山本剛史氏、山中勇成氏、森山顕矩氏

20 JUL

テレビ朝日とABEMA、現在の関係性と『ABEMA NEWS』現場に見る新たな姿勢〜インタビュー(前編)

編集部 2020/7/20 09:00

株式会社テレビ朝日・株式会社サイバーエージェントの共同事業として2016年にサービスを開始した『AbemaTV』。2020年4月にはテレビ&ビデオエンターテインメント『ABEMA』へとサービス名が変更され、名称から「TV」の表記が外れた。(運営法人名は引き続き『株式会社AbemaTV』)

以前、「2020年の先を見据えたインターネットテレビ局の技術タッグ~テレビ朝日とAbemaTVのエンジニアが語る未来展望」(https://www.screens-lab.jp/article/7450)にて、テレビ朝日からの出向メンバーとABEMA技術チームにインタビューを行った。あれから約2年、現在の両社の関係性はどのように変化しているのか。そして現在、どんなことに取り組んでいるのか。

株式会社AbemaTV ABEMA NEWSチャンネルプロデューサーの山本剛史氏、同 開発本部 サーバーサイドエンジニアの山中勇成氏、そしてテレビ朝日から株式会社AbemaNewsへの出向メンバーで、現在ABEMA  NEWS技術担当の森山顕矩氏に話を聞いた。

■テレ朝社内に「ABEMA経験者」が増え、連携が強固に

──最初に、みなさんが現在担当している分野について教えて下さい

森山顕矩氏

森山氏:株式会社テレビ朝日から株式会社AbemaNewsに出向し、『ABEMA  NEWS』チャンネル』にかかわる技術全般を担当しています。具体的な職務は番組制作のテクニカルマネージメントをはじめスタジオやサブの設備保守・運用・開発などを行っています。また制作支援やUIに関するのシステム導入などをABEMA開発チームと連携しながら進めています。

 

 

山中勇成氏

山中氏:現在は株式会社サイバーエージェントから株式会社AbemaTVへ出向しています。新卒4年目で配属されて以来、ずっと開発本部に所属しています。現在の担当は配信サーバーやバックエンドの開発です。もともとライブイベントの撮影などに興味があり、ライブ会場やスタジオから配信サーバーへの送出や、ユーザーへの配信技術を担当してきました。

 

 

山本剛史氏

山本氏:2015年に株式会社サイバーエージェントへ新卒入社し、新規事業としてプラットフォーム事業を立ち上げました。2016年から株式会社AbemaTVに出向し、2017年より『ABEMA   NEWS』のチャンネルプロデューサーを担当しています。ABEMAの事業成長に向け、『ABEMA  NEWS』の責任者として、編成や運用、宣伝などの全体戦略立案から実行までを統括しています。
 

 

 

──地上波スピンオフ番組やドラマ『M 愛すべき人がいて』の共同制作など、テレビ朝日とABEMAの関係性が以前にもまして強くなった印象があります。前回取材した2年前と比べ、現場の体制はどのように変化していますか?

山本氏:『ABEMA  NEWS』に関していえばテレビ朝日、サイバーエージェントともに関わる人間が増えています。たとえば先日(6月18日)安倍晋三首相が通常国会閉会にともなう会見を行い、地上波では『スーパーJチャンネル』で会見を生中継しました。会見が長時間におよんだ場合、地上波では放送時間の制限上一部しか流せませんが、「会見の続きはABEMAで視聴できます」とQRコードを放送画面に表示する(ことでリレー中継を行う)など、地上波とABEMAの関係性は深まっています。

森山氏:『ABEMA NEWS』のスタッフ増員にともなってABEMAの現場を経験した人間がテレビ朝日の社内でも増え、協力体制が強固になりつつあります。例えば、これまでニュース取材は地上波の番組向け映像を送るという意識でしたが、最近では現場カメラマンも「(いま送っている映像は)ABEMAではずっと(生配信で)流れている」とABEMAでの配信を意識した撮り方をしてくれることも増え、現場レベルでも連携が進んでいます。

■サービス名から「TV」が取れた理由

──4月からサービス名称が『ABEMA』となりました。「TV」の表記が取れ、「テレビ&ビデオエンターテインメント」というサブタイトルが新たに付きましたが、この変更にはどんな思いが込められていますか

