04 SEP

フジテレビの海外ビジネスDX革命~中国MIP China2020インタビュー前編

編集部 2020/9/4 08:00

コロナ禍を背景に、海外コンテンツビジネスの商談の場がオンライン上に移り変わっている。世界中で新番組が枯渇し、海外渡航が制限されているなか、そのスタイルが定着しつつある。世界最大級の国際見本市MIPTV/MIPCOMを主催するフランスのリードミデム社が毎年、中国浙江省杭州市内で開催する国際ミーティングイベント「MIP China(ミップチャイナ)」も今年は完全オンラインのかたちで行われ、予想を上回る規模になった。中国アリババグループや欧州大手のプレイヤーなどと国際コープロビジネスを手掛けるフジテレビ総合事業局コンテンツ事業センター早川敬之氏は参加者の一人。中国をはじめとする世界の番組トレンドから海外ビジネスのスタイルまで、コンテンツ市場で今どのような変化が起こっているのか。早川氏に聞いた。

■30分刻みのオンライン商談を1日14件、3日間で42件

今年で4年目を迎えたMIP China。今年は完全オンライン形式で7月28日から31日まで商談会が組まれ、12のタイムゾーンをカバーする28カ国から225名のコンテンツビジネス関係者が参加した。リードミデム社が独自開発したマッチングシステムを用いて、参加者同士の一対一のミーティングをセッティングしたその数は4日間で合計1,756回に上った。

日本の放送局からの参加は今回、NHK、日本テレビ、TBS、テレビ東京、フジテレビ、カンテレが並んだ。フジテレビの早川氏は国際コープロビジネスのエグゼクティブプロデューサーおよびバイヤーの立場で参加し、1日14件、3日間合計42件ものオンライン商談を行った。商談リクエストが集中したこの状況をどのように受け止めたのか。

フジテレビ総合事業局コンテンツ事業センター早川敬之氏

早川氏:オンライン商談は30分刻みでシステム化され、商談相手はイスタンブール、ロス、上海、シドニー、ロンドンと、日本の自宅に居ながら入れ替わり立ち替わりの状態が3日間続きました。苦労した点と言えば、トイレで席を外す時間すらなかったこと(笑)。通信環境によって回線が途切れてしまうことも多少ありましたが、非常に効率の良い商談ができたことに満足しています。これまで海外コンテンツビジネスの商談と言えば、カンヌなど海外マーケット現地まで足を運び、いろいろな国の方と一堂に出会えるリアルイベントで行うのが一般的でした。それが一変し、ワークフロームホームでいろいろな国のいろいろな時差の国の方と次々と「ハーイ」の挨拶から始まる商談は何より新鮮。ビジネスプロセスが革命的に変化したことを実感しました。

オンライン商談でクロージングまで成功するケースが増えていることは各国のバイヤーも口を揃えて話している。既存のビジネススタイルに徹していたテレビ局ほど感じるものなのだろうか。

早川氏:商談相手はヴァイスプレジデントをはじめディレクター以上の責任のある立場の方が多かったこともあり、ゼロベースの話であっても結論に至るまでとにかく早かったです。たとえ初対面の場合でも30分の商談の中で「やろう」となれば、その後にクロージングに向けてさくさく進むといった具合です。30年以上歴史のあるフジテレビの海外ビジネスの中で本当のDX(デジタルトランスフォーメーション)が始まったという印象を強く持ちました。ビジネスパートナーとの出会いがゆっくり進んでいくやり方だけを知っていた身としては、最初からこうだったら良かったのに! と思ってしまうほどです。

■アリババと国際共同制作ドラマ第3弾は三浦翔平主演「時をかけるバンド」

中国をハブにコミュニティを作ることも目的にあるMIP Chinaは大小さまざまな中国のプレイヤーが集まる。初回から提携している中国杭州市のサポート体制が引き続き整い、中国バイヤーの参加が全体の約半分を占めた。杭州市に本社を置くアリババをはじめ中国のビックプレイヤーと共同制作を積極的に進めているフジテレビは中国市場の今をどのようにみているのか。

早川氏:2020年4-6月のGDPがプラスに転じ、主要国で唯一の成長国である中国はエンタメ分野でも購買力旺盛です。日本と一緒にやりたい、投資したいというご要望を実際にいただいています。今回、数の上では42件の商談の中で中国の割合は2割程度と、さほど多くはなかったのですが、有効な商談になりました。中国市場全般で注目している動きもいくつかあります。若者に人気を集める動画配信のBilibiliは今年、ソニーから大型資本を受けています。中国3大動画プラットフォームのiQIYIは他国への進出を高めている状況です。メガプラットフォームはさらに力をつけ、アメリカとの覇権争いが起こり始めている市場の大きなうねりの中で、日本の僕らがいるのです。韓流ほどではありませんが、アメリカ、中国から両勢力から日本も興味をもらっているという状況です。

アリババの動画共有サイトYOUKUと共同制作したドラマ『時をかけるバンド』がフジテレビのFODとYOUKUで8月19日(水)から日中同時配信がスタートしたところでもある。同ドラマは韓国原案をもとに、日本、中国、そしてアジア諸国で各国版のドラマとしてローカライズし、順次制作される大型プロジェクトの日本版。主演は4月クールで話題になった『M』で好演した三浦翔平が今回も音楽プロデューサー役を務める。

