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秋の国際コンテンツマーケットも完全オンライン化~中国MIP China2020インタビュー後編

編集部 2020/9/11 09:00

世界展開を目指す番組コンテンツビジネスは今、オンライン上を主戦場とする動きが活発化している。中国浙江省杭州市内で開催される国際ミーティングイベント「MIP China(ミップチャイナ)」も今年は完全オンラインのかたちで行われ、前編記事では参加したフジテレビに話を伺わせてもらった。後編は主催したフランスのリードミデム社マーケット開発ディレクターのテッド・バラコス氏にコロナ禍を背景に変わりつつある国際コンテンツマーケットの今後の方向性を聞いた。

■バイヤー参加数は前年の3倍、60%以上が中国以外から参加

MIP Chinaの主な参加バイヤー

MIP China2020は7月27日の中国杭州市内で行われたオープニングセレモニーから始まり、7月28日から31日の4日間にわたってオンライン商談会が行われた。日本からはセラー、バイヤーを合わせて計12社が参加し、参加者のひとりであるフジテレビ早川氏が報告した前編の通り、中国だけでなく、幅広い地域の参加者とのミーティングも盛んに行われた様子だった。初めてのトライアルながら、成功したものと捉えているのか。

リードミデム社マーケット開発ディレクターのテッド・バラコス氏

バラコス氏:自由に海外渡航ができない状況下でも、コンタクトを取り続けたいというニーズは変わりなくあります。商談の場をオンラインのかたちで提供させてもらったところ、驚いたのはバイヤーの数が前年の3倍に伸びたこと。中国、日本も含めて様々な国のバイヤーが参加してくれました。その結果、バイヤーの60%以上が中国以外の国からの参加となりました。ワーナー・ブラザースのバイヤーは大変満足していただいた様子。「自宅のリビングルームから商談会に参加できることなど想像もしていなかったことだったが、状況に合わせて絶えずチャレンジしていきたい」と、心強い言葉をもらいました。

一方、番組を売るセラーは商談のオンライン化をどのように受け止めているのだろうか。今年もMIP Chinaに参加した関西テレビ東京コンテンツ事業部次長(海外)の佐藤一弘氏に話を聞くと、「カタログやトレーラーを画面共有でみながらの商談はオンラインの方がスムーズではないかと思う反面、初対面のバイヤーとはコミュニケーションの間合いが難しく、リアルの方がやりやすいと感じました。出展料やミーティング設定など過渡期ならではの検討課題はありますが、リアルマーケットが開催できる状況に戻っても、オンラインとのデュアル化は進んでいくとみており、新たなマーケティング手法の研究が必要だと考えています」と答えてくれた。

関西テレビ東京コンテンツ事業部次長(海外)の佐藤一弘氏

緊急措置として始まったオンライン商談だが、今後、海外ビジネスの有効なプロセスに組み込まれていく可能性は高まっていきそうだ。MIP China 2020 オンラインは12月まで主要なトレーニング会議プログラムも計画されている。主に中国参加者向けで浙江省もサポートしていくという。定例開催時期の来年6月に向けて、再び杭州市内現地で参加者が集うことができるようなコミュニティづくりが継続される。

■カンヌMIPCOMは完全オンライン開催に、注目キーノートはNetflix

今年のカンヌMIPCOMは完全オンライン形式で開催される。

リードミデム社は毎年10月に世界最大級の国際見本市MIPCOMをフランス・カンヌ現地で開催しているが、今年はコロナ禍の影響を受けて、完全オンライン形式で行う考えを示している。今年4月開催のMIPTVで初めて導入された新しいデジタルサービスを継承し、「MIPCOM ONLINE+」としてヴァーチャルマーケットが提供される。

バラコス氏:欧州では新型コロナウィルスの影響が続いており、現地開催は中止とさせて頂くが、バイヤーニーズを踏まえた数々の充実したオンライン企画をご提供していきます。「MIPCOM ONLINE+」は洗練されたネットワーキングプラットフォームを特徴とするものです。既にバイヤーの登録人数は600人を超えました。早いペースで参加者が集まっています。コンテンツの購買意欲が高まっている表れのひとつであると分析しています。

注目のキーノート、業界分析を含むカンファレンス・プログラムも企画される。キーノートにはNetflixの共同CEOに就任したばかりのテッド・サランドス氏が決定したところだ。また通常はMIPCOM開催直前の週末に外部のホテルで開催されるキッズ専門マーケットMIP Juniorも「MIPCOM ONLINE+」上で開催され、MIPCOMおよびMIP Junior参加者は「MIPCOM ONLINE+」を11月中旬まで利用できる。

コロナ禍の状況に応じて開催内容の変更が余儀なくされているが、今後の国際コンテンツマーケットの行く末をどのように考えているのだろうか。

MIPCOM注目のキーノート登壇者。左から米俳優、脚本家、監督、プロデューサーのタイラー・ペリー、米Netflix CEOのテッド・サランドス、カナダReflector Entertainment 創設者のアレックス・アマンシオ、英Sky経営責任者のジェレミー・ダロック。

バラコス氏:バイヤー向けスクリーニング会が中心のMIP Junior などの併設専門マーケットは便利なオンライン化が求められていくと思っています。ニーズに応じて対応していきたい。MIP Chinaで提供しているマッチングミーティングはオンライン上でも可能でしたが、1万人以上が参加するMIPCOMではそれを提供することが難しい現実もあります。いずれにしろ、海外コンテンツビジネスにおいてオンライン商談は定着していくものと考えています。5年ぐらい前からオンライン上でも何か企画できないかと検討してきましたが、コロナのパンデミックによって選択の余地なく実施したというのが事実。ただし、今後、ワークフロームホームからオフィスに戻る傾向が高まれば、カンヌ現地に集まり、缶詰状態で参加した方が効率的だと考える向きもあると予想しています。リアルの場だからこそ、サプライズミーティングが発生することもあり、オンラインだけではカバーできないこともあります。時代のニーズに応じてマーケットも変化していきたいと思っています。

最後に日本の参加者に向けたメッセージも預かった。「健康に留意されながら、世界のコンテンツマーケットにできるだけ多くの日本のコンテンツを持ち込んでいただきたい」と話す言葉には期待が込められていると感じた。ここのところ韓流コンテンツに押され気味ではあるが、日本らしいやり方もあるはずだ。引き続き番組コンテンツビジネスの主戦場であるマーケットの動きを注目していく。

【関連記事】フジテレビの海外ビジネスDX革命~中国MIP China2020インタビュー前編