30 MAY

「何もできないとき」に何をするか?フジテレビの取り組み〜SURVIVE 2030イベントレポート(前編)

編集部 2020/5/30 09:00

テレビ東京の公式YouTubeチャンネル『テレ東NEWS』にて、2020年5月18日(月)にオンライントークイベント「SURVIVE 2030『Withコロナのエンタメ業界どうなる?テレビ、YouTube、アニメ業界のキーマンが語る』」が開催された。この模様を前後編にわたってレポートする。

本イベントではテレビ局、YouTuber、アニメ・ゲーム開発の分野で活躍するパネリストがリモート形式で出演。新型コロナウイルス状況下のリアルな現状と、政府による警戒宣言解除後、いわゆる「アフターコロナ」の時代におけるあらたなコンテンツやコミュニケーションの方向性について議論が行われた。

パネリストはフジテレビ チーフビジョナリストの清水俊宏氏、テレビ東京制作局 プロデューサーの高橋弘樹氏、BitStar 代表取締役社長 CEOの渡邉 拓氏、ゲームデザイナー・原作・脚本家のイシイジロウ氏。ファシリテーターをテレビ東京報道局の豊島晋作氏が務めた。

【清水俊宏氏プロフィール】

2002年フジテレビ入社。報道局にて政治記者、選挙特番の総合演出、『ニュース JAPAN』プロデューサーなどを担当したのち、2016年コンテンツ事業局(現総合事業局)に異動し、テレビコンテンツのデジタル化を推進。ニュースメディア『FNN プライムオンライン』、 エンタメメディア『フジテレビュー!!』などを立ち上げ、責任者として運営するほか、取材やテレビ番組プロデュース、スタートアップ支援も行う。

【高橋弘樹氏プロフィール】

2005年テレビ東京入社。制作局にて『TVチャンピオン』『空から日本を見てみよう』『世界ナゼそこに?日本人』などのディレクターを担当。

2011年からはプロデューサー・演出として『家、ついて行ってイイですか?』『吉木りさに怒られたい』『ザキヤマのロケスケ流出旅』などを担当。

著書に『TVディレクターの演出術』(ちくま新書)、『1秒でつかむ』(ダイヤモンド社)など。

【渡邉 拓氏プロフィール】

2011年慶應義塾大学大学院 理工学研究科卒。スタートアップ企業で新規事業の立ち上げに従事したのち、独立。友人のYouTuberを支援したことを転機としてBitStarを創業。

クリエイタープロダクション、コンテンツスタジオ、 VTuber、インフルエンサーマーケティング事業を展開する。

【イシイ ジロウ氏プロフィール】

ゲームデザイナー/原作・脚本家。1967 年兵庫県生まれ。

チュンソフト、レベルファイブにおいて主にアドベンチャーゲームのシナリオ・監督・プロデュース・ディレクションを務めたのち、2014年に独立。2015年株式会社ストーリーテリング設立。ゲームに限らず映画・アニメ作品等も幅広く手がける。

代表作に『428 ~封鎖された渋谷で~』『文豪とアルケミスト』『新サクラ大戦』など。

■「何もできないとき」に何をするか。フジテレビの取り組み

最初の議題は「フジテレビさん!最近どんな感じですか?」と銘打ち、コロナ下におけるフジテレビの現状を清水氏が語った。

清水氏:ワンガン夏祭り(かつての『お台場冒険王』)をはじめ、イベント事業は計画も含めて何も出来ない状況。いつ再開できるかわからず、スポンサードのもの含めてどのタイミングでキャンセルするか、縮小するかで悩んでいるが、この時代だからこそなにをできるかを考えている。

緊急事態宣言発令にともなうテレワークの実施など、制作現場の環境も思わぬ形で変化を余儀なくされた。しかし清水氏は、この状況をチャンスと捉えているという。

清水氏:何もアウトプットが出来ないときに、そこに向けて何をするのかを考えるようになった。具体的には企画書を練ったり、ストーリーテリングの手法を開発したり。そういうことができるタイミングになっている。テレビ業界にとっていまは、変革を起こせるタイミングなのではないか。

コロナ禍にある人々を元気づけるため、音楽を主軸とした特別番組を多数放映しているフジテレビ。歌手のレディー・ガガの呼びかけによって開催された、医療従事者などへの支援を目的とした世界的規模のストリーミング・コンサート『One World: Together at Home』を地上波とCS、FODで放送・配信で放送したことも記憶に新しい。

清水氏:『One World: Together at Home』は、地上波とCS(フジテレビONE)で同時放送した。(こうした番組を)CMなしで流すのは民放としては異例のこと。収益はないが、社会的な意義を考えた。

「いま新たな番組(収録)ができないならば、収益がなくてもよいから新しいことをやってみよう」というスタンス。ロックバンド・氣志團(きしだん)の綾小路 翔が実行委員長を務めるアーティスト在宅参加型の音楽フェス『家フェス』も、CS放送フジテレビONEと動画配信サービス「FOD」、フジテレビ地上波で同時放送・配信された。これまでならば地上波とCS・FODの同時は「タブー」だったものだが、こういう(コロナ)時代なのでOKになった。そういう意味で面白い時代になっている。