日中共同制作ドラマ『時をかけるバンド』で音楽プロデューサーを演じる三浦翔平。現在FODで配信中。

早川氏:アリババとの国際共同制作コンテンツ第3弾の作品になります。エグゼクティブプロデューサーとしての立場で携わり、アリババとの提携はかれこれ3年目。継続的に進めていることで、先方の需要がだいぶ理解でき、日本側から何を提供するとお互いにウィンウィンなるのかということもわかってきました。

■世界70か国と制作するドラマ『THE WINDOW』が8月に無事クランクアップ

英プレミアリーグを舞台にサッカービジネスを描くグローバルプロジェクト作品『THE WINDOW』のキービジュアル。

海外コンテンツビジネスのトレンドのひとつにある共同制作プロジェクトは、コロナ禍においても需要が落ちる気配はみられない。その背景のひとつにビジネスプロセスの中でDXが進んでいることが影響しているのか。

早川氏:撮影そのものは国によって再開したり、再び止まってしまったりと様々。アメリカの多くのスタジオは撮影を止めている状況で、そこには保険の問題が大きく絡んでいます。コロナによって不安定な状況ではありますが、業界の中でDXが浸透し、国際間で進める共同プロジェクトのニーズは高まっています。これには、資金集め、クリエイター、出演者においても水平分業型であることも関係しています。例えば、ビジネス上は多国籍のプロジェクトでも見え方としては韓国ドラマということもあり得る。イギリス資本のアメリカのスタジオがソウルで韓国の役者を起用して撮影し、出来上がった作品はNetflixで韓国ドラマとして配信されれば、そうなるからです。実際にこうした複数国が絡む作品がコロナで加速しています。

早川氏が制作統括の立場で現在、進めている国際共同制作作品のひとつに連続ドラマ『THE WINDOW』もある。この作品はまさにグローバルプロジェクト。日本のフジテレビとヨーロッパ最大の公共放送局ドイツZDFの子会社ZDFエンタプライズ社の企画から生まれ、イギリスを代表する脚本家ジェームス・ペインが英プレミアムリーグを舞台にサッカービジネスの世界を完全オリジナルストーリーとして描き、シリーズの総監督はイギリス人監督で俳優のエイドリアン・シェアゴールド氏、製作はロンドンとベルリンに拠点を置くブギー・エンターテイメントが担当する。

昨年MIPCOM2019で開催されたフジテレビ単独のプレス発表会でもドラマ『THE WINDOW』がフォーカスされた。

早川氏:8月のお盆前に無事クランクアップとなりました。本来のスケジュールでは4月にクランクアップする予定でしたが、コロナの影響で一時期撮影がストップ。今年3月にロンドンの撮影現場に行った直後にヨーロッパでロックダウンが始まり、クライマックスの9、10話を残してばらすことに。全スタッフ、役者を合わせると70か国が関わるプロジェクトで、ビザの問題からスケジュール調整まで予定になかった事態に一時は大騒ぎとなりました。そうこうするうちに7月下旬からベルギーで撮影を再開することができ、ようやくロケを無事終了させることができ、感無量です。来年には皆さんにご覧になってもらえるよう粛々と進めて参ります。

■海外ビジネス売上は前年比増、日本の新作ドラマを求める声が高まる

巣ごもり消費の恩恵を受け、映像コンテンツを視聴する時間が増えたことが日本のみならず世界各国の調査結果から報告されている。商談の場でも好影響を受けているのだろうか。

早川氏:興味深い話を中国の方から聞きました。自宅の2台目以降のデバイスで番組を視聴する方が増えていると。なかでも、日本のドラマは家族みんなで見るよりも、ひとりで見たいと思われる傾向が高いと言われました。そして、新作ドラマを求める需要の高さを改めて実感しています。撮影がストップしている国が多いなかで、制作を開始した日本に声が掛かることが増えています。

一方、コロナ禍で広告市場が落ち込み、日本の民放各社共に第一四半期の決算は特にスポット収入が大幅に減収する結果となった。フジテレビの海外コンテンツビジネスはどのように推移しているのか。

早川氏:海外売上は前年より大幅に上回りながら推移しています。正直なところ昨年よりもこれほど成長するとは予想していなかったのですが、自宅で日本の番組を楽しみたいニーズが高まった結果だと分析しています。特に中国、香港、台湾、東南アジア諸国といったアジア全域で需要が高まっています。コロナ禍でこれまで培ってきた海外ビジネスの仕組み自体が音を立てて変わり、根底から変化してしまった状況でも対応できるプレイヤー同士が今、コンテンツマーケットを強固なものにしていると感じています。

逆境下でフジテレビの海外コンテンツビジネスが伸びているのは、コロナ以前から早い段階でコンテンツ流通市場トレンドである国際共同制作プロジェクトにも乗り出し、進めてきた結果のひとつであると推測できる。後編は世界各国のプレイヤーが集まる見本市を主催するリード・ミデム社のインタビューを中心に海外コンテンツビジネス全般の状況をお伝えする。