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散在データを統合して見えた顧客像、フジテレビFODが取り組む「1to1施策」

編集部 2020/4/13 08:05

2020年3月25日(水)、株式会社フジテレビジョン、Repro株式会社、トレジャーデータ株式会社の3社合同によるオンラインセミナー「データで顧客をもっと身近に 〜エンゲージメントを高めるためのデータ統合の重要性とは〜」が開催。2つのセミナーとパネルディスカッションの3部構成で行われ、今回はパネルディスカッションの模様をお届けする。

パネリストとして、株式会社フジテレビジョン 総合事業局コンテンツ事業センターコンテンツ事業室の村上正成氏、Repro株式会社 Customer Success Managerの岩田健吾氏、トレジャーデータ株式会社Sales Manager田中省吾氏が登壇。フジテレビが運営する動画配信サービス「FOD」におけるCDP(Customer Data Platform:顧客データ統合プラットフォーム)とCE(カスタマーエンゲージメント)プラットフォームを用いた、カスタマーエンゲージメント(顧客関係)構築のリアルな現状が語られた。

■既存顧客とのエンゲージメントを増やすCDP、CEP

冒頭、Repro岩田氏、トレジャーデータ田中氏からそれぞれ自社の提供するソリューションについて説明。

Reproが提供するCE(カスタマーエンゲージメント)プラットフォーム「Repro」は、サービスにおけるさまざまな顧客データを可視化し、AIによってセグメント化する。

セグメント化した顧客に対しては、売り場における購入データを元に新たな購買へとつなげる商品レコメンドなど連続的なアプローチを多チャンネル(さまざまな行動場面)で展開。具体的にはメールやプッシュ通知、アプリ内メッセージなどを通じて顧客ひとり一人に最適なタイミング、内容、チャネルを用いてコミュニケーションすることにより、さらなる活発な行動を促すことができる。

今回、岩田氏は、「FOD」の顧客向け施策において「Repro」の導入とともに、カスタマージャーニー(顧客の体験導線)設計のためのコンサルティングも担当したという。

トレジャーデータ田中氏は、同社のCDP(Customer Data Platform:顧客データ統合プラットフォーム)「Arm Treasure Data CDP」を紹介。顧客との接点が増えるなか、さまざまな地点で生まれる多種多様なデータをユニーク(一意)なユーザーIDのもとに紐付け、統合的に利用できる仕組みだ。

「Arm Treasure Data CDP」は、これまで各地点に散在し、別々に集計・解析されていた顧客データを横断的に紐付ける。これによって顧客の行動がより具体的に追跡できるだけでなく、アドネットワーク(広告配信ネットワーク)への出稿や、BI(Business Intelligence:情報分析・意思決定支援)ツールでの解析、顧客向けレコメンドなどへ汎用的に利用することができる。

今回、田中氏は、自社の「Arm Treasure Data CDP」をはじめ、「Repro」の導入にいたるまで、CEP、CDPの導入支援全般を担当。散在した顧客データを統合し、より効果的な顧客アプローチが行える仕組みづくりをサポートしたという。

続いてフジテレビ村上氏が「FOD」の概要について説明。同サービスは、地上波番組の直近7日間の見逃し動画を提供する無料サービス「FOD見逃し無料」と、オリジナル番組を中心とした有料サービス「FODプレミアム」を提供している。

配信コンテンツは同局制作の番組に限らず、フジテレビ系列(FNS)各局やBSデジタル放送「BSフジ」の番組もカバーするほか、FODオリジナル番組や映画も配信。さらには雑誌の読み放題サービスや漫画コンテンツ配信にいたるまで、幅広い種類のコンテンツを取り揃えている。

■マーケティング担当者だけで顧客行動の横断追跡が可能に

ReproのCE(カスタマーエンゲージメント)プラットフォーム、トレジャーデータのCDP導入の経緯について、フジテレビ村上氏はつぎのように語る。

村上正成氏

村上氏:Reproを導入するまで顧客向けのマーケティング施策を行う際は、そのつど開発会社に設定してもらう必要があり、時間のロスが大きかった。例えばプッシュ通知ひとつ打つのにもエンジニアに依頼し、何往復もやり取りを行わなければならず、マーケティング担当者レベルでこれらを完結できるようにしたいという思いから、2017年にReproの導入を決めた。

