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5G回線を用いた生中継・素材伝送の現状と今後の課題〜『5G準備委員会』イベントレポート(前編)

編集部 2020/4/8 07:00

全国の視聴者がリアルタイムに参加できるインタラクティブなテレビ番組やCMを数多く手がけてきた株式会社LiveParkは、2020年3月18日(水)自社が運営するイベント参加型ライブ配信アプリ「LIVEPARK(ライブパーク)」上でオンラインセミナーイベント「メディア&コンテンツ業界のための“5G準備委員会”」を開催した。

ライブ配信中の様子

「放送と5Gの可能性を考える」がテーマの今回は、放送・メディア業界における5G(第5世代)施策のキーマンとなるパネラーを招き、放送の現場における5G回線を用いた具体的な取り組みについてパネルディスカッションが行われた。

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パネラーは毎日放送 経営戦略室メディア戦略部長・マル研運営会リーダーの齊藤浩史氏、日本テレビ放送網 技術統括局の川上皓平氏、北海道テレビ放送 コンテンツビジネス局 ネットデジタル事業部兼編成局編成部 兼 技術局 放送・ITシステム部の三浦一樹氏、そして「5Gでビジネスはどう変わるか」の著者で、株式会社 企 代表取締役 慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授のクロサカタツヤ氏。MCをLivePark エグゼクティブ・プロデューサーの清田いちる氏が務めた。

■5G回線を用いた生中継・素材伝送の現状

最初の話題は、5G回線を用いた生中継や映像素材の伝送事例について。

齊藤浩史氏

斉藤氏:弊社は今年に入り、5G回線を使い8K映像を新4K8K衛星放送の技術方式であるMMT(MPEG Media Transport)で伝送する実験と、720pのHD映像3台をネットワーク上でスイッチングする実験を行った。

前者は「視聴者に伝えるための5G利用」で、後者は「放送素材を作るための5G利用」。

とりわけ後者は、中継車を用いなくても中継が行える仕組みのため放送局としては関心が高いと思う一方で、両者ともすでに他の方法で実現できていることを5Gに置き換えるアプローチに過ぎず、5Gの活用について既存の枠組みを5G置き換えることだけでいいのかとも逡巡している。

これを受けて、クロサカ氏らがコメント。

クロサカタツヤ氏

クロサカ氏:テレビ業界は既存のワークフローをとても大事にしている、プライドを持っているという印象だ。しかしテクノロジーによっていろんな価値観が変わっていく。そこに対してどう向き合うかが関心どころだ。

 

 

 

 

川上皓平氏

川上氏:(素材伝送にかかわる)ワークフローが効率的にルーチン化されていることで常にリアルタイムな放送を実現できている面がある。しかし同時に、新しい技術を入れたワークフローも検討している。いずれにしても現状の体制を続けているままでは時代の変化に対応することは難しいという課題感は持っている。

 

 

三浦一樹氏

■「安定した帯域確保」への道のりはまだ近くない

三浦氏:地上波(北海道テレビ)で5G回線を使った中継を実施したが、一番時間かかったのは社内調整。中継だと「120%止めない」という前提でやっているので、「98%=少しでも担保できない部分がある」と現場の技術者は拒否感を持ってしまう。

 

 

 

続いて話題に上がったのは「素材伝送のための帯域確保の問題」について。地上波以上の画質による映像素材伝送は通信帯域を大幅に要するが、公衆網を使用した場合においては一般利用者との通信との混雑も問題になる。斉藤氏が語る。

斉藤氏:中継担当者いわく「カメラに接続した5Gの伝送機器からスタジアム内の通信基地を経由してクラウドへ映像を伝送しスイッチングしていたが、休憩時間になるとスタジアムにいる観戦客たちが同時にスマートフォンを使用し、5G回線が落ちてしまう場面があった」という。

現在の技術では4G回線と5G回線が混在しているので、4G側のトラフィックがタイトになると、5Gの帯域も不安定になってしまう。(基幹)放送で使っていこうとなると安定した帯域の確保のための仕掛けがなければいけない。

「回線が太くなればおのずと解決する、という考えもあるが、ネット上のコンテンツはどんどんリッチになっており、それだけに委ねることはできない。そのあたりをふまえた(衝突・混雑回避のための)環境整備も必要だ」という声があがっている。

クロサカ氏:今年から数年間は、既存の4Gネットワークの上に基地局部分だけを5Gにして乗っけている「ノンスタンドアロン」と呼ばれる状態が続くだろう。少なくとも今年の時点では、5G回線のコアネットワーク部分は4Gと5Gが混在している。ネットワーク側で制御することは可能だが、ユーザーが増えたときにきれいにさばききるのは難しい。

ここから3年の「賞味期限」と考えると、いまの4Gネットワークに追加投資するよりは2023年ごろからはじまるスタンドアロンな5Gネットワークに投資するほうがよいのではないかと、通信インフラ側の人間としては考える。

5G回線はまだ「本番」とはいえない。「(この通信は4Gなのか5Gなのか)どっちなの?」という状態が続くのでは。

 

川上氏:昨年9月、ラグビーワールドカップの中継で、競技場周辺の映像を5G回線とインターネットを使って4K伝送し、実際の4K放送のオンエアでも使った。今後は低周波数帯のSub6とハイバンドのミリ波、といった違いでも回線状況や特性も変わるかもしれない。

■5G回線で素材伝送はどんな恩恵を受ける?

清田いちる氏

ここでMCの清田氏から「5G回線での素材伝送が定着すると、どんな恩恵が受けられるのか」と質問。パネラーが答えた。

川上氏:情報番組では現在も4G回線を使った中継を行っているが、それに変わるものとして高速低遅延で中継を実現できる可能性には期待したい。

斉藤氏:ネット配信が身近なものになり、アマチュアスポーツの配信が注目されている。スイッチャー機能がクラウド上に移行し、ネットワークでつながっていればどこからもスイッチングして中継できるという体制が整えば、こうした(小規模だが確実にニーズのあるスポーツ中継の)裾野も広がるだろう。

川上氏:これまで多くの機材と操作するスタッフが必要だった中継が、「数台のカメラとひとりのスタッフ」で実現するようになるかもしれない。

 

ここまでは中継拠点と放送局間の伝送経路としての利用に焦点が当てられた前半に続き、後半では5G回線によってユーザーサイドが受ける恩恵、そして5G時代の新たなコンテンツの形についてまとめる。