12 JUN

コロナ対策啓蒙スポット内制CMの狙い~NHK・MRT・UMK、宮崎3局合同キャンペ「みやざきとともに」の展開(後編)~

編集部 2020/6/12 08:00

新型コロナウイルス感染拡大防止に向けて地域の放送局がタッグを組んだ取組みが全国でみられる。NHK宮崎放送局とMRT宮崎放送、UMKテレビ宮崎の3局も4月29日から合同キャンペーン「みやざきとともに」を本格的に開始し、啓蒙スポットCMを発信し続けている。この合同キャンペーンをきっかけにテレビ宮崎は独自の展開も試みる。その狙いとは何か? 前編に続き、テレビ宮崎の編成業務局長原口博己氏と経営戦略局コンテンツ開発部兼報道制作局制作部の村上辰之助氏に話を聞いた。(本文以下、敬称略)

テレビ宮崎 編成業務局長 原口博己氏(右)、経営戦略局コンテンツ開発部兼報道制作局制作部 村上辰之助氏(左)

■夕方ニュースコーナー「コロナに負けない」素材を2次利用した内制スポット

NHK 宮崎放送局、MRT 宮崎放送、UMK テレビ宮崎の 3局が合同で新型コロナウィルス感染拡大防止に向けて制作、放送しているスポットCM「みやざきとともに」を活用して、UMKでは独自の展開も行っている。

原口氏:3局共通のスポットCMは1日5本ほど放送し、このほか、視聴者の目に留めていただけるよう、内制のバージョンも1日5本ほど放送しています。実は今、コロナ禍の影響でスポットCM枠が埋まりにくいという厳しい状況もあり、枠の活用を考えるなかで内制バージョンを放送している事情もあります。また同じCMを流すよりもバリエーションを少しでも増やした方がいいのではないかと、そんな意図もあります。

村上氏:合同キャンペーンの共通素材に、報道部が取材した新型コロナ関連のニュース素材を組み合わせて、独自の1分バージョンのスポットCMも制作しています。ここで使っている素材は「コロナに負けない」という夕方ニュースで展開していた企画を活用したものになります。報道制作局内の事情として、緊急事態宣言中は取材ネタ不足にも陥りました。そこで報道部が立ち上げたのが「コロナに負けない」の企画でした。県内では新型コロナに関連した様々な取り組みも広がっていたのでそこにフォーカスしたVTRを作り、4月中旬ごろから紹介し始めました。そのVTR素材を「みやざきとともに」のキャンペーンの独自CMとしても使っているのです。例えば、オリジナルマスクを作る飲食店や、コロナ収束を願って「アマビエ」を新商品に加えた和菓子店など、心温まるストーリーや頑張っている姿をピックアップしています。取材先には事前に許諾を取り、ご協力いただいています。もともと、ニュースで取材した映像を報道以外で活用できたらと思っていたこともあり、ニュース素材を2次利用するテストケースにもなりました。

YouTube「みやざきとともに コロナに負けない編1」
YouTube「みやざきとともに コロナに負けない編2」

スポットCM枠が余りつつある状況はUMKに限ったことでもない。苦肉の策として内制CMを活用しているとも言えるが、同時にコストをかけずに、ニュース取材素材をうまく利用し、今後の施策にも繋げている。さらに社内横断プロジェクト「エールみやざき」の展開を始めるきっかけも作っている。

村上氏:「エールみやざき」は各部署で自発的に広がっていた新型コロナ関連の取組みを集約させたプロジェクトになります。現在はコーナー名を「エールみやざき」に変えて展開している報道部の「コロナに負けない」をはじめ、アナウンス部が立ち上げたYouTube「ゆっぴーチャンネルKIDS&UMK」、コンテンツ開発部のUMKアプリを活用した「テイクアウト事業者支援」、制作部が展開する新型コロナ関連コーナー、CSR推進部の「SAVE the NurseスポットCM」、事業部の「Music&UMK〜音楽の力で、希望と元気を〜」など、気づけば各部署でいろいろな取り組みが始められていました。それをUMKの取り組みとしてラベリングしようと「エールみやざき」を作りました。こうした独自の取組みも長く継続させていきます。

クイズや民話の読み聞かせなど、アナウンサーによる子供向けコンテンツ ※アナウンス部「ゆっぴーチャンネルKIDS&UMK」
UMKアプリでテイクアウト実施店の情報をユーザー約6万人に発信 ※コンテンツ開発部「UMKアプリ テイクアウト事業者支援」
健康経営会議 #SaveTheNurse 啓発CMを自社スタッフで撮影 ※CSR推進部「SAVE the Nurse スポットCM」
宮崎にゆかりのあるアーティストのMVをスポット化 ※事業部「Music & UMK」

■ローカル放送局の存在価値が問われる時代に

UMKのコンテンツ開発部の取組みについては、編にわたって紹介した開局50周年ドラマ『ひまわりっ~宮崎レジェンド~』についての記事でも紹介した通り。コンテンツビジネスを中心に新規事業などが計画されているなか、今回の「エールみやざき」のようなプロジェクト展開も生み出されたわけである。ローカル局が取り組むべき事情もその背景にはある。

村上氏:これまでは地上波放送をベースに動くことが当たり前でしたが、インターネット配信システムを局内で整備するなかで、コンテンツの活かし方に対する考え方が変わってきています。3月以降、新型コロナ関連の会見を20回以上にわたりYouTubeで生配信しました。その結果、YouTube同時視聴者数は1万5000以上を記録し、2019年7月からスタートさせた「UMKアプリ」のダウンロード数も急速に伸びたのです。本当に必要とされる情報に時間やデバイスは関係ないということ、また地上波だけに囚われない情報発信が求められていることを改めて感じるきっかけになりました。そんな中で、今回の展開が広がりを見せたのだと思います。

「テレビ宮崎公式YouTubeチャンネル」2020年1月からの動画アップロード数は約300本(6月6日現在)

「UMKアプリ」ダウンロード数は約7万(6月1日現在)

原口氏:ローカル放送局は今、存在価値を作る必要があると考えています。県民に寄り添ったコンテンツを伝える役割も求められています。広告収入が伸び悩む厳しいなか、新型コロナウイルスの影響が追い打ちをかけ、第一四半期は大変厳しい状態です。各局同じような状況でしょう。これまでのようにタイム、スポットだけで収入を見込むことが厳しくなっています。ネット配信を含めた新たな事業にもシフトさせていく必要があります。これまで力を入れてきた県民のための社会貢献事業は利益が上がった放送収入をベースに実現できましたが、赤字が続いてしまえば、それすらできなくなってしまいます。そもそもアフターコロナ以降も、イベントそのものがどのように実現できるかどうかも見えないなか、今できることは県民との繋がりを守りつつ、どのようなビジョンを持つべきか。ローカル局の見立て次第だと思っています。

宮崎ローカル放送局の3局が揃った合同キャンペーンは地元県民に対するコロナ対策啓発の役割を果たしつつ、その裏ではローカル放送局の存在意義をも問う様々な想いと狙いがあった。各局で取り組まれている動きにも共通するものがあるのではないか。刻々と変わる状況下で歩みを進めるローカル局の展開に引き続き注目していきたい。

【関連記事】コロナ防止対策スポットCMに込める想いとは?~NHK・MRT・UMK、宮崎3局合同キャンペ「みやざきとともに」の展開(前編)