顧客データの解析においても、これまでは統合的なデータ環境がなく、それぞれ(サービス単位で)バラバラにデータが保管されていた。とくに「FODプレミアム」の顧客データはオンプレミス(社内の固定サーバー)環境に格納されていたため、扱いづらかった。顧客のセグメント分析を行う際はそのつど散在したデータをつなぎ合わせる必要があり、施策におけるボトルネックとなっていたことから、(散在した顧客データを一元的に管理できる)「Arm Treasure Data CDP」の導入を昨年12月に決めた。

顧客データが散在している状態での導入は、課題がなかったのだろうか。田中氏はつぎのように語った。

田中氏:顧客データは散在していたが、オンプレミスなデータソース(中間ストレージを経由して連携)やFirebase(モバイルアプリにおける基本機能を提供するクラウドサービス)、レコメンドエンジンとのつなぎこみなども他社でも既に実績があり、標準サポートしているデータコネクターを活用できたことから、導入がスムーズにいくという印象だった。

 

実際に、散在していたデータを統合的に運用できるようになったことで、どんな変化が訪れたのか。村上氏らはつぎのように語る。

村上氏:「FOD」の視聴データを統合的に利用できるようになったことが大きかった。これまで「FOD見逃し無料」の顧客のうち、どのくらいの割合が「FODプレミアム」に移行したかわからなかったが、これらのデータを一か所につなぎこめたことで、こうした動きが見えるようになった。

田中氏:CDPを利用すると、顧客をユニーク(一意)なID単位でまとめ、いろんなデータをつなぐことができる。たとえばこれからは、過去にさかのぼって、顧客が無料会員だった期間や、有料会員になってからの期間を同一のID単位で分析できるようになった。

岩田健吾氏

岩田氏:CDP導入前のデータが散在している時は、「Repro」で取得したアプリの行動データを基にマーケティングを行う必要があった。しかしFODの配信チャネルはアプリ以外にも、Web、TVデバイスに拡張していく中で、チャネル横断のデータを活用する重要性が高まっていた。CDPを導入することで、TVデバイス等のマルチチャネルのデータを活用して「Repro」でマーケティング施策を行うことが可能になった。

 

村上氏:(顧客データの一元化というアプローチは)スポンサーからもニーズがあり、FODの広告セールスチームや「FNNプライムオンライン」など他部署の営業チームからも興味の声があがっている。こうした施策がニュースメディアやセールス、有料会員ビジネスを垂直統合するきっかけになればと思う。

■データの一元化を武器に、今度目指すこと

顧客データの一元化をきっかけに、さらに顧客向けのエンゲージメント施策を強化していく構えの「FOD」。パネルディスカッションの締めくくり、今後の見通しを村上氏らが語った。

村上氏:「FOD」で取れているさまざまな顧客データをつなぎこんで分析し、1対1の顧客マーケティングを展開していきたい。

「FOD見逃し無料」のユーザーはMAU(Monthly Active User:月間アクティブユーザー)が非常に多いため、有料の「FODプレミアム」に移行してもらうための方法を考えていきたい。同時に現行のサブスクリプションの解約数を少しでも、1〜2%でも減らしていきたい。

「FOD」はTVデバイスやスマートフォン・PCなどさまざまなデバイスで楽しんでいただいている。(顧客が)どんなデバイスでどんなコンテンツを楽しんでいるかを把握し、いちばん顧客が欲しいものを届けていきたい。たとえば漫画とアニメは親和性が高いので、アニメを見ている人に漫画をすすめるようなことも可能になるし、スマートデバイスからTVデバイスでの視聴へ誘導するような施策にも取り組めたらと思う。

これを受け田中氏も、「マルチチャネルで楽しめる点が「FOD」の強み。さまざまな地点で発生するデータをしっかり整理して顧客行動を追える状態を作り、しっかりと顧客に刺さるアプローチができるようサポートしていきたい」と語り、約1時間にわたるパネルディスカッションが終了した。