家フェス

同社の有料動画配信サービス『FODプレミアム』2020年4月次の入会数は、前年比の2倍を記録。「いままでスマートフォンで(配信を)見る人が多かったが、大画面で見る人がすごく増えている。見られ方が変わっている」(清水氏)という。

■「自分ひとりで何でもやれる人が強くなってきている」

つづいて高橋氏が、テレビ東京のバラエティ制作現場を語った。「収益がなくとも新たな取り組みを」とするフジテレビに対し、「収益を上げないとやばい」と同氏。

高橋氏:バラエティは毎週の放送枠がある。編成に枠を返上することはできるが、売上が落ちるし、再放送だと営業収益が上がらない。他局はいろいろあるだろうが、テレビ東京は放送収入の比率が大きいこともあり、「収益を上げないとやばい」という空気が社内にある。

例外にもれず、テレビ東京においても現在のバラエティ収録はリモート形式がメイン。その性質上、タレントが自宅から出演することも多くなった。こうした環境の変化にともない、出演者に求める「条件」も変化してきたという。

高橋氏:現状スタジオ収録ができないので、タレントの自宅にバイク便で収録機材を届け、組み立ても自分たちでやってもらっている。とくに『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京)では、メイクも自前で行える人しか出さないと決めている。

収録における段取りを極限までコンパクト化させるという性質上、「全部自分でできるタレントさんしか募れないという一面がある」と高橋氏。「コロナ中においては、カメラのセッティングからメイクまで、自分ひとりで何でもやれる人が強くなってきている」と述べた。

■「巣ごもり需要」で広告増のYouTube業界、「3密」にあえぐアニメ業界

ここまではテレビ業界の現状が語られたが、一方でYouTube業界、アニメ業界にはどのような影響が出ているのか。

YouTube業界の現状について渡邉氏が語る。

渡邉氏:巣ごもり需要で視聴回数が増えていることもあり、YouTube業界の収益は上がってはいる。配信者が増えているので広告在庫が増え、広告単価としては下がっている状況だが、再生数が大きいのでトータル(の広告費として)は上がっている。

「クライアントの広告費も絶対額としては下がっているが、流通や店舗販売が止まっている関係でオンライン広告費が相対的に上がっているのではないか。トータルでは(市場額が)上がっているように思う」と渡邉氏。「コロナが長引いてデジタル需要が増えていくと、広告単価も上がっていくのではないか」

アニメ業界の現状について、イシイ氏が語る。

イシイ氏:いちばんのボトルネックがアフレコ。収録時にはブースのなかで(ノイズ防止のため)空調を切らなければならない。まさに「3密」の状況が発生しやすく、コロナの影響を最初に受けたのもこの部分だった。

作画や動画についてはデジタル化がかなり進んでいるイメージのアニメ業界だが、コロナの影響は少なくないという。

イシイ氏:デジタル化(が進んでいる)といっても、手で描いているもの(原画)をスキャンするという工程は残っている。誰かがアナログをデジタルに直しており、原画(の原稿を)集めて回っている人がいる。とくにアニメーターの年齢層は高いし、(コロナ感染や重症化の)リスクが高い。

漫画業界においても「大きな連載ほど、大きな部屋で(作家が)アシスタントと泊りがけで(制作作業を)やっているので集まれない」とイシイ氏。そのいっぽうで「デジタル(完結型)でやっている個人作家は(リスクに)強い」と、コロナによって生まれつつある「構造変化」を指摘する。

とくにアニメ業界においては、作品の魂ともいえる「声」や音楽の収録環境がコロナによって大きな打撃を受けている。こうした状況を受け、プラットフォーム側でもクリエイター支援のためのさまざまな取り組みが始まっているという。

イシイ氏:(声優や演奏者が)家でどうやって個人録音するか、という議論が起こっている。ゲーム音楽制作会社のノイジークロークでは、オーケストラ演奏者に収録機材を貸し出して支援している。またNetflixでも、制作パートナー向けページにて吹替収録のためのチュートリアルを公開するなど、サポートする体制が取られている。

自宅環境で吹替のセリフを収録するNetflix | パートナーヘルプセンター

未曾有の状況を新たなコンテンツ作りのきっかけとして活かそうとするところ、出演者の姿勢に新たな価値観を見出すところ、そして制作手法の本質的な転換を志向するところ──。コロナ禍を乗り切るべく、各業界さまざまな試行錯誤の渦にある状況が伝わってきた。

こうした間にも政府や自治体は「新たな生活様式」を提唱し、日常生活そのものの大幅な価値観の転換を呼びかけている。後編では、来たる「アフターコロナ」時代を見据えた新たなコンテンツのかたちにフォーカスを当ててお伝えする。

 

【後編】Withコロナでエンタメ業界はポジティブに変わっていく?〜SURVIVE 2030イベントレポート

「SURVIVE2030」はテレビ東京公式YouTubeチャンネル『テレ東NEWS』で配信中!

◆『テレ東NEWS』とは
経済・ビジネスをはじめ、政治・社会の独自企画やライブ配信など、ニュースを”テレ東らしく”お伝えする総合ニュースサイト。
https://www.youtube.com/channel/UCkKVQ_GNjd8FbAuT6xDcWgg/