山本氏:インターネット上の新しいテレビの形、日本発の世界に誇れるような大きなメディアを目指すという思いは引き続き持っています。サービス形態として、テレビ放送から連想しやすいリニア(定時)放送を開局当初から進めていましたが、それに加えてオンデマンドでコンテンツを視聴する方が増え、ハイブリッド型のサービスに進化してきました。これをふまえ、(リニア・オンデマンド両方のコンテンツをもつ)実態がユーザーのみなさんにより伝わるよう、『ABEMA』にサービス名を変更することに踏み切りました。

──「テレビ」という言葉が持つイメージにとらわれないサービス展開、という意図もあるのでしょうか

山本氏:テレビ=無料、というイメージもありますが、その一方では「リアルタイムで観ないといけない」という不便なイメージもあるかと思います。番組を見るため放送時間に予定を合わせなければいけないというイメージを変えていきたいという思いもあります。

■速報重視のきっかけとなった「熊本地震」

──突発的な災害や事件などの発生時に「ABEMAで速報している」という声がよく聞かれるようになりました。藤田晋社長が以前メディアの取材において「手癖(視聴習慣)をつけることに注力している」と語っていましたが、「何かあったらABEMAを見る」という習慣はユーザーに根付いてきていると感じますか

山本氏:平日夜に放送している『ABEMA Prime』(毎週月曜〜金曜 21:00〜23:00)などの帯番組をはじめ、朝昼夜のニュースや緊急の記者会見などもノーカットでとことん放送することで「何かあったらABEMAを見る」という視聴習慣は作り出せているのかな、という肌感はあります。

──速報に重点をおく編成は開局当初から意識していたのでしょうか

山本氏:開局当初はノーカットの会見がここまでパワーを持つと想定していなかったのですが、開局直後(2016年4月14日)に発生した熊本地震(での速報)がきっかけとなり、視聴者の需要を知ることとなりました。そのあとも災害(関連)をはじめ会見の中継をやり続けていくうちにどんどん反響が大きくなり、現在のスタイルが築かれました。

■テレビ朝日の経営計画でもABEMAを重要視

──今年3月31日に行われたテレビ朝日の会見で、早河洋会長が経営計画『テレビ朝日360°』について言及しました。この計画においてABEMAはどのように位置づけられているのでしょうか

森山氏:「テレビ朝日360°」のなかで、ABEMAは重要な戦略の一つと思います。技術的なところでいうと、ABEMAのみでは対応しきれない案件が出てきた際には地上波の(ニュース)サブやシステムと連携して『ABEMA  NEWS』で配信を行ったこともありました。今後もより連携した体制は検討されています。

──昨年秋の台風19号ではANN系列局・静岡朝日テレビによる報道特別番組のサイマル放送など、地上波との連携が積極的に行われていたのが印象的でした

森山氏:昨年の台風のとき、『ABEMA  NEWS』では24時間以上緊急特番体制で放送しましたが、こういうときも地上波と連携を深めて対応していて、系列局の協力もあり関東以外の情報も配信していました。

──これらの取り組みに対して、どんな反響がありましたか

森山氏:『ABEMA  NEWS』はTwitterなどのソーシャルメディアを使った展開も多く、やはりそうしたところからの反響は大きかったです。(ABEMA発の)ニュースを他ニュースメディアでも取り上げてもらったりと、かなり数字(で確認できるかたち)として(効果が)上がっている感じがします。

■制作現場も「ABEMAでの戦い方」を意識するように

──ニュース取材においてもABEMAでの配信を意識するようになった、という話がありましたが、番組現場の意識はどのように変わってきましたか

森山氏:(番組を)作っている側も「速報をやるんだ」という“手癖”がついてきた感じがします。緊急ニュースが発生したらまずリニア(生配信)で放送し、そのあとビデオコンテンツも作るという一連の流れが定着しています。

──「ABEMAで流す」ことの意味をはっきりと捉えてきた、ということでしょうか

森山氏:はい。ニュース速報はもちろん、記者会見でも時間を気にせずノーカットで配信したり、ビデオというアーカイブ的な役目を考慮したり、オリジナル番組『ABEMA Prime』ではとがった企画を配信したりと、ABEMAで流す意味というものを技術含め全スタッフが強く意識してきていると感じます。

熊本地震をきっかけに「速報メディア」としての性格を獲得した『ABEMA  NEWS』。ニーズが高まるにつれ、現場でも「ABEMAで流す」ことを念頭においた取材・制作体制へと進化していった点が印象深い。ABEMAは今後「テレビの先のメディア」をどう作っていこうとしているのか。後編では昨今のコロナ禍による影響にも触れつつ、具体的な取り組みについて尋ねる。