。

物語を構築する上で、大きな軸となったのが、日本とフィンランドの文化的共通点だった。ヒンニネン氏と同様にICS Nordic創業者でエグゼクティブプロデューサーを務めるイルッカ・ラーコネン氏は話す。

「話し合う中で、私たちは日本とフィンランドは温泉とサウナのようないくつかの共通点があることに改めて気づきました。それをなんらかの形で物語の背景に反映していくべきだと考えたのです。脚本づくりの段階から、フィンランドと日本の文化的な要素を自然に取り入れていくことができたと思います」

さらに脚本チームは、戦時中の日本とフィンランドの関係についてもリサーチし、ストーリーへ組み込んでいった。ヒンニネン氏が重視したのは「リアルに感じられるかどうか」だった。

「非常に独創的なストーリーに仕上がりましたが、日本では何が起こり得るのか、フィンランドでは何が起こり得るのかという視点を持ちながら非常に長い議論を重ねました。綿密なリサーチによって、両国に実在する要素に基づいて物語を広げていくことができたのは、脚本全体を共同で作ったことが大きいと思います」

偶然の出会いから撮影開始に至るまで約18カ月を要したという。ドラマのように双方が互いの国を行き来もしながら、脚本づくりから制作体制の構築まで進め、理解を深めながら準備を整えていった。

■森も湖も都市もある「タンペレ」の強み

フィンランド・タンペレを拠点とする制作会社ICS Nordic。(筆者撮影)

撮影面で大きな役割を果たしたのが、フィンランド中部に位置するタンペレのロケーション環境だった。ヒンニネン氏とラーコネン氏が立ち上げたICS Nordicも、このタンペレを拠点としている。今回、両氏への取材も同社オフィスで行った。

「基本的に、車で15分走れば森も、湖も、大都市のビル群も手に入るんです。たったの15分で。大きな都市の場合、1時間や2時間、あるいはそれ以上の距離を車で移動しなければ実現しません。とても手軽に撮影できる街だと思います。制作費を考える上でも、時間が節約できることは重要です」(ラーコネン氏)

制作効率の高さは、国際共同制作において大きな意味を持つ。限られたスケジュールの中で複数国をまたぐ本作にとって、タンペレの環境が大きな利点となった。

主演の杏もタンペレに長期間滞在しながら撮影に参加し、W主演のヤスペル・ペーコネンらとともに、日本とフィンランドを横断する物語を作り上げていった。

ラーコネン氏によれば、双方の国で知名度と存在感を持つ俳優を起用することも、本作を成立させる重要なポイントだったという。

「杏が演じるキャラクターはとても魅力的。杏を起用することができて本当に良かったと思っています。フィンランド側は、北欧を含むヨーロッパ圏で存在感を持つ俳優を検討し、フィンランド民放局のNelonen(ネロネン)とも話し合い、この役柄にはヤスペルしかないとなりました。本人に興味があるか尋ねた時、『もちろん!』と即答でした。日本の文化や日本市場に関心を持っていることもあり、ヤスペルにとっても重要なプロジェクトだと感じてくれたのだと思います」

幻想的かつ力強い楽曲を提供した日本人アーティストJun Futamataの音楽もまた、作品全体をつなぐ重要な要素だったとヒンニネン氏は語る。

「フィンランドでも日本でも、あらゆる場所で自然に響く音楽であることも大事です。雪景色のシーンと日本の音楽を融合したことで、両方の世界が一つになったと感じています」

ドラマ『BLOOD & SWEAT』の撮影が行われたタンペレのピュハ湖(筆者撮影)

ドラマ『BLOOD & SWEAT』は、こうして日本とフィンランド、それぞれの文化や制作環境を重ね合わせながら形になっていった。ヒンニネン氏とラーコネン氏は日本との国際共同制作にどのような可能性を見出したのか。後編に続く。